新薬開発を効率化、危険な薬物相互作用を防ぐAIシステム
提案された医薬品の化学構造を予測し、医薬品同士の有害な相互作用を防止できる可能性がある新システムが開発された。有害な薬物相互作用は、患者の死因の上位の1つとなっている。
米国食品医薬品局(FDA)によると、米国では医薬品同士の深刻な相互作用によって、毎年10万人を超える入院患者が亡くなっている可能性がある。しかし、そうした相互作用を避けるために医薬品の開発時に用いられる従来の方法では、多くのコストや労力がかかる物理的な検査や治験を実施し、提案された医薬品と既存の医薬品との間で想定されるすべての化学反応を列挙する必要がある。
新システムは、2種類の医薬品を対象に、それらの間に相互作用があるか、あるとしたらどのような作用なのかを予測する。そのために研究者らはまず、医薬品の3次元化学構造を、ニューラル・ネットワークが読み取れる「SMILES」記法と呼ばれる文字列形式に変換した。SMILESでは、たとえば、メラトニンは「CC(=O)NCCC1=CNc2c1cc(OC)cc2」と表され、モルヒネは「CN1CCC23C4OC5=C(O)C=CC(CC1C2C=CC4O)=C35」となる。
次に、医薬品の既知の相互作用データベースを用いてニューラル・ネットワークを訓練した。訓練をしたシステムは、2つの医薬品が有害な相互作用を及ぼす可能性を予測し、その予測の根拠となる分子の特定の部分を提示する。
研究者が2つの一般的な薬物相互作用データセットを基にシステムをテストしたところ、既存の人工知能(AI)システムの最新の結果より優れた成果が得られた。成果については、医療情報技術企業であるアイキューヴィア(IQVIA)の研究者らによる論文が、2月7日から12日にかけてニューヨークで開催されるアメリカ人工知能学会(AAAI:Association for the Advancement of Artificial Intelligence)の講演要旨集に収録されている。
化学データを分析するための新たな手法は、医薬品や素材の設計などをはじめ、他の多くの用途に応用できる可能性がある。この論文の共著者の一人であるMIT-IBMワトソンAIラボのIBMディレクターであるデイヴィッド・コックス博士は、「現代社会は、化学に大きく依存しています。AIは、人間のサポート役として、医薬品の化学反応、特性、品質を判断する能力を強化できる、素晴らしい可能性を秘めています」と述べている。