KADOKAWA Technology Review
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A Cure for a Childhood Cancer—But Will It Last?

子どもの白血病9割治療
遺伝子療法の厳しい現実

白血病の治療に子どもの免疫システムを遺伝子的に変えるCAR-T療法には劇的な効果がある一方で、治療には危険が伴い、持続性もわかっていない。 by Michael Reilly2016.10.06

実験的治療法「CAR-T」(遺伝的に患者の免疫システムを高める)の登場以前、子どもが初めて急性リンパ芽球性白血病になったら、全てのがんと同じで心配だが、一般的には治療できた。もし再発しても、骨髄移植でがんを消滅できた。もしまた再発すると、大抵は命に関わった。ここわずか数年で人体で実験されたCAR-Tは驚くべき効果があり、他の全ての治療法が効かなかったがんをほとんど一夜で不活性化させた。初期治験によると、90%の患者の症状が緩和されたという。

残念ながら、CAR-T療法には主に2つの問題がある。ひとつは危険性だ。CAR-Tを含む臨床試験で死亡例は珍しくない。しかし多くの患者にとって、潜在的メリットを考えれば治療による致死的作用のリスクは受け入れられる。

CAR-T療法の初期試験を受けた

90%
の人の白血病の症状が緩和された。

もうひとつの主な懸念点は、がんの再発だ。ワシントンポスト紙に掲載された、胸が張り裂けるような記事にあるように、CAR-T治験が始まるまでに、子ども(サポートする家族も同様に)はすでに大変な思いをしている。ワシントンポスト紙が掲載した8歳のエバ・クリスチャンソンの場合、免疫細胞を採取して遺伝子の導入後に体に戻すCAR-T療法を繰り返ししてさえも、がんは消滅しなかった。エバは他の最新式治療を受けてうまくいっているようだ。

「これがうまくいき、彼女に効き続けてもらわなければなりません」と、エバの母ベサニー・クリスチャンソンは涙をこらえながらワシントンポスト紙に語った。

これがCAR-Tの問題だ。実際に強力だが、あまりに新しい治療法のため誰もその効果や永続性を知らない。永続しないとしてもどれくらい持つのだろうか。昨年MIT Technology Reviewが取材したミルトン・ライト三世の18カ月は最長期間の一例だ。

「がんの克服」という表現はとても長く使われているが、もはや成語のようで、偉業を説明する比喩的用語や万能薬のような扱いだ。しかし実際にがんを治療する方法の実用化が迫ってくると、現実ずっと危ういことがわかる。

(関連記事:The Washington Post, “10 Breakthrough Technologies 2016: Immune Engineering,” “Biotech’s Coming Cancer Cure”)

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マイケル・レイリーはニュースと解説担当の上級編集者です。ニュースに何かがあれば、おそらくそのニュースについて何か言いたいことがあります。また、MIT Technology Review(米国版)のメイン・ニュースレターであるザ・ダウンロードを作りました(ぜひ購読してください)。 MIT Technology Reviewに参加する以前は、ニューサイエンティスト誌のボストン支局長でした。科学やテクノロジーのあらゆる話題について書いてきましたので、得意分野を聞かれると困ります(元地質学者なので、火山の話は大好きです)。
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