フェイスブック元CSO語る
「テック企業解体論」は
言論の自由奪う危険な考えだ
巨大な影響力を持ちながら、ヘイト発言やデマを防げないフェイスブックやグーグルに対して、規制や解体を求める声が米国で高まっている。だが、フェイスブックの前最高セキュリティ責任者であるアレックス・スタモスは「言論の自由を奪う危険な考えだ」という。 by Gideon Lichfield2018.10.31
数週間前までフェイスブックの最高セキュリティ責任者(CSO)を務めていたアレックス・スタモスは、2016年の米国大統領選挙後、フェイスブックにおけるロシアの政治的工作活動の追跡を指揮していた。そのスタモスが最近、スタンフォード大学で、スタンフォード・インターネット観測所(Stanford Internet Observatory)の設立を発表した。憎悪や差別発言、プロパガンダ、情報操作に取り組むのが目的で、学術研究者や社会科学者、政策立案者のほかに、大手テック企業に参加を呼び集めている。
多くの人々と同様に、フェイスブックやグーグルのようなテック・プラットホームがパワーを持ちすぎているとスタモスも考えている。だが、こうしたプラットホームを解体しようという動きには異議を唱えている。フェイスブックやグーグルがパワーを持ちすぎているという人たちは、憎悪や差別発言やプロパガンダを抑制するという口実で、自らの権力をより強化しようとしているにすぎない、というのがスタモスの主張だ。
「危険なことです」とスタモスは警告する。民主主義体制の国々でテック企業が言論の自由を制限するようになれば、独裁政権の国々も同様の措置をとるだろう。そうすれば近い将来、「オンラインのあらゆる表現に対する、機械速度でのリアルタイム修正」がテクノロジーによって可能になってしまう。巨大テック企業を掌握しようとして、ビック・ブラザー(ジョージ・オーウェルの小説『1984年』に登場する独裁者)を生み出してしまう危険性があるのだ。では、どうしたらいいのか。スタンフォード大学にあるスタモスの研究室で、その解決策について話を聞いた(インタビューは、内容を簡潔にする目的で要約、編集してある)。
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——最近の主張で、2018年の米中間選挙を外国の干渉から守るのは手遅れだと話していますが、2016年の大統領選挙から得た教訓があるにもかかわらず、そうした事態に陥ってしまった責任は誰にあるのでしょうか?
2016年の大統領選挙で起こったことは、3つあります。1つは、(ロシアの)インターネット調査機関とその関連組織による、偽情報とプロパガンダ運動。2つ目は、情報漏洩を利用した運動で、GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)がDNC(民主党全国委員会)の電子メールシステムに侵入し、(メディアに)嘘の記事を流しました。そして最後が、21の州において選挙システムへの侵入です。
最初の問題は、完全にプラットホームの責任範囲であるため、すでに多くの対策がなされています。何が政治的な広告で問題となるのかを定義し、広告の透明性を確保するとともに、不適切だとされる内容を定義して問題の広告に関する規則を適用しました。
2つ目のGRUによる情報のハッキングと漏洩については、あまり対策が講じられていません。DNCのセキュリティ体制におけるアップグレードはありましたし、選挙運動もより慎重になると思われます。しかし、選挙運動と候補者の間におけるセキュリティ・システム全体としてのアップグレードはないようです。前回ロシアは、予備チームを送り込んでDNCをハックしましたが、今度正式なより強いチームが襲ってきたら対処できるかどうか分かりません。
最後の選挙システムについては、ほとんど何の対策もされていません。(米国では)1万もの選挙管理委員会が投票、開票を実施しており、多くの州では投票に関して確認できる紙の代替物(投票用紙)がないのです(日本版注:米国では電子投票機が導入されている)。あまりに多くの選挙管理委員会が、投票と開票に関する(選挙の)安全を自分たちで管理しなければならない状態で、連邦政府による膨大なリソースの提供はありません。そこが、もっとも脆弱だと思われる部分です。
——では、偽情報とプロパガンダの問題は、ほとんど解決しているのでしょうか?
自由社会において、この問題を取り除くのは不可能です。(米国で)最も重要なのは、広告の透明性だと思います。外国からの干渉の有無にかかわらず、米国の政党、選挙運動、PAC(政治行動委員会:米国選挙における政治資金団体)が、選挙区をかなり小さく分割していることが問題なのです。広告の透明性は良いスタートです。
次に必要となるのは、広告のターゲット設定を制限する連邦法です。インターネット広告のエコシステムには、何千もの企業 …
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