KADOKAWA Technology Review
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Robot, Get the Fork Out of My Sink

「モノを持ち上げられるロボット」の実現はなぜ大騒ぎになるのか?

視覚と操作が改善されれば、ロボットは工場だけでなく一般家庭でも導入されるかもしれない。 by Will Knight2016.10.19

うまくいけば、食器洗いロボットが誕生する

ブラウン大学のステファニー・テレクス助教授は、EmTech MIT 2016で、自身の研究グループによる、ロボットに扱いにくい物体を認識させ、持ち上げさせる能力を教え込むプロジェクトについて説明する。緻密なカメラや効果的な機械学習プロセスを取り入れたロボットが、水が流れる流し台からフォークを持ち上げるのだ。

水が流れるシンクからフォークを持ち上げるような「簡単な作業」は、「ロボット類」にとって大きな飛躍だ。ロボットはいまだに多くの簡単な動作を確実にこなすのに必死の段階だ。特に、見慣れない物体を暗い場所で持ち上げるのに苦労している。テレクス助教授は「たいていのロボットは、ほとんどの場合、物体を持ち上げられません。ロボットに物体を持ち上げさせるのに、私たちは苦労しています」という。

テレクス助教授のプロジェクトでは、産業分野や一般家庭でロボットが導入されるための方法にも焦点を当てている。たとえば、介護ロボットに対する大きな期待が高まっている。手間がかかり、常時の世話が必要とされる状況でも確実に動作するようにプログラミングされれば、介護現場での導入が期待できる。

テレクス助教授の研究チームでは、リシンク・ロボティクスの在庫処分で入手した産業ロボットを利用した。ロボットは腕にカメラが搭載されており、フォークをつかめる。カメラを動かし、さまざまな角度のイメージを組み合わせることで、研究チームは実質的なライトフィール・ドカメラ(撮影後に焦点を合わせられるカメラ)を設計した。このカメラで、光の強度だけでなく、あらゆる光の向きを記録できる。この機能により、撮影風景の3Dモデルが出来上がり、光の反射などの問題を解決できるようになった。

研究チームでは、強化学習と呼ばれる機械学習の手法も取り入れ、ロボットが、見慣れない物体を持ち上げられるように訓練している。強化学習では、ロボットは大きなニューラルネットワークに操作され、プラスの結果につながると考えられるさまざまな物体のつかみ方や強化行動を試みている。強化学習は効果的で、個別に機械内にプログラミングさせるのが非常に困難な、認識経験のない物体を持ち上げる方法を考え出せるようになっている。同様に、テレクス助教授はロボット同士が学習したことを共有できるシステムも開発中で、うまくいけばロボットのトレーニング過程を劇的に縮められそうだ。(“10 Breakthrough Technologies: Robots That Teach Each Other”参照)。

テレクス助教授は、「私たちは、ロボットを置かれた環境に適応させようと取り組んでいます。ロボットが適応能力を身につければ、これまでは不可能とされてきた信頼を得られるでしょう。それからロボットは、適応能力を活用して他の状況も一般化できます」という。

新たなロボットの学習アプローチは、産業分野に急激に進出している。既存のロボット工学企業では、強化学習を活用する製品を開発し、ロボットプログラミングを促進させようとしている(「ファナックがNVIDIAと提携 産業用ロボットに強化学習」)。人工知能(AI)や機械学習を専門とする企業でも、同様にロボットを活用したテクノロジーで急成長が見込まれる新たな分野への参入を狙っている(参照「グーグルの集団思考ロボット まずはドアの開け方を学習中」)。

テレクス助教授は、「私たちはロボットが工場や一般家庭で導入され、働けるようにしたいと考えています。そして、あらゆる展開は物を持ち上げることから始まるのです」という。

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MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。
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