KADOKAWA Technology Review
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AIの未来はハードにある——インテルとエヌビディア幹部が語る
Jeremy Portje
The next AI explosion will be defined by the chips we build for it

AIの未来はハードにある——インテルとエヌビディア幹部が語る

現在の人工知能(AI)の躍進においてハードウェアが果たした役割は非常に大きく、今後起こるであろうのAIのブレークスルーにも大きな影響を及ぼす。インテルとエヌビディアの幹部が語った。 by Karen Hao2019.04.01

人工知能(AI)の次なるブレークスルーは、アルゴリズムではなく、ハードウェア設計によって可能になるだろう——。3月26日に開催されたMITテクノロジーレビュー主催のカンファレンス「EmTechデジタル」で講演したエヌビディア(Nvidia)のビル・ダリー主任科学者の主張だ。「深層学習における現在の革命は、ハードウェアによって可能となったのです」とダリー主任科学者は語った。

その証拠としてダリー主任科学者が挙げたのは、AI分野の歴史である。今日使われているアルゴリズムの多くは1980年代以降のものであり、大量のラベル付きデータを使ってニューラル・ネットワークを訓練するという大躍進が起こったのは2000年代初頭のことだ。だが、GPU、すなわち画像処理用演算プロセッサーが登場した2010年代初めになってようやく、本当の意味での深層学習の革命が始まった。

「私たちは、より高性能なハードウェアを提供し続けなければなりません。そうでなければ、AIの進化は本当に遅れてしまうでしょう」(ダリー主任科学者)。

エヌビディアは現在、3つの大きな研究テーマを探求している。より専門化したチップの開発、深層学習に伴う演算処理の削減、そしてデジタルチップのアーキテクチャではなくアナログチップを使った試みである。

エヌビディアは、特定の演算タスク処理のために設計された高度に特殊化したチップが、多様な種類の演算処理に優れているGPUチップを性能面で上回っていることを発見した。ダリー主任科学者によると、同レベルの性能で効率が20%向上する可能性があるという。

ダリー主任科学者はまた、「枝刈り」の可能性をテストするために、エヌビディアが実施した研究についても言及した。ここでいう枝刈りとは、深層学習モデルの精度を損なうことなく、訓練に必要な演算処理量を減らすという考えだ。同社の研究者らは、同レベルの学習精度を保ちながら、それに伴う計算の約90%を省略できることを発見した。つまり、同じ学習作業をするのに、はるかに小さなチップで事足りるということだ。

最後にダリー主任科学者が触れたのは、エヌビディアが現在試しているアナログ計算である。コンピューターは、数値を含むほぼすべての情報を、 0 または 1 の連なりとして格納する。しかし、アナログ計算では、たとえば0.3や0.7といった、あらゆる種類の値を直接符号化できるのだ。数値をより簡潔に表せるため、はるかに効率的な計算が可能になる。しかしダリーは、アナログ計算が将来のチップ設計にどのように適合するのか、現時点では明確なことは言えないとした。

続いて登壇したインテルの副社長であり、AI部門のトップを務めるナビーン・ラオは、AIハードウェアの進化の重要性を、生物学における進化の役割にたとえた。ネズミと人間は、数億年という時間規模の進化の過程において分岐した、とラオ副社長は述べた。能力が大幅に向上したものの、人間の持っている基本的なコンピューティング・ユニットは、げっ歯類のものと同じなのだ。

同じ原則がチップ設計についても当てはまるとラオ副社長はいう。特殊チップ、フレキシブル・チップ、デジタル・チップ、アナログ・チップ、光チップなど、あらゆるチップは、情報を符号化し、操作するための単なる基板だ。しかし、その基板の設計によって、ネズミと人間のような違いが生まれてくる。

ネズミと同様に、昆虫も人間と同じ基本的なユニットで作られている、とラオ副社長は語った。しかし、昆虫は固定的な構造を有しており、人間はより柔軟な構造を備えているという違いがある。どちらかが優れているわけではないが、異なる目的に合うように進化したのだとラオ副社長は主張した。人間がはるかに高度な能力を持っている一方で、昆虫は核戦争を生き延びることができるだろう。

この原則もまた、チップ設計に当てはまり得る。私たちは現在、ますます多くのスマートデバイスをオンラインに持ち込んでいるが、深層学習モデルを介して処理するために、デバイスのデータをクラウドに送信することがいつでも賢明だとは限らない。むしろ、小型で効率的な深層学習モデルをデバイス自体で実行させるほうが合理的な場合もあるかもしれない。「エッジ(末端の)AI」として知られるこの考え方は、より効率的で特殊化された固定型チップ・アーキテクチャの恩恵を受けられるだろう。一方、「クラウド上のAI」の原動力となるデータセンターは、完全に柔軟でプログラム可能なチップ・アーキテクチャで稼働し、より広範な学習タスクを処理できる。

ラオ副社長は、インテルとエヌビディアがどのようなチップ設計の開発を進めようとも、AIの進化への影響は大きいだろうと述べた。歴史を通じて、個々の文明は独自の素材を自由に使用することで、非常に異なる方法で進化してきた。同様に、インテルとエヌビディアが異なるチップ設計を通して容易にするであろう作業は、AIコミュニティが追求する学習タスクの種類にも大きな影響を及ぼすだろう。

「私たちはたった今、目まぐるしい(チップ設計の)先カンブリア時代の爆発の真っただ中にいます。すべての解決策がうまくいくとは限らないのです」(ラオ副社長)

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カーレン・ハオ [Karen Hao]米国版 AI担当記者
MITテクノロジーレビューの人工知能(AI)担当記者。特に、AIの倫理と社会的影響、社会貢献活動への応用といった領域についてカバーしています。AIに関する最新のニュースと研究内容を厳選して紹介する米国版ニュースレター「アルゴリズム(Algorithm)」の執筆も担当。グーグルX(Google X)からスピンアウトしたスタートアップ企業でのアプリケーション・エンジニア、クオーツ(Quartz)での記者/データ・サイエンティストの経験を経て、MITテクノロジーレビューに入社しました。
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