最近、米国下院議長ナンシー・ペロシの加工された映像が急速に広まったことに、ワシントンの政治家は恐れをなしている。昨年は改ざんされた映像や音声が大きな話題になったが、ペロシ議長が酔っているように見える編集が施された映像は、そうした例の1つに過ぎない。1月には、ドナルド・トランプ大統領を標的とした別の加工映像が最終的にシアトルのテレビで放送された。そして先週は、人工知能(AI)によって生成されたマーク・ザッカーバーグの映像がインスタグラムにアップロードされた(フェイスブックはこの映像を削除しない方針だ)。
2020年の大統領選挙が近づく中、米国連邦議会ではある懸念が高まっている。映像や音声をすばやく簡単に捏造できるようになったせいで、選挙戦が外国工作員の攻撃を受けやすくなり、有権者の信頼が損なわれるのではないかというのだ。
このような状況に対し、米国下院はディープフェイク(AIが作成した合成映像)を専門とした公聴会を6月13日に初めて開いた。並行して、イベット・クラーク下院議員もまたディープフェイクに関する法案を提案する。非営利団体が先週発表した新たな調査報告書でも、ディープフェイクなどの加工映像や画像が拡散した際の対処方針を特に取り上げている。
米国の政治家がこの問題に対処しようとするのは、今回が初めてではない。2018年12月には、悪意あるディープフェイクの禁止を試みる別の法案をベン・サス上院議員が提案した。マルコ・ルビオ上院議員も長年、この種のテクノロジーに何度も警鐘を鳴らしている。しかし、今回のような協調体制が議会全体で見られるのは初めてだ。
ディープフェイク法案
コンピューター科学者やデマの専門家、人権運動家との数カ月の議論を経て誕生した今回の草案には、3つの条項が含まれる予定だ。第1条では、ディープフェイクの作成に使用できるツールを生み出した企業や研究者に対し、捏造した創作物に自動でウォーターマーク(透かし模様)を入れることを義務付ける。
第2条では、優れた改ざん検出機能をプラットフォームに直接組み込むようソーシャルメディア企業に義務付ける。最後の第3条には罰金や、場合によっては懲役刑などの制裁措置を設け、個人を傷付けたり、国家の安全を脅かしたりするような悪意あるディープフェイクを作成した違反者を罰する。特に、合成画像によって評判が傷付けられた場合の新たな法的手段の導入を試みる。
「この問題の影響は政治家にとどまりません」と言うのは、データ&ソサエティ研究所(Data & …
- 人気の記事ランキング
-
- Two Nobel Prize winners want to cancel their own CRISPR patents in Europe クリスパー特許紛争で新展開 ノーベル賞受賞者が 欧州特許の一部取り下げへ
- Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
- A brief guide to the greenhouse gases driving climate change CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
- Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
- Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません