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AI Winter Isn’t Coming

3度目の「人工知能・冬の時代」はたぶん来ない、とバイドゥの主任科学者が確信する理由

過剰な宣伝と熱狂的な投資が続くが、人工知能の専門家は、ハードウェアの進歩により、人工知能の躍進は続くという。 by Will Knight2016.12.08

人工知能は大きな関心を集めており、目まぐるしい速さで、世間の話題をさらうような発表が相次いている。各社はAI専門チームの構築を急いでいる。

ブームは続くのか?

バイドゥ・リサーチの主任科学者で、機械学習とAI分野における重要人物であるアンドリュー・ングは、コンピューター・プロセッサーの設計を改良することが、近い将来の性能向上や飛躍的進歩につながるという。「有難いことに、複数のハードウェア業者が、各々の計画を弊社に提示してくれました。各社の計画は信頼でき、今後数年間に、もっと高い計算力と、もっと速いネットワークが使用できるようになると、強く信じています」とング主任科学者はいう。

従来から、AI分野には、急速な進歩により大きな注目を浴びる段階を経て、投資と関心の冷却期間「人工知能の冬」が訪れてきた。1970年代の最初の人工知能ブームの後、進歩が緩やかになり、政府資金がつきた頃に最初の寒気が訪れた。次は1980年代で、最新の商品が期待以上の商業的成功を収められなかった時だ。

恐らく、現在のAIブームは史上最大だ。人間の役に立つ仕事を機械に教えることに、急速な進歩があったおかげだ。人工知能研究者は、今では、基礎的な研究でも、高額の収入を得るようになった。企業は研究チームを立ち上げるのは、商業効果の高い飛躍的進歩があると期待しているからだ。

Andrew Ng, chief scientist at Baidu Research.
バイドゥ・リサーチのアンドリュー・ング主任科学者

近年の進歩は、強力な「深層学習」システム(「2013年度:進歩したテクノロジー10選:深層学習」参照) が開発されたおかげだ。数年前から、研究者は非常に大きい、あるいは深いニューラルネットワークを訓練できることに気付いた。ラベル付きのサンプルを使い、あらゆる種類の物体を、人間のような精度で認識できるとわかったのだ。この発見が、画像や音声認識などの分野の驚くべき進歩につながった。

ング主任科学者は、システムはさらに強力になるという。既存の深層学習ツールの精度が高まるだけでなく、ニューラルネットワークは構文解釈や言語といった新分野でも使えるかもしれない。

ング主任科学者によると、ハードウェアの進歩も、新しいAIの手法の実用化に役立つ。

「性能が10倍高ければ、やってみたかった実験がいくつかあります」とング主任科学者はいう。たとえば、さまざまな画像処理アルゴリズムを使う代わりに、コンピューターの性能を高めて、あらゆる種類の画像関連タスクを遂行するひとつのアルゴリズムを作れるかもしれない。

今週、世界有数のAIの専門家がバルセロナに集まり、AI業界の重要イベント神経情報処理システム(NIPS)カンファレンスに出席した。このカンファレンスの規模は、数年前の数百人から、今年は6000人以上に膨れ上がった。人工知能に対する大きな関心を感じる。

「過剰宣伝されていることは、間違いありません。でも、これまでの失敗を繰り返さない本当の価値が、根本的な強い原動力になっていると思います」とング主任科学者はいう。

セールスフォースのリチャード・ソーチャー主任科学者(機械学習と言語の著名な専門家)は、大量のデータの有効性と、機械学習アルゴリズムの進歩が、人工知能が進歩し続けるために重要だという。

セールスフォース(営業のリード獲得や顧客とのコミュニケーションを管理するためのクラウドツールを提供している)は、ソーチャー主任科学者が設立したスタートアップ企業メタマインドを年初に買収し、画像認識システムなどのAIに力を入れるようになった。

これまで、機械学習のデモンストレーションは、いくつか大企業による消費者市場に集中していた、とソーチャー主任科学者はいう。だがAIをもっと普及させれば、非常に大きな効果をもたらすという。

「15万社が、機械学習によって、セールスフォースを1%効率的に使えるようにすれば、その効果は直接米国のGDP(国内総生産)に現れるでしょう」

ソーチャー主任科学者は、機械学習を産業界で使うことで、AIに対する関心をもうしばらく維持できると信じている。

「そんなに寒い人工知能の冬は想像できませんよ」

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MITテクノロジーレビューのAI担当上級編集者です。知性を宿す機械やロボット、自動化について扱うことが多いですが、コンピューティングのほぼすべての側面に関心があります。南ロンドン育ちで、当時最強のシンクレアZX Spectrumで初めてのプログラムコード(無限ループにハマった)を書きました。MITテクノロジーレビュー以前は、ニューサイエンティスト誌のオンライン版編集者でした。もし質問などがあれば、メールを送ってください。
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