KADOKAWA Technology Review
×
現時点でCOVID-19にもっとも有効な治療薬はどれか?
Getty Images
Which Covid-19 drugs work best?

現時点でCOVID-19にもっとも有効な治療薬はどれか?

新型コロナウイルス感染症の流行が始まってから3カ月が経ち、治療薬の臨床試験結果が報告され始めている。しかし、「特効薬」はまだ発見されていない。 by Antonio Regalado2020.03.26

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の治療薬開発のための綿密な臨床試験の結果が公表されはじめているものの、いまだ治療薬は見つかっていない。

今年1月、新たな呼吸器疾患である新型コロナウイルス感染症が広く拡大しはじめ、(中国に始まり、続いて米国、イタリア、フランスの)医師は、他の治療目的で使用されている、安全性がある程度証明済みの既存薬を用いた臨床試験を開始した。最初にアウトブレイクが確認されてから3か月経った現在、第一陣の綿密な臨床試験(薬が実際に新型コロナウイルス感染症に効くかどうかを調べる研究)の結果が公表され始めている。これまでに3件の臨床試験結果が報告されており、そのいずれもが抗ウイルス薬に関する臨床試験だ。

集中治療室(ICU)に送られる患者はあらゆる治療を切望しており、米国での医薬品の需要は急増するとみられる。確認された感染者が3万5000人を超えたことに加え、3月23日以降はこの2倍以上の人に、咳や発熱、息切れなどの典型的な症状が現れる可能性が高い。

これまでのところ、新型コロナウイルス感染症の承認薬は存在しないため、重篤な患者への主な治療法は投薬ではなく、酸素療法、人工呼吸器による呼吸補助、および対症療法となっている。

全体として、ビタミンCから漢方薬に至るまで、あらゆる薬の効果を確かめる多数の薬物試験が実施されている。コンサルティング企業のセル・トライアルズ・データ(Cell Trials Data)がまとめた臨床試験リストによると、これまで中国を中心とした医師から250件以上の新型コロナウイルス感染症研究が登録されており、2万6000人の患者が募集されている。米国のバイオ製薬企業であるギリアド・サイエンシズ(Gilead Sciences)が開発した実験的な抗ウイルス薬「レムデシビル」関連の研究など、大規模で重要ないくつかの臨床試験の結果も、あと1カ月もすれば報告されるかもしれない。

これまでに発表された治療薬の臨床試験の結果報告を紹介しよう。

クロロキンまたはヒドロキシクロロキン

大げさな報道:ドナルド・トランプ大統領は、抗マラリア薬であるクロロキンやヒドロキシクロロキンについて、新型コロナウイルスに対して「とてつもない可能性」があると称賛した。「非常に期待できる」と語ったトランプ大統領は、「(これらの薬が)ゲームチェンジャーになる可能性がある。そうならないかもしれないが」と付け加えた。

ヒドロキシクロロキンとアジスロマイシンの組み合わせは、医学史上最大のゲームチェンジャーになる可能性がある。米国食品医薬品局(FDA)は行動を起こした。ありがとう!願わくは両方とも…..

— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2020年3月21日

報告書: 新型コロナウイルス感染症の治療薬としてのヒドロキシクロロキンとアジスロマイシン:非盲検・非無作為化臨床試験の結果

データ:フランスのマルセイユにある感染症研究所(IHU-MÉDITERRANÉE INFECTION)のフランス人医師グループは3月上旬、新型コロナウイルス感染症患者の治療において、90年前に初めて合成された抗マラリア剤クロロキンの一種であるヒドロキシクロロキンを試験投与した。ヒドロキシクロロキン200ミリグラムを1日3回、10日以上かけて26人の患者に投与し、その患者の一部には抗生物質アジスロマイシンも投与した。報告書によると、試験開始から6日後には、治療を受けた患者は、同治療を受けなかった別の医療センターの他の患者よりも体内のウイルスが少なかったという。この臨床試験は、対象となる被験者数が少なく、綿密に計画された試験ではないため、結論の説得力は弱い。しかし、クロロキンは中国でも試され、効果があったと噂されている。

では、ヒドロキシクロロキンは効果があるのだろうか?効果があると断言できるほど十分な証拠がないというのが、科学者の総意だ。米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)所長のアンソニー・ファウシ博士は、ホワイトハウスで開かれた記者会見で、「症例報告は事実かもしれませんが、症例の報告に過ぎません」と語った。「対照臨床試験の形式で実施されたものではありません。したがって、この結果から断言できることは何もありません」。

現在、新型コロナウイルスの感染者が最も多く発生しているニューヨーク州のアンドリュー・クオモ知事は、他に選択肢がない状況で、ヒドロキシクロロキン7万回分とクロロキン75万回分、およびアジスロマイシン(商品名「ジスロマック」)を確保したと語った。クオモ知事は3月22日に、「今週火曜日に臨床試験が始まります」と語った。「効果が見込める十分な根拠があります。大統領はFDAに動いてもらうよう要請し、FDAはクロロキンの拡大使用を承認しました」。

クロロキンは心拍リズムに悪影響を与えるリスクがある。処方箋なしで誰もが服用すべき薬ではない。

ファビピラビル

大げさな報道:3月17日、中国当局は日本で開発された抗ウイルス薬「ファビピラビル」について「明らかに効果がある」と語ったと、ニュースメディアが伝えた。

Patient being discharged from Leishenshan Hospital to observational facility.
武漢市の雷神山病院から退院して観察施設へ移される患者
AP Images

報告書: 新型コロナウイルス感染症に対するファビピラビルとアルビドールの比較:無作為化臨床試験

データ:富山化学工業(現:富士フイルム富山化学)が開発した抗ウイルス薬のファビピラビルは、有望な薬としてトップニュースで伝えられたが、報告書を見ると、中国の武漢大学の医師グループの主張はより控えめだ。臨床試験は、湖北省周辺の240人の「普通の」患者(肺炎に罹患していたが重症ではなかった患者)を対象に実施された。半数にファビピラビル、残りの半数にロシアで使用されている抗ウイルス薬のウミフェノビル(商品名「アルビドール」)を投与し、どちらのグループが早く回復するかを観察した。結果として、ファビピラビルを使用した患者グループは発熱と咳が早く解消したが、各グループで酸素または人工呼吸器が必要になった患者数はほぼ同じだった。この発見に基づいて、この2つの薬であればファビピラビルの方が「好ましい」と結論付けられた。

日本では「アビガン」の商品名で知られているファビピラビルは、もともとはインフルエンザ治療を目的に合成されたもので、ウイルスが自身の遺伝物質を複製するのを妨ぐ阻害薬である。

ロピナビルとリトナビル

大げさな報道:医師は、先進的な抗HIV薬がすぐに効果を証明することを期待している。

NIAID

報告書: 重度の新型コロナウイルス感染症で入院した成人患者を対象としたロピナビル・リトナビル配合剤の臨床試験

データ:これまでの中で、もっとも綿密に計画立てられた新型コロナウイルス感染症治療に関する最大規模の研究だったが、治療効果は発見されなかった。中国の医師グループは1月に、無作為に抽出した肺炎の患者199人を対象に、ロピナビルとリトナビルを1日2回2週間投与、または標準治療の提供のみをした。そして、回復や退院をした患者を観察した。残念ながら、この治療の効果は何も発見されなかった。患者の20%近くは死亡した。それでも同研究チームは、米バイオ医薬品企業アッヴィ(AbbVie)から「カレトラ」という商品名で米国で販売されているロピナビル・リトナビル配合剤が、症状のそれほど重くない患者に効果があるかもしれないと考えている。

ここで鍵となる薬は、プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)阻害剤のロピナビルである。実験室や動物実験で、中東呼吸器症候群(MERS)の病原体であるMERSコロナウイルスに対して効果があることが示されている。リトナビルは、体内でのロピナビルの薬効を高めるように作用する。

人気の記事ランキング
  1. We’re not going back to normal 「新型コロナ後」の世界は どう変化するか?
  2. A supermassive black hole lit up a collision of two smaller black holes ブラックホールの合体を光で初観測か、カリフォルニア工科大
  3. No, coronavirus apps don’t need 60% adoption to be effective 日本でも始まる新型コロナ追跡アプリ、「6割普及」の正しい捉え方
  4. The startup making deep learning possible without specialized hardware GPU不要、汎用CPUで高速深層学習を実現するMIT発スタートアップ
アントニオ レガラード [Antonio Regalado]米国版 医学生物学担当上級編集者
MIT Technology Reviewの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるかについて追いかけ、記事を書いています。2011年7月にMIT Technology Reviewに参画する以前はブラジルのサンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス誌や他の刊行物向けに記事を書いていました。2000年から2009年にかけては、ウォールストリートジャーナルで科学記者を務め、後半は海外特派員を務めていました。
コロナウイルス感染症(COVID-19)

新型コロナウイルス「SARS-CoV-2」を原因とする新型コロナウイルス感染症「COVID-19」が猛威を振るっている。パンデミックによって世界はどう変わるのか? 治療薬やワクチンの開発動向から、各国の政策、経済への影響まで、MITテクノロジーレビューならではの多角的な視点で最新情報をお届けする。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. We’re not going back to normal 「新型コロナ後」の世界は どう変化するか?
  2. A supermassive black hole lit up a collision of two smaller black holes ブラックホールの合体を光で初観測か、カリフォルニア工科大
  3. No, coronavirus apps don’t need 60% adoption to be effective 日本でも始まる新型コロナ追跡アプリ、「6割普及」の正しい捉え方
  4. The startup making deep learning possible without specialized hardware GPU不要、汎用CPUで高速深層学習を実現するMIT発スタートアップ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る