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MIT、簡易型人工呼吸器の設計図をオープンソースで公開へ
AP Photo/David J. Phillip
An MIT team hopes to publish open-source designs for a low-cost ventilator

MIT、簡易型人工呼吸器の設計図をオープンソースで公開へ

新型コロナウイルス感染症の拡散によって人工呼吸器が世界的に不足する中、MITの研究者チームは既存の蘇生バッグを使った簡易的な人工呼吸器の設計を公開を目指している。 by James Temple2020.04.01

マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究チームは、低コストの人工呼吸器の設計図をオープンソースとして公開したい考えだ。実現すれば、重篤な呼吸器障害に苦しむ新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者を救えるかもしれない。

この装置は、バッグ・バルブ・マスク(蘇生バッグ)にモーターを装備し、自動的に圧縮するようにしたもの。バッグ・バルブ・マスクは、救急隊員が呼吸困難の患者を救助するために使う手動蘇生装置で、入手は難しくない。新型コロナウイルスの症例拡大に伴い、人工呼吸器の不足が各地で懸念される中、MITチームが公開する設計図は、ここのところエンジニアや医学生、一部の愛好家の間で増えている間に合わせの人工呼吸器を作ってみたり、その仕様を共有したりする動き(品質や安全性については不明だが)に光を当てることになりそうだ。

MITチームはWebサイトで「MIT緊急対応型人口呼吸器プロジェクト(MIT Emergency Ventilator Project:E-Vent)」の立ち上げを発表した。Webサイトによると、MITチームは、米国食品医薬品局(FDA)に装置を提出しており、「緊急使用許可権限(Emergency Use Authorization:EUA)」の下での迅速な審査を求めているという。MITテクノロジーレビューは、同チームが装置を豚で試験するつもりだとの報告を受けたが、3月24日時点で結果は分かっていない。

MITチームが「手動蘇生装置を自動的に動かすことで、新型コロナウイルス感染症患者に対して人工呼吸を安全に施すことは可能なのか」というプロジェクトの基本的な質問に完全に答えているかどうかも、まだ分かっていない。

もしこの機器がうまく機能するなら、設計図や試験結果、関連する医療情報を広く公開することで、必要な製造能力や専門知識を備えた人が、安全かつ手ごろな価格の信頼できる人工呼吸器を製造できるようになる。ただし、MITチームはWebサイトで、装置の操作には訓練を受けた医療従事者の監督が必要であると強調している。さらに、「機能性、適応性、臨床的有効性の観点から、FDA承認の集中治療室用人工呼吸器の代用にはならない」とも説明する。

Webサイトには「MIT E-Ventは、人工呼吸器の供給量が限られる現状を緩和したり、生死に関わる状況で他に選択肢がない場合に有用性があると考えられる」との説明もある。

E-Ventプロジェクトの起源はおよそ10年前、MIT精密機械設計コースの学生グループがボストン大学医療センターのユッシ・ソーコネン准教授と共同で、同装置の原理版の試験、開発改良に関わったことにさかのぼる。学生グループは装置についての論文を発表したが、製造には漕ぎ着けなかった。

当時は主に、開発途上国のへき地向けのツールとして設計された。開発途上国では、慢性呼吸器疾患を抱える患者が多いにも関わらず、人工呼吸器へのアクセスが限られている。だが、MITの学生グループは当時から、大規模なパンデミックが発生した場合には同装置が米国でも重要な役割を果たす可能性があると指摘していた。現在起こっているようなパンデミックである。

当時、学生グループはこの装置の価格を約100ドルと見積もっていた。これに比べ、病院用の標準的な装置は数万ドルもする。

現在のMITチームはこの元の設計を参考にしたが、もうひと手間かけて、この装置を第三者がより簡単かつ確実に製作して使用できるようにした。MITのWebサイトでは、新しいバージョンは金属フレーム製で堅牢であることにも触れている。

イタリアや中国、イランで新型コロナウイルス感染症のアウトブレイクが発生した後、人工呼吸器の増産に向けた新たな取り組みが始まっている。これらの国ではアウトブレイク後に医療システムに過剰な負荷がかかり医療従事者はトリアージ(治療の優先度を決定する選別)の実施を迫られていると伝えられている。ニューヨーク州とワシントン州の当局者は、両州で人工呼吸器が危機的に不足する可能性があると述べている。

ジョンズ・ホプキンス大学健康安全保障センターの概算によると、2月時点で、米国には利用可能な人工呼吸器が17万台近くあった。だが、1918年のインフルエンザ(スペインかぜ)の大流行と同じくらい深刻なアウトブレイクが起これば、74万台以上が必要になる可能性もある。

既存メーカーは、迅速に増産する方法を探している。ワシントン州ボセルに本拠を置く人口呼吸器メーカーのヴェンテック・ライフ・システムズ(Ventec Life Systems)は、感染拡大防止を目指す民間の連携プログラム「ストップ・ザ・スプレッド(StopTheSpread.org)」の一環で、自動車大手ゼネラルモーターズ(GM)と協業して生産拡大を図っている。同様に、GEヘルスケア(GE Healthcare)も、フォードと協働して人工呼吸器の増産に取り組んでいる。

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ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
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