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MITテクノロジーレビューの誌面で振り返る、感染症との戦い
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Pandemics through the decades

MITテクノロジーレビューの誌面で振り返る、感染症との戦い

人類はこれまで幾度となく感染症の大流行によって生命を脅かされてきた。創刊120年以上の歴史を持つMITテクノロジーレビューの記事の中から、感染症との戦いについて考察した記述を紹介しよう。 by TR Staff2020.04.28

ウイルス性の感染症は、そこに人間の協力がなければテクノロジーが役に立たないことをいつも思い出させてくれる。ここ数十年のMITテクノロジーレビューの記事から、感染症の大流行に関して書かれた記述を抜き出してみた。

June 1956

1956年6月号:「歴史上最初の伝染病大流行」から

記録に残る歴史の始まりから、世界の人々は恐ろしい伝染病のエピデミック(局地的な流行)に幾度となく苦しめられており、人類滅亡に近い危機に陥れたものもいくつかあった。その中でも一般的に最悪と考えられているのはいわゆる黒死病(ペスト)である。この病気は14世紀後半のほとんどにわたって、当時の世界全体を荒廃させた。

範囲という点で黒死病より大規模なエピデミックあるいはパンデミック(世界的な流行)を引き起こしたのは、その約600年後に発生した20世紀のインフルエンザ大流行であった。1918年5月または6月にヨーロッパで始まり、3度にわたる感染の波が文字通り世界中を駆け巡った。実際に、このときのインフルエンザ大流行による総死亡者数は、黒死病を上回った可能性が高い。

October 1995 cover

1995年10月号:「ウイルスのように考える」から

HIVの発見には3年近くかかったにもかかわらず、重症急性呼吸器症候群 (SARS)の原因が突然変異したコロナウイルスであることを発見するのに2週間もかからなかったのはなぜだろうか? そこには、より進んだテクノロジーやウイルスの標的が分かりやすかったことなど、多くの理由が存在する。だが、SARS研究者たちによる前例のない水準の世界規模でのコミュニケーションを軽視してはいけない。

SARSの病原体特定における世界的研究ネットワークの成功は、研究者たちが個々の研究所における特許や栄光に対するビジョンをそっちのけにして、研究をウイルスのように振る舞わせることによってもたらされた、大きな見返りの一例だ。結局のところ、免疫が低下することによって発症するSARSのような日和見感染症を引き起こすウイルスの特徴は、急速に広がる感染力にある。これに対応するには、ウイルス同様のスピードで情報とイノベーションを広める必要がある。

July 2003 cover

2003年7/8月号:「感染症の制御」から

こうしたことは政治的境界や国境を越えた世界規模の問題である。世界のあらゆる場所で感染が明るみに出て、数日あるいは数週間で大陸間を伝播する可能性がある。複数の専門家グループは、それを十分に認識したうえで、新たな感染を発見する監視システム、つまり「早期警告システム」が防御の重要な最前線であると結論付けている。しかしこれまでのところ、そのようなシステムの実現にはほど遠い。

現時点で人類は、一連の圧倒的な感染症の前に脆弱なままである。世界的な統一された監視システムもなければ、対応のための統一されたシステムもない。感染症の脅威は過去のものであるという誤った考えを持ち、気の緩みから感覚が麻痺してしまっている人たちがいる。おそらくは、人々を守るのに必要なシステムの構築が困難すぎると感じて、敗北感から同じように麻痺してしまっている人たちもいる。しかし、不完全なシステムであっても、まったくないよりはマシなのである。

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