KADOKAWA Technology Review
×
新型コロナ、致死率は0.2%未満か? シリコンバレーで抗体検査
Justin Sullivan / Getty Images
Up to 4% of Silicon Valley already infected with coronavirus

新型コロナ、致死率は0.2%未満か? シリコンバレーで抗体検査

スタンフォード大学の研究チームがシリコンバレーの住人3300人を対象に血液検査を実施したところ、推定2.5%から4.2%が新型コロナウイルスにすでに感染しているとの結果を得た。確認されている感染者の50倍以上となり、致死率は従来の予測よりも大幅に低い可能性がある。 by Antonio Regalado2020.04.20

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の正確な拡大を追った調査結果にはばらつきがある。米国カリフォルニア州サンタクララ郡で実施された調査によると、新型コロナウイルスはこれまで考えられているよりも広く拡散しており、それほど致死率も高くないという。

サンタクララ郡は世界のテクノロジーの中心地であるシリコンバレーの大半を含む地域で、一流ベンチャーキャピタル企業やインテル、エヌビディアの本社などがある。この調査(査読前論文)では、サンタクララ郡の住人3300人の血液を採取し、SARS-CoV-2に対する抗体の有無を調べた。

パンデミック懐疑論者であるスタンフォード大学のジョン・ヨアニディス教授ら今回の研究報告の著者によれば、サンタクララ郡の実際の感染者は確認されている数を大幅に上回る50倍以上で、感染者の致死率は0.2%に満たないという結論が導き出された。

スタンフォード大学の研究チームは、今回の研究は「状況が急速に変化するパンデミックの最中に、米国の主要な1つの群で、新たに入手可能になった検査キットを利用して地域ベースで実施された最初の大規模な有病率調査」であると説明する。

このような有病率データは、最終的には、新型コロナウイルスがどれほど致命的なのか大局的な見方を提供してくれるはずだ。というのも、感染に気づいていない人の数が増えれば、それだけ最終的な致死率は低くなるからだ。

無症状の感染者を検出できる抗体調査で得られたデータは、正反対の結論を引き出したい人たちにも注目されている。一方のグループはこの調査でパンデミックの恐怖が誇張されていることが証明されるだろうといい、別のグループはウイルスと絶え間なく戦い続けなければならないという。

イェール大学の医者で社会学者であるニコラ・クリスタキス教授は、今回の取り組みを「非常に価値のある情報を含んでおり、うまく実施された研究です。この情報を他で得られるデータと照らして結果を割り出すことができます」と述べる。その上で、「有病率は私が予想していたよりも低い。つまり、病原体がこの地域でさらに拡散する可能性があることを意味する、悪いニュースです」と付け加えた。

シリコンバレーの中心で実施

研究チームはフェイスブック広告でボランティアを募り、4月の第1週にドライブスルー方式で血液を採取、検査を実施した。その結果、1.5%がウイルスへの抗体を持っていることが分かった。この数字は、現時点での症状はなくても、ある時点で新型コロナウイルスに感染していたことになる。

同チームは、検査が常にうまくいくとは限らない(誤って陰性が出る場合もある)ことを考慮し、さらに調査対象者の選択バイアスを修正した。その結果、実際には住人の2.5%から4.2%、人口200万人の郡内では8万3000人ほどが、新型コロナウイルスにすでに感染していると推定した。

サンタクララ郡ではその時点で約950人のみの感染が確認されていた。今回の調査は、公式記録が示す「暫定的な感染率」の50倍から85倍も多くの人々が実際には感染していたことを示唆している。

santa clara county ad for covid-19 study
4月にサンタクララ郡の住人を対象にしたフェイスブックの広告で、新型コロナウイルス感染症の血液検査を受けるボランティアを募集した

「サンタクララ郡における SARS-CoV-2抗体の有病率は、感染が確認された症例数よりもはるかに広がっていることを意味します」。今回の研究報告の著者であるエラン・ベンダビッド准教授(集団医学)や、公衆衛生の研究者であるビアンカ・ムラーニーらは述べている。

このデータはサンタクララ郡の中心で急速に広がる新型コロナウイルス事情を物語っている。症状がない、医者に行っていない、検査が受けられない、まだ症状が出ていないなどの理由で、多くの人が診断されないままになっている。この地域で最初に感染者が報告されたのは1月31日だった。

今回の報告書の共著者であるスタンフォード大学のヨアニディス教授(医療統計学)は、新型コロナウイルスは人々が思っているほど恐ろしいものではないかもしれず、ウイルスと戦おうとして経済を壊滅させるのは「大失敗」になりうると3月に主張して物議を醸した

研究報告の著者らは、データは少なくとも、最初の点を証明する助けになると主張する。つまり、検出されていない感染が予想通りに拡大しているのであれば、新型コロナウイルス感染症によるサンタクララ郡の致死率は0.2%未満、つまり他の予測のおよそ5分の1から10分の1かもしれないということだ。

サンタクララ郡の新型コロナウイルス感染症関連のダッシュボードには、4月17日の時点で確認された症例数は1833、死亡者数は69人と表示されている。

サンタクララ郡の新型コロナウイルス感染症関連のウェブサイトには、2020年4月17日の時点での感染者は1833人、死亡者は69人と示されたが、実際の感染者数はもっと多い可能性がある

サンタクララ郡で得られた数値は、中国の武漢での抗体あるいは「セロコンバージョン(抗体が血清中に検出可能になること)」の検出比率とおおよそ近い。ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載された記事によると、武漢のある病院の8000人の受診者や職員の間で有病率は約2.5%だった。つまり、この病気を検出して抑えるために多大な努力をしている武漢では、公式に報告されているよりも約5倍も多くの人々が感染しているということだ。

多くの但し書き

スタンフォード大学のチームは、今回の結論は抗体検査の正確性に左右され、検査は確実ではないと警告する。利用した検査が想定よりも正確でなければ、結論に大きく影響し、否定される場合もあると著者らは述べている。検査のボランティア募集の広告に応じたのは、フェイスブックのユーザーであり、車を持っている人々だ。検査を受けようとした人々が、普通の人よりも新型コロナウイルス感染症の症状を持っている傾向が強かった可能性もあり、それによって結果が水増しされたのかもしれない。また、検査に応募した人々は女性の比率が高く、サンタクララ郡で確認された新型コロナウイルス感染症患者の30%以上を占めるヒスパニック(スペイン語系住民)は10%未満に過ぎなかった。

カリフォルニア州で最も裕福な郡の1つであるサンタクララを基に、その他全国について推定するのも難しい。新型コロナウイルスが均一には広がっていないということはすでに分かっている。ニューヨーク市は ホームレスや養護施設の入所者、受刑者など抵抗力の弱い集団に見られるように大きな打撃を受けている。こうした人々はすべて、新型コロナウイルスが蔓延する可能性の高い環境で生活している。

たとえば、マンハッタンで2つの病院の産科病棟が、出産予定のすべての女性を検査することにした。妊娠した215人の母親はいわば無作為抽出のサンプルとなった。検査の結果、15%が新型コロナウイルスに感染していることが分かったが、多くの女性が検査の時には症状がなかった。使用されたのは遺伝子検査だった。遺伝子検査は現在の感染している人を検出する最も正確な方法と考えられているが、すでに回復している人は検出できない。

ボストンのあるホームレス施設でも遺伝子検査を使って408人の入所者を検査したところ、感染が広がっていることが分かった。35%以上が検査で陽性と示されたのだ。一方で、アイスランドの研究者が遺伝子検査を実施したところ、住民全般の現在の感染率は1%未満であった。

米国全体ではすでに3万人以上が新型コロナウイルス感染症で死亡している。どの国よりも多く、今回の血液調査を朗報とは見なすことは難しい。たとえ、サンタクララ郡での調査が正確で、多くの人が考えているよりも致死率が低いとしても、新型コロナウイルス感染症がその他の地域の住人の間に広がれば、死亡者の数は衝撃的なものになるだろう。3月から米国の大部分で異例の自宅待機処置がとられているのはそのためだ。

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

 

人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
10 Breakthrough Technologies 2024

MITテクノロジーレビューは毎年、世界に真のインパクトを与える有望なテクノロジーを探している。本誌がいま最も重要だと考える進歩を紹介しよう。

記事一覧を見る
人気の記事ランキング
  1. Why it’s so hard for China’s chip industry to become self-sufficient 中国テック事情:チップ国産化推進で、打倒「味の素」の動き
  2. How thermal batteries are heating up energy storage レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
  3. Researchers taught robots to run. Now they’re teaching them to walk 走るから歩くへ、強化学習AIで地道に進化する人型ロボット
気候テック企業15 2023

MITテクノロジーレビューの「気候テック企業15」は、温室効果ガスの排出量を大幅に削減する、あるいは地球温暖化の脅威に対処できる可能性が高い有望な「気候テック企業」の年次リストである。

記事一覧を見る
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る