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普及率世界一のアイスランド、追跡アプリは決め手になったか?
Guilhelm Velut on Flickr, CC BY 2.0
Nearly 40% of Icelanders are using a covid app—and it hasn’t helped much

普及率世界一のアイスランド、追跡アプリは決め手になったか?

アイスランドが新型コロナウイルス感染症対策に用いている自動接触者追跡アプリは、国民全体の40%近くがダウンロードし、世界一高い普及率を達成している。しかし、追跡対策を監督している調査官によると、感染症封じ込め対策の決め手にはならなかったという。 by Bobbie Johnson2020.05.13

2月28日にアイスランドで新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染が初めて確認されたとき、組織は一丸となってすぐに動き出した。

アイスランドでは当時すでに、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した可能性の高い人の検査を始めていた。現地のバイオテック企業、デコード・ジェネティクス(DeCode genetics)のおかげだ。最初の感染者が確認されるとすぐに、非常に大規模な検査が始まった。一方、政府はすぐに接触者追跡チームを作り、陽性と診断された人への聞き取りや接触者の追跡に乗り出した。

数週間も経たないうちに、アイスランド人は別のハイテクツールも自由に使えるようになった。政府の支援で開発された自動追跡アプリ「ラクニング(Rakning) C-19」である。

4月上旬に運用が始まったラクニングC-19は当初、「感染の追跡を容易にする」として称賛された。アプリはユーザーのGPSデータを追跡し、利用者が滞在した場所の記録を収集する。許可を得た調査員は、このデータに基づいて陽性と診断された人が感染症を広げていないかどうかを調べることができる。

ラクニングC-19はすぐに普及した。 MITテクノロジーレビューの「コビッド・トレーシング・トラッカー(Covid Tracing Tracker)」によると、世界の接触者追跡アプリの中でもっとも普及率が高く、アイスランドの総人口36万4000人のうち38%がダウンロードしている。

しかし、早期に配布が始まり、広く普及したにもかかわらず、電話のような人手による追跡と比較すると、ラクニングC-19がアイスランドのコロナ感染症の対応に与えた真の影響は小さいという人物がいる。

「このテクノロジーは多少なりとも、役には立ちます。しかし、人手による追跡と合わせて良い結果を出せます。いくつかの場合に有用なことが証明されていますが、決定的な対策にはなりませんでした」と語るのは、アイスランド警察で接触者追跡を監督しているギェストゥル・パルマソン調査官だ。

技術的な限界

パルマソン調査官が新型コロナウイルス追跡チームに加わったのは、最初の感染者が判明した10日後、国内の感染者数が60人台になったときだ。同調査官は、自動追跡のデータは有効な場合もあるが、パンデミックの技術的な解決策を切望している人々はその効果を過大評価しているという。

「評価したい気持ちは理解できます。アプリは買えますからね。でもはっきりとさせたいのですが、人手による追跡も勝るとも劣らず重要です」。

同調査官の意見は、現在独自の自動接触者追跡サービスに取り組んでいる他の国々にとって警告になるはずだ。多くの政府はまだ独自のアプリの開発初期段階か、アップルとグーグルが共同開発している未リリースのテクノロジーを基にしたサービスを構築している段階にある。

アップルとグーグルの大規模なテクノロジーによって、追跡アプリが直面している社会的および技術的な障害をいくつか克服できると期待する人は多い。しかし、社会的な結束力があり、地理的に孤立したアイスランドのような小さな国でも、追跡アプリの普及率は38%にしか達していない。このことから考えて、他の国の取り組みで必要な普及率を達成するのは非常に難しいだろう。

その他の要因

それでもアイスランドは、新型コロナウイルス感染症の拡大を抑えて、アウトブレイクをほぼ制御できている。現在のところ、確認された感染者数はわずか1800人強、死者数は10人だ。この数週間、感染者数はほとんど変わっておらず、4月19日を最後に新型コロナウイルス感染症による死者は確認されていない。

アイスランドは他国のような抜本的な社会政策の多くを実施しておらず、そのアプローチは若干批判を呼んでいるにもかかわらず、良い結果が出ている。国内では移動や集会の規模こそ制限されているが、小学校やレストランは通常通りで、社会的距離と「バブル」戦略を融合し、クラスや職場は互いに離れた個別のユニットに分割されて運営されている。

5月に確認された新型コロナウイルス感染症の感染者数は、現時点でわずか3件だ。

パルマソン調査官は、早期に積極的な検査、追跡をし、隔離措置を取ったことが功を奏したのではないかと述べる。

「私たちは市民との協働モデルで作業をしています。法制度があり、罰金を科すこともありますが、基本的には何もしていません。私たちは、市民が決められたガイドラインに従うと信じています。だからこのモデルが見事にうまくいっているのだと思います」(パルマソン調査官)。

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サンフランシスコを拠点に、主に特集と紙の雑誌の編集を担当しています。前職は、数々の受賞歴があるオンライン・マガジン「マター(Matter)」の共同創設者。ガーディアン紙ではテクノロジー記者と編集者を務めていました。
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