KADOKAWA Technology Review
×
「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集中!
経済再開のカギ、接触者追跡が米国でうまく機能しない理由
Ms Tech
生物工学/医療 無料会員限定
Why contact tracing may be a mess in America

経済再開のカギ、接触者追跡が米国でうまく機能しない理由

新型コロナ感染症の発生を抑え込み、安全な経済活動を再開するには、接触者追跡が有効であることは分かっている。しかし米国では、新規感染者数が依然として多いことに加えて、検査不足、政府の権威に対する米国民の考え方といった要素から接触者追跡がうまく機能しない状態になっている。 by James Temple2020.05.21

全米の多くの州が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大を抑え込み、アウトブレイクの大規模な再流行を起こすことなく各地域の封鎖を解除するため、接触者追跡に期待をかけている。

アラスカ州、カリフォルニア州、マサチューセッツ州、ニューヨーク州をはじめとする各州では、感染者への聞き取り、新型コロナウイルスに暴露した可能性のある人の特定、リスクを抱える人々に対して数週間他人との接触を避けるよう説得するといった活動を担う人材の雇用および訓練を共同で実施している。

感染症のアウトブレイクの抑え込みには接触者追跡が効果を発揮することが分かっている。しかし、新たな研究や追跡プログラムの初期段階において得られたエビデンスに基づけば、米国では新型コロナウイルスに関して、各種追跡プログラムがいくつかの重大な課題を抱えているという。一部地域では新規感染者数の割合が依然として高い数字を保っていること、相変わらずの検査不足、プライバシーに対する米国民の考え方といった要素は、接触者追跡プログラムの有効性を損ないかねない。

感染率の引き下げ

新型コロナウイルスに関する最も大きな課題は、このウイルスが指数関数的な拡大の可能性を持っていることだ。大方の推定によると、抑え込みのための対策を取らなかった場合、1人の感染者は平均して2~3人に感染を拡げると見られている(その人数はもっと多いのではないかとする研究もある)。

接触者追跡や社会的距離戦略の目的は、感染者1人あたりの感染拡大率を減少させ、「実効再生産数(Re)」を1以下にすることである。実効再生産数が1以下であれば、新規感染者数は横ばいまたは減少していることになる。

しかし、この数字を実際に減らすためには、接触者追跡の担当者が感染者やその接触者のかなりの割合に連絡を取る必要がある。

新たなモデルによると、感染率を10%以上減少させるためには、各地域の担当チームが少なくとも新規感染者の半数を把握し、感染者と濃厚接触があった人々のうち最低でも半数に連絡を取って他人との接触を避けることを求めていく必要があるという(この論文は5月8日にメッドアーカイブ(MedRxiv)に未査読のプレプリントとして公開された)。

同論文の研究者らによると、症状が現れている感染者のうちの90%を把握し、その感染者の接触者の90%と連絡を取り、さらに、症状の有無に関わらずその全員に検査を実施した場合に、感染率を45%以上減少させられるという。

つまり、ある地域において社会的距離戦略で感染者1人あたりの感染拡大を2.6人から1人に減少できていた場合、接触者追跡によってその数字を0.55人にまで下げられる可能性があることになる。あるいは、社会的距離戦略を半分程度に緩和し、新規感染者数の割合をこれまでと同じに保つという対応も考えられる。

「これにより、ビジネスや商取引、社会的交流における制限を、対象を絞って戦略的に実施する余裕が生まれます」。スタンフォード大学医学部教授で、今回の論文の共著者であるジョシュア・サロモンは話す。

前に挙げたような数字は実現可能だろうか。サロモン教授は可能だと考えているが、そのレベルを達成するために必要な訓練を積んだ作業者やデータシステムが米国の大半の地域で整っていないとも指摘する。

大規模部隊を組織する

接触者追跡の成功は、チームの規模、新規感染者数、各コミュニティにおいて人々がどれだけ迅速に対応できるかといった要素にかかっている。

たとえば対象者の90%に連絡を取るというのは、未だに新規感染が多数発生している州や地域では特に困難になるだろう。5月初めに1000人から成る接触者追跡特務班を立ち上げたマサチューセッツ州を例に見てみよう。同州では現在でも新規感染確認数が1日あたり1000人を超えることがほとんどで、5月14日には約1700人の新規感染が確認されている。つまりこのチームの追跡担当者全員が、毎日その数字の数倍の人数を追跡し、他人との接触を避けるよう説得する必要がある。自宅待機令が出ている間は、対 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI can make you more creative—but it has limits 生成AIは人間の創造性を高めるか? 新研究で限界が明らかに
  2. Promotion Call for entries for Innovators Under 35 Japan 2024 「Innovators Under 35 Japan」2024年度候補者募集のお知らせ
  3. A new weather prediction model from Google combines AI with traditional physics グーグルが気象予測で新モデル、機械学習と物理学を統合
  4. How to fix a Windows PC affected by the global outage 世界規模のウィンドウズPCトラブル、IT部門「最悪の週末」に
  5. The next generation of mRNA vaccines is on its way 日本で承認された新世代mRNAワクチン、従来とどう違うのか?
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年も候補者の募集を開始しました。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る