温暖化対策としての
カーボン・ファーミングが
当てにならない理由
地球温暖化対策として、土壌により多くの炭素を貯留させる農法である「カーボン・ファーミング」が注目されている。しかし、カーボン・ファーミングで貯留できる炭素量を正しく測定することは難しく、いたずらに推進することは逆効果となる可能性がある。 by James Temple2020.07.07
「カーボン・ファーミング」は現在、有望な気候変動対策として、企業、政治家、環境保護主義者などからもっぱら推奨されている。
民主党の有力な大統領候補の中には、気候変動対策で二酸化炭素の吸収量を高める有望な手段として農業方法の転換を主張する者もいた。大統領候補の指名を確実にしているジョー・バイデンは昨年の夏に、「炭素貯留の新たなフロンティアは土壌です」と力説している。
BP、ゼネラル・ミルズ、ケロッグ、マイクロソフト、シェルといった企業はいわゆるカーボン・オフセット・クレジットを得るために、納入業者にカーボン・ファーミングを採用するよう指示したり、カーボン・ファーミングを採用する農家から買い取ったりする計画を発表、あるいはイニシアチブに参加している。そうすることで企業は、自社事業における炭素排出量を削減することなく、大気中から吸収された炭素クレジットを獲得できるからだ。
さらに、ベンチャー・キャピタルが支援するスタートアップ数社が、企業や非営利団体が農家からクレジットを購入できるようにする「土壌オフセット市場」を開設している。中で最も注目されているインディゴ・アグリカルチャー(Indigo Agriculture)は、土壌炭素ビジネスやその他の事業を構築するために、これまで8億5000万ドル以上を調達している。
そして現在、有力なカリフォルニア州の非営利団体であるクライメート・アクション・リザーブ(Climate Action Reserve:CAR)が、土壌カーボン・オフセットの基準を作成している。認証ラベルを提供する予定で、多くの人や企業に土壌カーボン・オフセットのクレジット購入を促進することになるだろう。
しかし、大きな問題がある。カーボン・ファーミングが期待どおりの効果をあげることを示す証拠がほとんど存在しないのだ。
全米アカデミーズが発表した2019年の報告書によると、世界の農地は年間数十億トンの二酸化炭素を土壌に貯蓄する能力がある。しかし、さまざまな土壌タイプや深さ、地形、作物の種類、気候条件、期間において、どの農法がどの程度機能するかについては不確実なままだ。
カーボン・ファーミングが食糧生産量を損なうことなく、世界中の農場で長期間にわたって大規模に実施可能かどうかは不明だ。また、農場が実際に二酸化炭素の増加分を回収および貯蓄していることを正確に測定および証明する方法に関しては、大きく意見が対立している。
上記の不確実性は、信頼できるカーボン・オフセット・プログラムを立ち上げるにあたって、これまでに幾度となく指摘されてきた課題をさらに複雑にしている。カーボン・オフセット・システムで削減量が大幅に過大評価され、経済的、環境的、政治的圧力によりオフセット・クレジットが大量発行される可能性があるという研究結果が頻繁に報告されている。また、カーボン・オフセット・プログラムは、駆け引きとグリーンウォッシング(見せかけの環境配慮)の機会を生み出し、気候変動対策の実際の進展を妨げる可能性があると批評家は指摘する。
カーボン・オフセット・クレジットの利用拡大を目指すCARが、駆け引きやグリーンウォッシングを招く可能性のある基準を作成しようとしているのではないか、と危惧する声もある。
炭素吸収手段
カーボン・ファーミング、または環境再生型農業とは、基本的に光合成を温室効果ガスの吸収手段とみなし、大気中の二酸化炭素(CO2)が吸収されて葉、茎、根に糖分として蓄えられるか、土壌に排出されると考える。休閑期に被覆作物を植えたり、農地を常に耕して土壌をひっくり返す代わりに種子を筋蒔きするなどの農法を採用したりすることで、農業従事者が農地の土壌中の炭素量を増加させることが期待されている。
しかし、カリフォルニア州で展開されているプロセスは、適用範囲の広い信頼できる基準を確立する上での課題を浮き彫りにしている。カーボン・ファーミングを実行することで対価を受け取る農業従事者が実際に大気中の二酸化炭素量を削減していることを認定し、クレジットを購入しようとしている人や企業に安心を与えられる基準だ。
そうした基準はオフセットを機能させるために不可欠だが、適切な基準を設定するのは難しい。カリフォルニア州が全米最大の排出量取引(キャップ・アンド・トレード)制度に広く採用したプトロコルの作成を担当したCARは、4月に「土壌改良プロトコル」案を発表し、パブリックコメントを募った。CARは6月に同案を理事会での投票にかける予定だったが、多数の意見を受け取ったCARは先週、2回目のパブリックコメント募集期間を発表した。CARが提案したプロトコルで新たな分類の炭素吸収量を正確に測定できるかどうか、疑問視する意見がいくつか見受けられたからだ。
インディゴ・アグリカルチャーが金額不明の寄付金と「研究と起草の支援」を提供したため、利害対立が基準作成プロセスに影響を与えた可能性があると主張する意見が少なくとも1件あった。インディゴは農 …
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