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貿易戦争とパンデミックで「内向き」化、中国製造業の現在
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First the trade war, then the pandemic. Now Chinese manufacturers are turning inward.

貿易戦争とパンデミックで「内向き」化、中国製造業の現在

米中貿易戦争やパンデミックなどの相次ぐ異常事態によって、世界の工場と呼ばれた中国の製造業が打撃を受けている。電子商取引大手の支援を受け、国内向けの独自ブランドに注力する動きが加速しそうだ。 by Karen Hao2020.06.10

1万5000平方メートルの敷地、800人の従業員、300台の機械、500万着の年間衣類販売数。ジュー・カイユーに工場について尋ねたら、そんな印象的な統計データを並べ立ててくれるはずだ。

ジューは2002年、中国広東省の東莞市にニット素材のアパレル工場を作った。プラスサイズの複数のアパレルブランドを展開する米国の「フル・ビューティ・ブランド(Full Beauty Brands)」など、外国企業から信頼される製造パートナーであることをジューは誇りに思っている。例年、年商のおよそ30%が国外からの受注だという。

だが、2018年に異常事態が起きた。米中貿易戦争が勃発し、輸出に大きく依存する製造業の1つであるアパレルメーカーを直撃したのだ。すでに受注して製造も終わっていた商品の出荷が最大3カ月も遅れ、倉庫には出荷できない在庫が山積みになった。ジューの会社の利益は激減した。

ジューのビジネスが完全に回復する前に、今度は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界を襲った。輸出は滞り、400万~500万ドル規模の注文が次々とキャンセルになった。パンデミック(世界的な流行)対策による制限で実店舗が閉鎖されてしまったため、中国国内の売上も振るわなかった。「あのままだと、影響は甚大だったかもしれません」とジューは振り返る。「私の工場は本当に大きく、たくさんの従業員を支えなければならないのです」。

だが、幸運なことにジューは別の販売チャネルを持っていた。中国の小都市にいる消費者を対象にした電子商取引大手「ピンドウドウ(拼多多)」は2018年、メーカーと国内市場をつなぐ新しい取り組みを始めた。いわゆる「C2M(Consumer-to-Manufacturer:消費者・メーカー間取引)」モデルのもと、莫大な蓄積データと人工知能(AI)アルゴリズムを駆使して消費者の嗜好を予測し、中国国内のオーディエンスに特化したブランド開発を支援し始めたのだ。

ピンドウドウは、ジーンズの色落ち具合や靴下の長さなど、製品のカスタマイズ方法をメーカーに教えた。それだけではない。パッケージ・デザインや価格設定、ネットでの商品の売り込み方などもアドバイスした。こうしてメーカーは生産効率を上げ、その結果消費者は製品をより安価に購入できるようになった。プラットフォーム側は広告収入によって新しいユーザーを収益化できる。こうしてプラットフォームとメーカーの双方とも、急速に成長する中産階級の消費者層を取り込むことに成功した。上流階級の消費者は国際ブランドに惹かれがちだが、中産階級の新しい消費者は低価格かつ高品 …

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