「AI小説家」はプロの小説家に何をもたらすのか?
人工知能(AI)はチェスや囲碁などの分野において、人間に勝る能力を身に着けた。正解というものがない文学という分野においてAIはどれくらい人間の役に立つものなのか、プロの小説家が実際にAIを使って物語を書いて検証してみた。 by Stephen Marche2020.06.24
数年前、私はアルゴリズムの助けを借りてサイエンス・フィクション(SF)小説を書いた。トロント大学の英語学部のアダム・ハモンド助教授と、コンピューター科学者のジュリアン・ブルック博士が作った「サイフィク(SciFiQ)」と呼ばれるプログラムに、お気に入りのSF小説を50篇入力すると、サイフィクは物語のプロットに関する指示を出す。Webベースのインターフェイスに私が文章を打ち込んでいくと、提供した50篇のフィクションに対して私の小説がどの程度のものなのか、さまざまな基準からプログラムが示してくれるというものだ。
この最初の実験における目標は控えめなもので、アルゴリズムが創造性の補助になり得るかを確かめてみようというものだった。このやり方で、基本的な一貫性を持った物語が作れるのか? アルゴリズムは独自の文体や物語のアイデアを生み出せるのか? 完成した物語は一体全体、SFとして認められるものなのか?
これらの問いに対する答えはすべて「はい」だった。完成した小説は、『トゥインクル・トゥインクル(Twinkle Twinkle、「きらきら」という意味)』というタイトルで、ワイアード(Wired)に掲載された。トゥインクル・トゥインクルは、SFっぽい内容や雰囲気を備えているだけでなく、驚くことに独自の物語のアイデアが含まれていた。
私が入力した50篇の物語から、サイフィクは相容れないように思える2つのプロットに関する指示を提示した。物語は見知らぬ惑星についての話であると同時に、地球が舞台でなければならないというのである。それがどういうことなのか理解するのに数カ月かかったが、結果的にはトゥインクル・トゥインクルの物語の前提条件を思いつくことができた。物語には、精巧な機械を使って遠くの惑星を見ている人々が登場する。自分だけではこんなアイデアを思いつくことはなかっただろう。まるでアルゴリズムに橋の青写真を渡されて、それを造れと言われたような感覚だった。
MITテクノロジーレビュー(リンク先は英語版)に掲載された『クリシュナとアルジュナ(Krishna and Arjuna)』は、このやり方で小説を書いた2度目の実践となった。トゥインクル・トゥインクルは機能面の実験だった。クリシュナとアルジュナでは、アルゴリズムが人間の新たなアイデアの閃きを支援できるのかをテストするのだ。
いくつかの分野では、研究者たちは単純な問題解決よりも、イノベーションを生み出すために人工知能(AI)システムを利用し始めている。製薬研究の分野では、新たな医薬品の発見を見込んで、ほぼ無限にある分子の組み合わせの中から当たりを見つけ出すためにAIが活用され始めている。AIは正解を生成する機械ではなく、答えが隠されているかもしれない暗闇に光を当てる存在なのだ。文学にも同じように光を当ててみてもいいのではないだろうか?
クリシュナとアルジュナでは、物語のテーマをSFから、私が最近最も興味を持っているロボットとAIへと絞り込んだ。そして、私のお気に入りのロボット物語をAIアルゴリズムに与えるのではなく、歴史に残るロボット物語の名作を網羅して与えた。それらの中には、私が読んだことのないものも多く含まれていた。単なる技術的な些細な違いだと思うかもしれないが、実に大きなことだ。普段なら、作家である私はさまざまな物語を読み、そこから受けた影響を内面化する。今回は、自分が目にしたことのない素材からの「影響」に身を委ねることになるのだ。
もう1つの違いは、トゥインクル・トゥインクルを書いたときには、アルゴリズムの文体の指示に厳密に従っていたという点にある。文体はコンピュータ …
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