KADOKAWA Technology Review
×
接触追跡アプリは「銀の弾丸」ではない、エビデンス必要=英新研究
Photo by engin akyurt on Unsplash
Contact tracing apps are only one part of the pandemic fight

接触追跡アプリは「銀の弾丸」ではない、エビデンス必要=英新研究

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンが実施した新たな研究により、接触追跡アプリだけでは新型コロナウイルス感染症のパンデミックを抑えられないことが改めて示された。 by Patrick Howell O'Neill2020.08.27

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策として、多数の国が自動接触追跡アプリを展開している。だが新たな研究により、(専門家の間ではすでに分かっていたことであるが)「アプリだけでは新型コロナのパンデミックに打ち勝つことはできない」ことが裏付けられた。公表されている15の研究を系統的に新たに評価してみたところ、接触追跡アプリが効果を上げるためには、手作業による接触追跡社会的距離、大量の検査が必要となる実態が浮かび上がった。

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)が実施した新たな研究は、パンデミックが最初に発生してからテクノロジー専門家や疫学者、(それに私たち)が述べてきたことを裏付ける内容となっている。「接触追跡アプリは、新型コロナウイルス感染症を克服する人間の取り組みを補完するものにすぎず、取って代わるものではない」ということだ。

多くの国の政府が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)との接触を追跡するための独自アプリを運用開始しており、その状況はMITテクノロジーレビューの「コビッド・トレーシング・トラッカー(Covid Tracing Tracker)」プロジェクトにも記録されている。だがアプリの効果については、いまだ多くの疑問がある。

UCLのロバート・アルドリッジ博士は、スマートフォンによる接触追跡の効果についてさらなる研究を促す一方で、現在大きな重要性を持つ問題について科学的見地が欠けていることを嘆いている。「エビデンス(科学的根拠)が欠落している部分について緊急に調査し、自動化の手法を既存の接触追跡や疾病対策にどのように組み込むのか検討する必要があります。そして、接触追跡アプリに費用効果があるのか、また公正なのかどうかの根拠を示す必要があります」(アルドリッジ博士)。

追跡追跡アプリに対する初期の見方は、特にメディアにおいては、アプリが新型コロナウイルスとの闘いの中心になるだろうというものだった。だが、最も楽観的なデータを擁する科学者でさえも、自分たちの研究がいかに誤って解釈されているかを説明しようとしている。 今回の新たな論文を読むと、これまで指摘されながら、世界的な議論が浸透しなかったいくつかの点が腑に落ちる。論文の最終的な結論は、「接触追跡アプリは役に立つ可能性がある」ということだ。自国のアプリが今のところのところ成功していると見なしている国もあるが、それはパズルのピースの1つに過ぎない。今回の新型コロナウイルスのパンデミックや次の波に備えて、接触追跡アプリを理解し、改善するためにすべき研究は山ほどある。

(関連記事:新型コロナウイルス感染症に関する記事一覧

人気の記事ランキング
  1. A long-abandoned US nuclear technology is making a comeback in China 中国でトリウム原子炉が稼働、見直される過去のアイデア
  2. Here’s why we need to start thinking of AI as “normal” AIは「普通」の技術、プリンストン大のつまらない提言の背景
  3. AI companions are the final stage of digital addiction, and lawmakers are taking aim SNS超える中毒性、「AIコンパニオン」に安全対策求める声
パトリック・ハウエル・オニール [Patrick Howell O'Neill]米国版 サイバーセキュリティ担当記者
国家安全保障から個人のプライバシーまでをカバーする、サイバーセキュリティ・ジャーナリスト。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る