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強力な接触追跡で感染を抑え込む、ドイツの新型コロナ戦略
Yevhenii Baraniuk via Unsplash
The inside story of Germany’s coordinated covid response

強力な接触追跡で感染を抑え込む、ドイツの新型コロナ戦略

ドイツの新型コロナウイルス対策では、接触追跡が大きな柱の1つとなっている。ロベルト・コッホ研究所のラース・シャード副所長にドイツ政府の戦略について聞いた。 by Krithika Varagur2020.08.28

ベルリンにあるドイツ政府の公衆衛生研究機関ロベルト・コッホ研究所は、国の強力なパンデミック対策の最前線に立ち、ワクチンの探索を主導し、膨大な数の検査を大急ぎで推進している。同研究所で疫学者としてキャリアを積んできたラース・シャード副所長が、ドイツにおける経済活動の再開、リスクの伝達、接触追跡の課題について語った。

なお、このインタビューは、発言の主旨を明確にするために編集および要約されている。

◆◆◆

ドイツの新型コロナウイルスによる死者:9232人


2020年8月19日時点/出所:世界保健機関(WHO)

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のドイツ初の感染確認例は、最初に感染が疑われた症例ではありませんでした。感染を確認する前にもいくつかの疑いのある症例があり、これらはすべて陰性でした。1月27日にミュンヘンでこうした症例のうちのひとつが陽性であることが判明した際にそれほど驚きませんでした。我々はその時にはすでに、症例の定義、検査基準、衛生・感染予防・管理に関する推奨事項と、接触追跡に関する推奨事項といった重要なものを準備していました。

アンゲラ・メルケル首相が演説でよく使っていた「R」と呼ばれるウイルスの実効再生産数は、今でも毎日計算し、報告しています。もちろん、現在の症例数は3月に比べてはるかに少ないので、現時点でのアウトブレイクは直接的に再生産数に影響を及ぼします。この値は上下することはありますが、現在では1程度です(つまり、1人の患者が、平均して1人に感染させることを意味します)。現時点(6月18日)における症例数は少なくなっており、中央値は300~350例です。

もちろん第2波が来る可能性があります。そうなった際の我々の主な目標は、新しい症例の発生率をできるだけ低く抑えることです。我々はすでに、何らかの呼吸器疾患を持つ人全員や、クラスターに属する有症状患者、あるいは老人ホームのような危険性の高い環境に住んでいる方を対象とした感度の高い検査の実施を試みています。また、ある郡で一定の閾値以上の症例が発生した場合には、地域のロックダウン(都市封鎖)を再び導入しなければならないなどの必要に応じた政治的な責務もあります。

ワクチンの準備も試みています。連邦保健省は、6月にフランス、イタリア、オランダと提携し、現在開発中の新型コロナウイルスワクチンの3億回分の予約注文契約を締結しました。

どんなに感染者数が多かろうが、接触追跡の作業をしなければなりません。

感染者数を抑えようとした時の大きな柱の1つが、強力な接触追跡でした。我々は、6月現在で新しいモバイルアプリを導入しましたが、それ以前は、コロナ禍が1月に始まってから、毎日の感染者数が6000人から7000人となっていたピーク時まで従来の手法で接触追跡をしていました。我々は、どんなに感染者数が多かろうが、接触追跡の作業をしなければならないということを地方の保健当局に説得しようとしていました。接触追跡アプリの可能性について非常に早い段階から議論しており、もちろん、GPS追跡システムを検討していました。しかしまた、非常に早い段階でデータ保護担当者から電話があり、これは絶対に実現できないだろうと言われました。

そこで代替案を探していたところ、BluetoothテクノロジーがGPS追跡システムの代わりとなることが明らかになりました(編集部注:GPSベースの接触者追跡アプリはスマホの位置を常に追跡するが、Bluetoothベースのアプリは他の携帯電話との近さを追跡するだけで、必ずしも人の動きが分かるわけではない)。我々は当初、何が起こったのかを正確に把握することができる中央集権型システムに非常に乗り気でしたが、データ保護に対する懸念とのバランスをとるために非中央集権型システムを採用しました。しかし、非中央集権型システムには特定の症例で起こったことが分からないという大きな欠点があります(つまり、我々のサーバーにデータが登録されないということです)。 そのため、さらなる監視と調査による補足が必要となりますが、データ保護担当者はこの解決策に満足しています。

新型コロナウイルスの危機はもう6カ月も続いています。ドイツは過去にもパンデミックに対応したことがありますが、6カ月という期間は、危機管理の観点では非常に長い期間です。今では当研究所の全員がかなり疲弊しています。

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