KADOKAWA Technology Review
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新型コロナワクチン
「政争の具」許さない
ある医師の戦い
Ms Tech | Unsplash, Getty
生命の再定義 Insider Online限定
One doctor’s campaign to stop a covid-19 vaccine being rushed through before Election Day

新型コロナワクチン
「政争の具」許さない
ある医師の戦い

今回の米大統領選挙では、トランプ大統領が新型コロナワクチンを投票日前に承認させ、選挙戦を有利に運ぶのではないかと懸念されていた。米食品医薬品局(FDA)が回復期血漿療法の緊急使用許可で同大統領の圧力に屈したと見た著名な医師は、ソーシャルメディアを駆使して行動を起こした。 by Antonio Regalado2020.10.23

10月5日にウォルター・リード米軍医療センターから退院した後、ドナルド・トランプ大統領は、自分の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を治療した医師を賞賛し、死に至ることもある新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対するワクチンが間もなく市民に行き渡ると約束した。「私たちには世界最高の薬があります。間もなくすべて承認されるでしょう。ワクチンはすぐに手に入ります」。大統領は、数百万人ものツイッターのフォロワーにシェアしたビデオ声明の中でそう語った。

これに対し、カリフォルニア州のエリック・トポル 医師がソーシャルメディアですぐさま反応した。トポル医師は大統領の健康状態や担当医師団の対応のみならず、大統領の精神状態までも疑問視した。

トポル医師は、ツイッターで多数のフォロワーを抱える心臓の専門家・研究者である。同医師はその時点ですでに数週間前から、トランプ政権が11月3日の大統領選挙の投票日の前に新型コロナウイルス感染症のワクチンの規制解除を急がないように個人的なキャンペーンを展開していた。

6月に掲載されたニューヨーク・タイムズ紙の社説は「オクトーバー・サプライズ」ワクチンの可能性を取り上げ、ワクチン承認が「選挙活動の目玉」になってしまう事態に警鐘を鳴らした。カリフォルニア州サンディエゴ市ラホヤのスクリプス研究所(Scripps Research Institute)に勤務し、米国トップクラスの医師の1人であるトポル医師の目的は、科学者が安全性や効果を証明する前にトランプ大統領がワクチンを承認しないようにすることにあった。トポル医師にとって、新型コロナウイルスに有効なワクチンを開発することは「私たちの世代において最大の出来事」であり、政治的背景ではなく科学データに基づいて検証すべきものであるからだ。

効果がないだけならまだしも、被害をもたらしかねないワクチンを時期尚早に認めるように、トランプ大統領が米国食品医薬品局(FDA)に圧力をかけるようなことがあれば、新型コロナウイルス感染症ワクチン全体への国民の信頼が揺るぎかねない。もし私たちが新型コロナウイルスに対して広く免疫を獲得しようとするならば、毎年のインフルエンザ・ワクチン接種の数よりも多くの新型コロナウイルス・ワクチンを打たなくてはならなくなる。恐怖を感じるようなワクチンが世に出れば、効果よりも害の方が大きくなるだろう。

トポル医師はそのような事態を避けるため、政治的圧力に屈したとしてFDAが非難されたことを受け、同局のスティーブン・ハーン長官に辞任を迫るオンライン活動を主導した。ハーン長官に何度か電話をかけ、トランプ大統領の介入に抵抗するように迫り、投票日前に自社ワクチンの承認を求める可能性のある唯一の製薬企業であるファイザーにも狙いを定め、ファイザーのワクチンチームとの面会にも漕ぎ着けた。

10月16日、トポル医師らは成功を収めた。ファイザーのアルバート・ブーラ最高経営責任者(CEO)が、FDAが取り決めた安全基準のために、大統領選が終わる11月第3週まで自社ワクチンの緊急承認を求めることはできないと述べたのだ。トランプ大統領の願いに反して出されたそれらの基準は、トポル医師などの活動家が強く促した結果でもある。

https://twitter.com/EricTopol/status/1314979190555340800

政治的な圧力

新型コロナウイルスの感染爆発が始まって以降、ホワイトハウスは科学機関と対立を続け、重要な決定を強引に押し通したこともあった。例えば、検査や学校再開についての米疾病予防管理センター(CDC)の提言を政治任命官が変更している。ワクチンを統括する立場のFDAは、米政府内で特に強力な権限を持つ組織の1つだ。だがパンデミックの期間中、新たな新型コロナ薬を承認するように圧力を受けた。効果を裏付ける証拠がほとんどない薬についても同様だった。

新しい薬やワクチンの評価には長い時間がかかるのが普通だ。だが2001年9月11日のテロ攻撃を受け、米連邦議会は「緊急使用許可(EUA:Emergency Use Authorization)」という迅速オプションを導入した。例えば核攻撃を受けた場合などに、通常のルールを無視できるという考え方だ。緊急時の基準では、治療法の有効性を証明する代わりに、その治療法に「有効かもしれない」という「合理的な」確信があればよいとされている。

そのような柔軟なプロセスは、政策決定者が8月に行使したような統制権を認めるものでもある。FDAは同月、新型コロナの回復患者から提供された血漿を使う治療法である回復期血漿療法(PDF)のEUAについて発表した。FDAがこの治療法の広範な利用を許可する前日、トランプ大統領はツイートで「選挙後まで意図的に引き延ばしている」とFDAを非難していた。

https://twitter.com/realDonaldTrump/stat …

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