セカンドライフ第二段「サンサール」がVR対応で年内リリースへ
新しいSNS兼実質現実世界「サンサール」が、セカンド・ライフの運営企業から年内にはリリースされる。 by Rachel Metz2017.01.30
理論上、実質現実(VR)の中で、したいことは何でもできる。リンデンラボの担当VRツアーガイドと私は、宇宙人のような服(ガイドの彼は赤、私は緑色)を着て、空中に浮かぶ船の船尾に立ち、遠くの空に浮かぶ島々と、眼下に広がる穏やかな庭園を眺めながら、VRの可能性について真剣に語った。
他にどんな場所に行けるのだろうか? ある意味可能性は無限だ。行きたい場所がなければ、新しいバーチャル空間を作ればいいのだから。
私たちふたりは、誕生したばかりのバーチャル世界「サンサール(Sansar)」にいる。サンサールはバーチャル世界「セカンド・ライフ」を運営するリンデン・ラボ(Linden Lab)の最新サービスで、オキュラス・リフトとVRゴーグルHTC Vive向けに、そして没入感は下がるがPC向けにも年内にリリースされる。セカンド・ライフは2003年のサービス開始以来、最盛期にはユーザー数が月間百万人に達したが、その後勢いを失い現在は約80万人にまで減った。
一般消費者向けの実質現実はまだ初期段階にある。市場調査会社カナリス(Canalys)の予測によれば、2016年には世界中で200万台のVRゴーグルが出荷されたとみられる。四半期ごとに数百万台単位で出荷されるスマホと比較すれば微々たる数だ。しかも実質現実の活用法は、まだ模索中の段階で、SNSがキラーアプリになるのかもしれない(フェイスブックは300万ドルの大金でVRゴーグルメーカーのオキュラス VRを買収した主な理由は結局ここに尽きる)とも考えられている。しかしテクノロジー自体の牽引役になるゴーグル同様、SNSもいまだに初期段階にあり、ユーザー同士で気軽にコミュニケーションできる段階ではない。
SNS分野で利益を上げようと、リンデン・ラボがサンサールを開発し始めてからもう4年目になる。セカンド・ライフの長年の懸案(たとえばユーザーのほとんどは基本的には正面玄関から中に入り、何をしていいのかわからなくなる)をいくつか解決しようとしており、リンデン・ラボのエッベ・アルトバーグ最高経営責任者(CEO)によると、サンサールにおけるVR体験の範囲は、ひとつの世界にさまざま場所があるというより、Webに近く、個々のサイトに直接自由に移動できるという。私が体験したデモ版では、地図から目的地に移動したが、名前の付いたシンプルなサムネール画像をクリックできるようになっていた。
サンサールはビジネスモデルの点でもセカンド・ライフとは異なる。セカンド・ライフの主な収益源は月払のバーチャル土地区画のリース料金だった(1区画256平方メートルにつき、毎月295ドルのリース料がかかるが「あれは手軽に払える金額ではないですね」とアルトバーグCEOも認める)。サンサールでは地代を大幅に下げる(具体的な金額は不明)とアルトバーグCEOはいう。リンデン・ラボはアバター用の服や家具といったバーチャルなモノを売ることで利益を出すつもりだ。
今のところリンデン・ラボ自身と招待者だけがサンサールのプラットフォーム上でさまざまな体験空間を構築している段階だ。ユーザー同士で働き、遊んでもらうことでサンサールの規模をリンデン・ラボ単独で構築するよりも大きくしたいのだ。
「ユーザー自身が色々なモノを作れるようにする必要があります。文化やスタイル、好みと必要性、ニーズには限りがないのです。無限なんです」とアルトバーグCEOはいう。
しかし、この方針ではバーチャル体験の質に差が出てくる。私が見たリンデン・ラボ製の場所はよかったが、ユーザーが構築中の2カ所はアラが目立たった。
ジョージワシントン大学で数年間セカンド・ライフを活用したビジネスの講義を担当したジョン・アーツ准教授によると、オンライン学習向けバーチャル教室のようなサンサールの活用法は可能性としてあり得るという。しかしアーツ准教授の考えではセカンド・ライフと同じ根本的な難点がまだ解決されていない。「基礎のテクノロジーが優れていても、しばらくすると飽きられますよ」
サンサールについて、アーツ准教授は「素晴らしいテクノロジーを実用的なアプリに変えられるどうかは疑問ですね」という。
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クレジット | Images courtesy of Linden Lab |
- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。