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パーサビアランスが火星着陸に成功、映像と「音」を公開
NASA / JPL
Listen to the first sounds recorded from the surface of Mars

パーサビアランスが火星着陸に成功、映像と「音」を公開

米航空宇宙局(NASA)は探査車「パーサヴィアランス」の火星着陸の手に汗握る映像と、火星表面で録音された初めての音を公開した。 by Neel V. Patel2021.02.25

米航空宇宙局(NASA)は、火星に着陸した探査車「パーサビアランス(Perseverance)」が撮影した最初の映像と画像を公開した。それだけではない。火星表面で初めて録音された音も公開された。

2月18日、NASAの探査車「パーサビアランス」は火星に無事に着陸した。2020年7月に始まった旅は終わった。宇宙船は、火星大気圏へ突入し、地表へと降下する「恐怖の7分間」を生き延びたのだ。下降の際、探査車のカメラが豊富な画像や映像を記録しており、手に汗握る着陸の歴史的瞬間の様子を私たちに見せてくれた。

2月22日、NASAは、5台の別々のカメラで撮影された探査車の着陸映像をつなぎ合わせた3分半の映像を公開した(宇宙船の背面の外殻に3台、探査車を地上に下ろすために使用された着陸船の下降段に1台、探査車自体に2台のカメラを備える。なお、背面外殻カメラのうち1台は故障した)。

映像は宇宙船が1300度の高温に達する火星の大気圏への突入に耐えた後から始まる。空に面した背面外殻カメラが重さ約70キロのパラシュートが1秒にも満たない間に展開する様子を映し出している。このパラシュートにより、宇宙船の地表への急降下が減速される。探査車の底面に装着されている地面を向いたカメラは、遮熱板が分離して地表約9.5キロの高さから地面に落下する様子を映している。

画面には赤い景色が非常に美しく詳細に映し出されており、探査車が降下を続けるにつれて、点在する丘や岩棚、クレーターや小さな谷が間近に迫ってくる。探査車が地上に近づくと、映像は空に面した探査車のカメラと、着陸船の下降段の地面向きのカメラに切り替わる。着陸船の下降段のワイヤーから探査車が下ろされ、スラスター逆噴射で降下が減速される。ついに探査車が地表に触れると、切り離した着陸船が、付近のどこかへ落ちて行くべく画面外へ飛び去っていく。パーサビアランスの着地完了だ。

パーサビアランスはさらに、火星の音を初めて録音したという歴史を作った。公開された断片的なノイズには、火星の地表に吹く時速約8キロの風の音が含まれている(これは数年前に公開された着陸機インサイト(InSight)の収録した「音」とは異なる。こちらは火星の地表から届く振動を観測し、その信号を音に変換したものである)。

探査車には2台のマイクが装備されている。1つは探査車の着陸の音を録音するよう設定されたもので、もう1つは探査車の機器「スーパーカム(SuperCam)」に取り付けられているものだ。前者のマイクは残念ながら正常にデータを収集できなかった。ハードウェアの問題ではないものと考えられている。NASA当局は、音をアナログからデジタルに変換するシステムと、探査車に搭載されているコンピューターのシステム間に通信エラーがあったと推定している。

現在はマイクは両方とも動作しており、当面の間、音の収集を続けてくれる予定だ。着陸用マイクは火星表面での継続的な使用を想定した設計にはなっておらず、惑星の気温の変動によってすぐに機能低下が起こるものと思われる。しかし、スーパーカムのマイクは壊れにくい作りになっており、長持ちするはずだ。NASAは、スーパーカムのマイクを使って探査車や装備品の稼働状態を監視できるだろうと語った。

パーサビアランスは今後、火星の太古の生命の兆候を探るという地表でのミッションに最適化された新ソフトウェアによる制御に移行する。NASA当局は数週間かけて機器の試験を実施し、ヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」の配備の準備をする。

 

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ニール・V・パテル [Neel V. Patel]米国版 宇宙担当記者
MITテクノロジーレビューの宇宙担当記者。地球外で起こっているすべてのことを扱うニュースレター「ジ・エアロック(The Airlock)」の執筆も担当している。MITテクノロジーレビュー入社前は、フリーランスの科学技術ジャーナリストとして、ポピュラー・サイエンス(Popular Science)、デイリー・ビースト(The Daily Beast)、スレート(Slate)、ワイアード(Wired)、ヴァージ(the Verge)などに寄稿。独立前は、インバース(Inverse)の准編集者として、宇宙報道の強化をリードした。
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