接種1回で完了、J&Jの新型コロナワクチンをFDAが承認
ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した新型コロナワクチンが米国で承認された。すでに承認済みの2つのワクチンと異なり、接種が1回で済むうえ、保存しやすい利点を持つ。ただし、製造工程が複雑であるため、当分の間は供給量が限られる可能性が高い。 by Antonio Regalado2021.03.03
米国食品医薬局(FDA)の諮問委員会は、接種が1回で済む初の新型コロナウイルス・ワクチンの使用に対し、2月26日に全会一致で賛成し、翌27日に緊急使用を承認したと発表した。
ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した接種1回のワクチンは、通常の冷蔵庫より低い温度に保つ必要がないので、保管が簡単という利点も有している。3大陸で実施された治験では、軽度および重篤な新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症を防ぐ効果が66%確認された。
同ワクチンの承認により、モデルナ(Moderna)とファイザー製の承認済みワクチンを含む米国の新型コロナウイルス・ワクチンのストックはさらに強化される。先行する2種のワクチンはメッセンジャーRNA(mRNA)を使用しており、はるかに有効性が高い(症例の約95%を防ぐ)が、接種が2度必要であり、ワクチンを超低温で保管しなければならない。
世界的にも、ロシアや中国、インド、英国で開発されたワクチンの種類が増えてきており、いずれも広範囲で使用され始めている。
新しいジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは、mRNA技術を使用して作られたワクチンほど効果的ではない。しかし、それでも発症や死亡の確率を大幅に減らすことができるため、効果が劣るからといってワクチンの接種を思いとどまるべきではないと保健当局者らは述べている。
米国を代表するウイルス学者のアンソニー・ファウチ医師は、「2つあることは良いことで、3つあるのはますますもって良い」とNBCのインタビューで述べた。「そうなると選択肢は広がり、供給量も増えます。新型コロナウイルスを制御するのに、このワクチンは間違いなく貢献するでしょう」。
米国では、新型コロナウイルス感染症の症例がこれまでに約2800万件確認されており、死者数は50万人にのぼっている。
モデルナとファイザーのワクチン供給量が限られているため、ほとんどの米国人が現在でもワクチン接種を待機している状態となっている。米国では2月第3週に、これら2種のワクチンを毎日約140万回分接種したが、このペースでは米国全土で接種を完了するのに1年ほどかかってしまう。
理屈の上では、保管が簡単で接種が1回ですむワクチンが登場したことで、接種のペースを上げられる。しかし、実際には、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンの供給量が足りないため、米国のワクチン接種キャンペーンで担える範囲は限定的になることが懸念されている。2月最終週に、連邦議会で開かれた公聴会においてジョンソン・エンド・ジョンソンは、準備できているワクチンは当初約束されていた供給量の3分の1となる400万回分のみで、3月末までの供給見込みはわずか2000万回分だと述べた。
スクリプス研究所(Scripps Research Institute)のエリック・トポル医師は、「ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンが米国全土で使用される主なワクチンになるかどうかは疑問です」と述べ、同社が政府から広範な支援を受けている割には、初期供給量は「微々たるもの」だと語った。
このワクチンには、mRNAワクチンと比べると、トポル医師のいうところの「有効性全般における顕著な低下」が見られる。だが、このワクチンが劣っているという意見に対し、医療分野の多くの専門家から反論が寄せられた。
「これまでに見られたすべてのことから判断して、優れたワクチンだといえます」と、ブラウン大学の医療政策研究者であるアシシュ・ジャー医師はツイッターに投稿した。そして、同じくツイッター上で、ワクチン間で「目立った有効性」を比較することは誤解を招く可能性があり、その理由は「ワクチンはすべて、いったん効き始めたら入院と死亡を実質的に100%防ぐ」からだと論じた。
新しいワクチン
「Ad26.COV2.S」と呼ばれる、接種が1回で済むこの新しいワクチンは、ボストンのベス・イスラエル・ディーコネス医療センター (Beth Israel Deaconess Medical Center)の研究成果を用いて、ジョンソン・エンド・ジョンソンが開発した。無害なウイルスベクター(運び手)であるアデノウイルス26を使っており、これは細胞に侵入することはあっても、増殖したり成長したりすることはない。代わりに、新型コロナウイルスに特徴的なスパイクタンパク質を作るための遺伝子情報を人間の細胞に組み込み、免疫系を刺激して病原体に対する抗体を作らせる。
ニューヨーク・タイムズ紙は、このワクチンの作用に関する詳細な図解を公開した。
ジョンソン・エンド・ジョンソンの子会社であるヤンセン(Janssen)で米国医療ビジネス担当副社長を務めるリチャード・ネトルズは、2月23日の公聴会において議会に対し、ワクチンの製造は「非常に複雑」だと語った。また、メリーランド州の米国工場を含む8拠点でワクチンの製造に取り組んでいるとも話した。
製造工程が複雑になるのは、同社のワクチンウイルスは、精製や瓶詰めの前に生細胞内で増殖するためである。一群のウイルスを生成するのに2カ月かかるため、生産計画に遅れが生じた場合、すぐに供給量を増やす手立てが存在しない。
実際のところ、この新しいワクチンに関する最大の失望点は、製造上の問題による供給不足だ。バイデン大統領が立ち上げた新型コロナウイルス感染症の対策本部で調整官を務めるジェフリー・ザイエンツは、2月24日にホワイトハウスで開かれた記者会見において、 5週間前に新政権が発足した際に「ジョンソン・エンド・ジョンソンの製造が遅れていることを知った」と話した。
「私たちが着任したとき、失望を覚えました」とザイエンツ調整官は語った。「最初の生産ペースは(中略)私たちが期待していたよりも遅いものでした」。
優れた効果
1月下旬にジョンソン・エンド・ジョンソンは、米国、南アフリカ、南米で実施された 4万5000人を対象とした研究の結果を発表した。この研究では、被験者に対して同社のワクチンか偽薬(プラセボ)のいずれかが接種された。
全体として、このワクチンは新型コロナウイルス感染症の防止に66%有効であり、重症化の防止に比較的優れた効果を示した。例えばこの調査では、7人が新型コロナウイルス感染症で死亡したが、これらの人々はすべてプラセボ群に属していた。また、ワクチンの効果は時間とともに増大した。1ヶ月後、ワクチン接種群のうち新型コロナウイルス感染症のために病院に行く必要が生じた人は皆無だった。
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、米国以外でも販売されるこのワクチンから利益を得ることはないと主張している。その代わりに、このワクチンを「パンデミックという緊急用途のため」すべての国に単一の「非営利」価格で販売するとネトルズ副社長は話す。
同副社長は具体的な金額については明かさなかったが、米国は昨年、1億回分のワクチン供給の保証と引き換えにジョンソン・エンド・ジョンソンに約10億ドルを支払うことに同意し、また、開発資金としても同程度の金額を与えた。これは、トランプ政権時代のワクチン実用化の取り組みとして知られるワープ・スピード作戦の中でも主要な投資のひとつとなった。
不足状態から供給過多へ
ブルームバーグによると、昨年12月のワクチン接種開始以来、7000万回の接種をしてきた米国の取り組みにおいて、少なくとも現時点では、ワクチンの供給量がボトルネックとなっている。「しばらくの間、ワクチンの供給過多は見られません」と、ベイラー医科大学のウイルス学者でありワクチン開発者のピーター・ホーテズ医師は話す。
ファイザー、モデルナ、ジョンソン・エンド・ジョンソンから予定供給量が集まってきた場合、すべてを合わせると、米国は3月末までに国民のうち1億3000万人に接種を完了できる量のワクチンを手に入れることになる。
それでも、ワクチンの不足状態は夏前には供給過多に転じる可能性がある。その場合、不足するのはワクチンでなく、ワクチンを接種したいと思う人々、または接種する資格がある人々となる。
ワクチンが供給過多になる理由は、米国で人口の約4分の1を占める18歳未満の層は、まだ接種が許されていないからだ。同様に、米国の成人の約30%は、新型コロナウイルス・ワクチンを一切接種しないと主張している。これらの未成年とワクチン懐疑派を合わせると、人口の半分に達する。
ワクチンを製造している3社によると、8月までに4億人、または国民総数以上の分量のワクチンが米国に引き渡される予定となっている。これは、米国の承認を得る可能性のあるノババックス(Novavax)製の第4のワクチンを除いた数である。
「夏までに状況は好転します。問題は、現在から6月までの間をどのように切り抜けるかです」とホーテズ医師は話す。
拡充していくストック
ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは、2種類のmRNAワクチンのほか、アストラゼネカ(AstraZeneca)製や中国メーカー製のワクチン、ロシアの「スプートニク」ワクチンなどに続き、世界の承認済みワクチンリストに加わった。これらはすべて米国外で使用されている。
ワクチンのいずれかを接種した人は、概して新型コロナウイルスによる死亡率がほぼゼロになる。米国で診断された症例の全体的な死亡率は約1.7%であり、高齢者の死亡率はそれよりも数倍高いが、それらに比べると大きく低下する。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは、mRNAワクチンよりも副作用が少なく、多数の突然変異が重なり感染力の高い南アフリカ由来の新型コロナウイルス変異株に対しても有効だと証明されている。
南アフリカ由来の変異株は、一部のワクチンの有効性を明らかに低下させるため、研究者らは危惧していた。アストラゼネカが南アフリカで実施した研究によると、同社のワクチンは現地の変異株をまったく防ぐことができず、政府関係者らは南アフリカでのワクチン配布計画を白紙に戻さざるを得なくなった。
ズウェリ・ムキゼ保健相によると、南アフリカは代わりにジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンへとシフトし、今後2週間で8万人の医療従事者にワクチンを接種する予定だ。
モデルナも南アフリカの変異株に対応したワクチンを開発すると述べており、ファイザーもまた、新たな変異株が発生した際にそれに対抗するための準備をしていることを示唆した。変異株からの防御策として考えられているもうひとつの案は、現存するワクチンを通常の投与量に加えて余分に接種することだ。
米国の一部の専門家は、mRNAワクチンの2回目の投与を遅らせる、または投与量を半分にするなどの、より早急なワクチン投与計画を採用するよう政府を促し続けている。そして、「適度な」保護力をもつ人が増えるほど、パンデミックは早く収束すると主張している。
しかし、現在のところ、その決定を下す準備ができている、あるいは法的にそれが許されている機関や当局者の所在は明らかになっていない。
「私たちは皆、誰がその決定を下せるのか、頭を悩ませています」とホーテズ医師は話す。「この問題はすべて、人々がどの程度の緊急性を感じているかにかかっています。俯瞰して考えると、感染者数が減少していると認識し、季節的要因のためにその数が低下し続けると感じている人には、ある程度のゆとりがあります。しかし、変異株のことを心配しており、さらに健康上の問題を抱えている人は、予定よりも早く接種を受けたいと考えています」。
ファウシ医師はNBCで、最高のワクチンを待つのではなく、提供されたものを接種するべきだと語った。「ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンに見られるように、効果がいくらか劣るかもしれないワクチンでも、重篤な症状に対しては効果があります。ワクチンが利用できる状態になったら、そのワクチンを接種するようにしてください」。
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- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。