Xプライズ創設者主催のイベントで集団感染、ニセ治療薬も販売か
シンギュラリティ大学やXプライズ財団の共同創設者であるピーター・ディアマンディスは、自身が主催の超富裕層向けイベントでクラスターが発生した後、ペプチド注射や羊水といった新型コロナウイルス感染症の偽治療を推奨していた。 by Eileen Guo2021.03.30
1月後半、テクノロジー関連のイベントを主催しているピーター・ディアマンディスは、ロサンゼルスで、超富裕層のパトロンのみを対象とした屋内イベントを開催した。マスクの着用を義務付けなかったこの集会は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の大規模感染を引き起こした。
イベント開始の4日後、ウイルス検査を受けたスタッフや講演者、参加者の陽性が判明し始めたころ、イベントに参加した人たちに一通のメールが送られた。それは、参加者に安心してもらうための「非公式ウェビナー」への招待状であり、イベントに参加していたある医師を主役に据えていた。
ディアマンディスはコロナ禍で私的集会が禁止されている最中に、その禁を犯して「アバンダンス(Abundance)360サミット」、通称A360を開催した。A360には少なくとも86人が参加し、中には海外からの参加者もいた。参加の栄誉に浴するために、多くの参加者は合計で3万ドルを支払った。参加者全員が毎日検査を受けていたものの、新型コロナウイルス(SARS CoV-2)は広がり、4日間のプログラムの直接的あるいは間接的な結果として、少なくとも32人がコロナに感染した。
1月30日に開催されたウェビナーは、代替療法に取り組んでいるサンフランシスコ・ベイエリアの熟練した麻酔科医、マット・クックを招いて実施された。後日送信された、ウェビナーの録画を閲覧するためのURLが記されたメールには、ファウンテン・ライフ(Fountain Life)の商品の注文フォームが添付されていた。ファウンテン・ライフはディアマンディスが共同創業し、理事を務める企業で、長寿をうたう製品を販売している。
ウェビナーを閲覧してから、ファウンテン・ライフの注文フォームを受け取るまでの間、参加者たちは新型コロナウイルス感染症を治療あるいは完全に予防するさまざまな製品についての話を聞かされていた。ただし、宣伝された製品のうちの7つが、米国食品医薬品局(FDA)によって「新型コロナウイルス感染症の偽治療」に分類されているということは、参加者には知らされていなかった。
こうした偽治療には、羊水やコロイド銀が含まれる。羊水は子宮内で赤ちゃんを包むように存在する液体で、幹細胞を多く含んでいる。コロイド銀は金属粒子の懸濁液で、しばしば抗菌作用を持つと宣伝されるが、FDAは「安全ではなく、いかなる疾患や症状の治療にも有効ではない」としている。クック医師は羊水とコロイド銀の両方を、気管支喘息治療で用いられるものとよく似た電子機器であるネブライザーを使って、ミスト状にして吸引することを推奨していた。
ウェビナーでは他にも、2種類のペプチド(BPC-157とチモシンアルファ1)、アンチエイジング製品に広く使われているアミノ酸、ビタミンサプリであるD3K2、そしてNADとNMNという2種類の代謝酵素が推奨されたが、これらはいずれも、FDAによって新型コロナ治療としては偽治療だとされているものだ。ウェビナーで推奨された、イベルメクチンという、疥癬などの治療に用いられる駆虫薬も、FDAが注意を呼びかけている薬品だ。FDAはイベルメクチンを偽治療に分類してはいないものの、新型コロナ感染症の治療薬として用いないように警告している。
「我々の治療手順はとてもすぐれたものになりました」とクック医師は語った。「一般的に言って我々は、新型コロナウイルス感染症にかかった人を本当に、本当に早く完全に回復させることができます。新型コロナの治療は、6か月前とは異なり、とてつもなくストレスのかかるようなものではなくなっているのです」。
「『死ぬかと思っていたけれど、ペプチドを打ったら途端に大丈夫だという気分になりました』と全員が言っています」とクック医師は付け加えた。
クック医師は、イベントで新型コロナウイルスに晒されたことについての自責の念に対処する方法まで助言した。「闘争か逃走か状態をリセットするための治療手順」の一環として、参加者に「ケタミンのトローチを郵送します」というのだ(ケタミンはパーティ・ドラッグとしてもしばしば用いられる麻酔薬で、うつ病の治療にも実験的に用いられている)。
個々の製品は、必ずしも高価というわけではない。たとえば、クック医師によれば、コロイド銀は2カ月分で25ドル程度である。しかし、クック医師が提唱する新型コロナを予防するための手順を全て実行しようとすると、月に600ドルほどが必要となる。高用量での服薬を伴う新型コロナ感染症の緊急治療には「数千ドル」かかるという。しかし、「それほどの金額ではないでしょう」とクック医師は付け加えた。
FDAによれば、「新型コロナ感染症の偽治療製品」とは、「新型コロナウイルス感染症を予防、治療、軽減、診断する」かのような誘導的な主張によって宣伝され、販売された製品を指す。こうした製品は、新型コロナに対して目に見える効果を持たないだけでなく、こうした製品のために「米国市民が適切な医学的治療を受けるのが遅れてしまい、結果的に深刻かつ命にかかわる被害を受ける可能性があります」。
あるFDA職員は、FDAは、そうした製品を販売している企業に対して少なくとも150通の警告書を発送していると証言した。しかしこの職員は、ディアマンディスの関係者から入手した製品リストについてはコメントを差し控えた。
「現在や将来の捜査に関わる可能性があるため、FDAは特定の製品、事例、販売方法についてはコメントできません」と、FDAの広報担当者はメールで説明した。
「私はA360に参加するリスクを認識していました」
ウェビナーは84分間にわたって実施され、限定公開動画としてディアマンディスのユーチューブ・チャンネルに掲載された。MITテクノロジーレビューは参加者の一人からその映像を入手した。ウェビナーの中でクック医師は、自身の経験に基づいていかに新型コロナウイルス感染症に対する治療を開発したかを語っていた。
クック医師は新型コロナウイルスに、「新型コロナウイルス感染症が流行り始めた最初の週に」感染したと語っている。自身と親しい友人を治療して以降、クックは …
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