米国の規制当局は4月23日、ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンの使用再開を勧告した。血栓を引き起こす副反応が非常にまれであり、当局が課した一時停止を継続することは正当化できないと判断したためだ。報告された症例は、800万回分の接種に対して15例だけだった。接種が一時停止されたのは11日間だけだったものの、米国人のワクチン接種に対する信頼には新たな懸念が生じた。最近の世論調査では、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチン接種に対する信頼度は非常に低く、新型コロナウイルス感染症ワクチン未接種者の73%が、提案されても接種を拒否すると述べている。
この事実は、医療サービス提供者や公衆衛生当局、国民全員に予防接種を受けさせようと取り組んでいる政府関係者に対して、新たな難題を突きつける可能性がある。
ウィスコンシン州のミルウォーキー郡緊急事態管理局(Milwaukee County Office of Emergency Management)の医療サービス責任者であるベン・ウェストンは、「信頼は大きく失われており、回復するには時間と努力が必要でしょう」と述べる。
「私たちは今でも、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンが実際には非常に安全であること伝える最善の方法を探しています。国内的にも国際的にも、すべてのワクチンに対する信頼を根付かせ続けるために、やるべきことはたくさんあります」。
しかし、ワクチン接種の中断により、必ずしもこれまでの取り組みが後退するとは限らない、と考える人もいる。ペンシルバニア大学で医学倫理を研究するホーリー・フェルナンデス・リンチ助教授は、このようなまれな副反応でもワクチン接種を一時停止すれば、逆に人々の安心感を高められると話す。ただし、政府当局者がそのメッセージを効果的に伝えることができれば、というのが前提だ。
「規制当局は人々の安全を保つために存在します。規制当局は安全上の懸念から接種を一時停止したのですから、再開を許可するときも信頼できます」と、米国食品医薬品局(FDA)とその政策について研究しているフェルナンデス・リンチ助教授は言う。「規制システムは、意図したとおりに機能しているのです」。
シカゴにあるルリー小児病院(Lurie Children’s Hospital)の生命倫理学者であるシーマ・シャーは、一時停止は理想的ではなかったが、接種を停止して血栓について調査することもせずにジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチン接種を推し進めていたら、もっと悪いことになったと言う。
「私は事実の反対について考え続けています。もしFDAが一時停止させなかったとしたら、人々はそのことをどのように受け止めたでしょうか?」
選択肢があると信頼が高まる
多くの医療サービス提供者や政府関係者は、従来のアデノウイルス・ベースの技術を利用して必要な遺伝的指令を送達するジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンを、ファイザーやモデルナ(Moderna)のmRNA(メッセンジャーRNA)技術を使用するワクチンの有効な代替品とみなしてきた。ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは1回の接種で済むため、2回目の接種を予定するのに十分な期間、1つの場所に居続けられない人に非常に適している。例えば、大学生やホームレスになっている人などだ。
1回の接種を単純に好む人は、他にも多く存在する。利便性のためであったり、もともと注射針が嫌いだったりなど、理由は様々だ。ギグワーカーやシフトワーカー(交替勤務労働者)は、ワクチンの予約を取り、予約場所へ行く時間や手段が限られており、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンがより良い選択肢となる。
ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンはまた、mRNAワクチンのように、超低温で保管する必要がないため、配布と投与がより簡単になっている。そのため、家から出られない患者や農村部の住民、特別な冷凍庫を備えていない仮設診療所の患者などにワクチン接種を施すのに便利だ。
「もし米国食品医薬品局が一時停止させなかったとしたら、人々はそのことをどのように受け止めたでしょうか?」——シーマ・シャー、生命倫理学者(シカゴ、ルリー小児病院)
しかし、こうした利点にもかかわらず、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンは、不信感を生み出した。製造上の問題と感染防止効果が低いことを示した調査結果のためだ。ファイザーとモデルナのワクチンが新型コロナウイルス感染症に対してそれぞれ95%と94%の効果があったのに対して、ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチン注射は中程度から重度の症例に対して72%の効果しかなかった。この比較は十分なものではないが、ニュースの見出しだけ読む人は劣っていると思い込んでしまうおそれがある。信頼を築くために取り組んでいる人たちは、そうしたことも考慮に入れる必要がある。
「私たちは悪いワクチンを押し付けようとしているのではありません。悪いワクチンであれば、使用し続けることを許可されるはずがありません。こうしたことを人々に理解してもらうために、重要なメッセージを送る必要があります」とフェルナンデス・リンチ助教授は言う。同助教授はまた、患者の信頼を得るために、医者は患者とコミュニケーションを取る必要があると述べる。副反応のリスクが比較的低いことを説明したり、不安を感じている人に代替案を提供したりできるのは医者なのだ。
信頼を築くのは長い戦いになると、フェルナンデス・リンチ助教授は言う。「今回だけの話ではありません。ジョンソン・エンド・ジョンソンのワクチンのことだけではありませんし、新型コロナウイルス感染症のワクチンのことだけでもありません。科学、政府、そして公衆衛生に全般に対する、信頼の話なのです」。
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この記事は、「パンデミック・テクノロジー・プロジェクト」 の一部であり、ロックフェラー財団の支援を受けています。
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- MITテクノロジーレビューのパンデミック・テクノロジー・プロジェクト担当記者として、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策や追跡に使われるテクノロジーを取材。以前は非営利のテクノロジー専門ニュースサイト「ザ・マークアップ(The Markup)」でオーディエンス・エンゲージメント編集者を務めた。これまでに執筆した記事はヴァージ(The Verge)、アピール(Appeal)、シカゴ・マガジンなどに掲載されている。