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打ちたくても打てない、ワクチンであぶり出された米健康格差の深刻度
Tyger Williams/The Philadelphia Inquirer via AP
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Which US vaccine plans actually helped hard-hit communities?

打ちたくても打てない、ワクチンであぶり出された米健康格差の深刻度

人種や経済状況、地域によって、社会的に弱い人々へのワクチン接種が遅れている。接種会場までの交通手段がない、会場が遠い、休みが取れないといった根本的な問題に目を向け、健康格差解消の取り組みを継続すべきだ。 by Mia Sato2021.08.24

最初の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が始まるずっと前から、米国ではパンデミックの影響をより深刻に感じている集団がいる。突然「エッセンシャル・ワーカー(社会的機能に必要不可欠な業種の労働者)」というレッテルを貼られた人々、政府の援助から締め出された人々、それに特定の有色人種コミュニティに属する人々だ。

米政府はこれまでとは異なり、ワクチン接種では衡平性(equity)を優先すると約束した。現時点で米国成人の約63%が少なくとも1回はワクチン接種を受けており、ジョー・バイデン大統領は7月4日までにこの割合を70%に引き上げる目標を設定している。しかし、被害の大きいコミュニティでは、いまだに多くの人々にワクチンに関する有効な情報が伝わっておらず、ワクチン接種を受けるための障壁に直面している可能性がある。結果として、そのようなコミュニティの新型コロナウイルス感染症は依然として深刻なものになっている。例えば、ワシントンD.C.ではワクチンが広く普及して以来、新型コロナウイルス感染者の人種間格差は縮小するどころか拡大している。

衡平性を高めるための計画は地域によって異なり、結果もまちまちだ。ミシシッピ州は米国の他の州に比べて黒人の割合が高く、当初はワクチン接種の人種間格差が大きかったが、現在ではほぼ平等な状態となった。このような改善が見られたのは、教会のリーダーたちが住民にワクチン接種を勧めたことが大きな要因だ。

しかし、ロサンゼルス・タイムズ紙によると、カリフォルニア州では黒人やラテン系コミュニティのために用意された特別な登録コードが、在宅勤務のより裕福な人々に悪用されていた。彼らはそのコードを自分たちのソーシャル・ネットワークや仕事仲間で共有していたのだ。また、シカゴでは、情報格差やアクセス手段の問題によって、地域レベルの衡平性を確保する計画の甲斐なく、社会的弱者が取り残されているとコミュニティの人々は話している。

では、学ぶべき教訓はあるのか?

衡平性=アクセシビリティ

衡平性の確保は、多くの場合アクセシビリティの問題だと話すのは、テキサス州立大学のエミリー・ブランソン准教授(人類学)だ。ブランソン准教授は有色人種を中心とした社会的弱者へのワクチン接種を円滑に進める計画やシステム開発を手がけるコミュニバックス(CommuniVax)プロジェクトの主任研究員でもある。ワクチン接種会場が不便な場所にあったり、接種できる時間が限定的であったり、会場までの交通手段がなかったり、仕事を休むのが難しかったりと、接種を受けるには多くのことがハードルとなる。

「現在問題となっているのは、ワクチン接種が個人の選択としてだけ語られていることです」とブランソン准教授は話す。共和党に投票した白人男性は米国の他の人々と比較して、ワクチン接種に特に消極的であるとも指摘している。「個人の選択であることに焦点を当てると、米国で非常に深刻になっている、会場設置場所や接種可能時間、交通手段、休暇が取れないといった実際に接種を受けるための問題が見落とされてしまいます」。

フィラデルフィアでは、2つの医療機関と黒人コミュニティのリーダーたちが上手く協力したことで、一つの成功例が生まれた。ペン・メディシン(Penn Medicine:ペンシルベニア大学複合病院医療システム)とマーシー・カソリック医療センター(Mercy Catholic Medical Center)は、インターネット上でのワクチン接種の登録プロセスの大部分が、高齢者やインターネットにアクセスできない人にとって難しいと認識していた。そこで、テキスト・メッセージ(SMS)を使った登録システムと、固定電話からも利用できる24時間年中無休の対話式音声録音を選べる方法を採用し、接種 …

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