KADOKAWA Technology Review
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「インスタ・フェイス」が助長するカラリズムのメカニズム
Joan Wong
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How digital beauty filters perpetuate colorism

「インスタ・フェイス」が助長するカラリズムのメカニズム

「カラリズム(肌の色による差別)」には長い歴史があるが、ソーシャルメディアは、写真の加工フィルターやおすすめアルゴリズムによって偏見を助長し、差別を永続化する可能性がある。 by Tate Ryan-Mosley2021.09.07

ジョージア州で10代を過ごしていた頃、リースはクラスメートから執拗ないじめを受けていた。数年前に家族とハイチから移住してきたが、クラスに馴染むことができなかった。同級生は彼女のアクセントをからかい、「変な臭いがする」と言い、リースが食べていたものに難癖をつけた。 だが一番の攻撃対象となったのは、濃い肌の色だった。ときにはリースが泣きやまず、先生から帰宅を促されたこともあった。「家に帰ってから、食器洗い用の銅タワシを手に取ったのを覚えています」とリースは語る。「そして母親の漂白クリームを持って洗面所へ行き、それを肌に塗り込みました」。

いじめてきたのは白人の生徒だけではなかった。「よそ者」や「自分たちと違い過ぎる」という理由で、黒人の生徒もいじめてきた。「あの子はなんであんなに黒いの?」と言う声を今でも覚えている。

当時、リースは最悪の状況だと思っていた。だが、その手に握られたスマホには白い美しい肌の女性の写真が絶えず表示され、何十・何百・何千もの「いいね」や肯定的なコメントをもらっていた。リースは徐々にあること理解し始めた。それは、女性らしい体型や唇といった自分の体の一部は世間に求められているが、黒い肌や髪のようなパーツは求められていないということだ。それらのパーツが一体となった、全体としての彼女には需要がなかったのだ。

いじめに必死に対応しようとする中で、リースは黒い肌がいけないのだと確信するに至った。ソーシャルメディアのプラットフォームやインターネットの視覚文化でも、そうしたことが言われているようだった。

もっとも親しい人たちといるときでさえ、「黒い肌が望ましいものではない」という思いは募るばかりだった。そのうち、リースが帰宅後に借りていた肌の色を明るくするクリームを、母親やおば、友人などが使っていることが分かった。そうした商品の多くには毒素や発がん物質が含まれている。それは混乱を覚えるような状況だった。リースがいる共同体は人種差別と必死に闘っていたが、彼女が体験した偏見の一部は黒人自身が生み出していたのだ。

そして、ソーシャルメディアはその偏見を助長していた。

リースが体験した「カラリズム(肌の色による差別)」という偏見には長い歴史がある。その源流には、明るい色の肌を純粋性や富と結び付け、濃い色の肌を罪や貧困と結び付けていたヨーロッパの美の理想がある。そうした考え方は人種差別と関連している。だがカラリズムは、人種に関係なく影響を受け、同じ背景を持った人でも影響が異なるという点に特徴がある。

カラリズムは多くの国に存在する。インドでは、浅黒い肌の人がカースト制で下の方に位置付けられるという伝統があった。中国では明るい肌は美や高貴さと結び付いている。米国でカラリズムに遭っているのは黒人だけではない。白人でありながら肌が浅黒いイタリア人やギリシャ人も体験している。かつてアフリカ系米国人が奴隷として扱われていた時代には、肌の色があまり黒くない者には家の中の仕事が与えられ、より黒い者には外の仕事が与えられることが多かった。

そうした偏見は長い間、社会やメディアに根付いている。しかしデジタル画像やフォトショップの登場によって、カラリズムが新たな形で発現するようになった。中でも1994年6月の事例は有名だ。著名なアメリカンフットボール選手であったO・J・シンプソンが被疑者となった殺人事件の裁判中に彼の顔写真がニューズウィークとタイムの表紙に掲載されたが、タイムの写真では明らかに肌の色が濃かったのだ。2誌の写真の違いは世間の怒りを買った。タイムは画像を暗く加工していたのだ。その理由について、同誌のフォトイラストレーターは「より劇的なイメージ」を喚起するためだったと説明した。だがこうした写真の加工は、肌の色が濃いほど米国の大衆がシンプソンを犯罪者扱いする傾向が強まるということの反映だった。

こうした関連付けがもたらす影響は非常に現実的なものだ。ヴィラノヴァ大学が2011年に発表した研究では、収監された1万2000人の女性に対する判決の厳しさと、その肌の色の間に直接的な関連があることが判明した。

そして現在、自撮り写真と顔フィルターの普及により、デジタルの世界でカラリズムが広がっている。何十億もの人がスナップチャット(Snapchat)やインスタグラム、ティックトック(TikToK)、フェイスブックを毎日のように使用しており、これまでにない規模で自分の写真が人の目に触れるという人も多い。だが、これらのソーシャルメディアにはバイアスが潜んでいる。基本的なレベルにおいて、個人向けデジタルカメラの多くに搭載されている画像処理チップは特定の範囲の肌の色を処理するようにあらかじめ設定されている。そのため、現実の色の多様性を正確に捉えることは技術的に不可能なのだ。

取り込まれた画像自体もしばしば改変されてしまう。スナップチャットによると、毎日2億人以上の人々が「レンズ(Lenses)」フィルターを使用しており、同フィルターを使用して肌を白く見せているユーザーもいる。インスタグラムやティックトックにも、同様の効果を持つフィルターや自動補正機能がある。写真の技術や画像フィルターは、そうした処理をほとんど気づかないレベルで実行できる。一方、ソーシャルメディアのアルゴリズムは明るい肌のユーザーの人気を後押しするようになっており、浅黒い肌のユーザーが不利益を被っている。今年8月には、ツイッターの画像トリミングアルゴリズムに、肌が白くてスリムな若い顔を好む傾向があることが判明した。

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