KADOKAWA Technology Review
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TikTok「認知症」動画、シェアレンティングと似て非なる問題点
Ricardo Santos
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Dementia content gets billions of views on TikTok. Whose story does it tell?

TikTok「認知症」動画、シェアレンティングと似て非なる問題点

ティックトック(TikTok)の「#Dementia(認知症)」というハッシュタグは20億回も再生されている。本人の同意なく記録された動画は、親が子どもをコンテンツ化してネット上で公開「シェアレンティング」とも似ているが、個人の尊厳に関わる重大な問題点を提起するものだ。 by Abby Ohlheiser2022.06.02

認知症と診断されると、すぐに世間の目が変わることがある。また、その烙印は広範囲に及ぶものだ。認知症の人の家族や友人も、自分たちが世間から隔離されているように感じるかもしれない。

インターネットはその最たるものだ。インターネットは、認知症と共に生きる現実をより可視化するのに役立つ。中には、同じような経験をしている人たちとつながれる唯一の場が、インターネットだという人もいる。

しかし、インターネットが常に良い場所だとは限らない。ティックトック(TikTok)の「#Dementia(認知症)」というハッシュタグは20億回も再生されている。そこには、認知症後期の人を介護した体験のコンテンツを、1つの物語として動画を制作している人もいる。特に人気の高い動画の多くは、感動的なものや、啓発的なものだ。しかし、悪質なバイラル動画も簡単に見つけられる。ケア・パートナー(多くの支援者が一般的に使われる「介護者」よりも好む表現)が認知症の人を馬鹿にし、カメラの前で言い合いを繰り広げるといった類のものだ。

クリエイターたちは、撮影に同意する能力がなくなった人々のコンテンツを公開する倫理について、結論を出していない。一方で、認知症の当事者は同意への疑問を投げかけており、バイラル・コンテンツが固定概念を植えつけ、認知症の全容を誤解させる害をもたらすと強調している。

「この問題は、認知症の人の間でしばらく前から議論されているものです」。認知症の人を支援する団体「国際認知症同盟( Dementia Alliance International)」のケイト・スワッファー共同創設者は言う。スワッファー共同創設者は2008年、49歳のときに若年性の意味性認知症と診断された。

これらの議論はある意味、家族の動画を公開するビロガー(ビデオブロガー)や子育て中のインフルエンサーといった、「シェアレンティング(親が自分の子どもに関するコンテンツをネット上で公開すること)」に関して、現在も議論されていることを反映したものだ。かつて両親のソーシャルメディアのタイムライン上に本人の同意なくスターとなった子どもたちは成長し、自分たちがどのように描かれたかについて意見を抱くようになった。しかし、認知症の大人は子どもではない。子どもは成長するにつれ同意能力が発達するが、認知症の人の同意能力は時間とともに減衰していく一方だ。

法的には、代理人の権限を持つケア・パートナーや家族が、同意能力のない本人に代わって同意が可能だ。だが、この基準では後期認知症の人々の権利と尊厳を守るには到底不十分だと擁護者らは言う。

スワッファー共同創設者自身が考える基準は、次のようなものだ。認知症の人が意思決定に必要な認知能力を失う前に明示的に同意していない限り、後期認知症の人に関するコンテンツを誰であろうと共有してはいけない。それはフェイスブックでも、写真展でも、ティックトック上でも変わらない。

「もし私が同意できないのに私に関することを公開したら、私は正気に戻って呪ってやるから!」スワッファー共同創設者は家族にこう話しているという。

バーチャル介護

認知症に関する最も人気のあるティックトック動画の多くは、感動的な瞬間が切り取られている。ある動画では、言葉をほとんど発しない父親が娘に「愛してる」と囁いたもので、3200万回再生された。また別の例では、娘との「関係性を覚えていない」らしい父親が、コメディアンであるボー・バーナムの歌「White Woman’s Instagram(白人女性のインスタグラム)」の歌詞をすべて思い出し、娘が爆笑する場面が収められている。

ジャクリン・リビアは、ケア・パートナーになっている認知症の人の家族を支援する団体に初めて参加したとき、自分の仲間を見つけられないと思った。リビアは当時20代で、母親と祖母の介護のためにニューヨーク市での生活を捨てカリフォルニアに戻ってきたばかりだった。そのため、その場にいた誰よりも数十歳も若かったからだ。

「そこにいる人たちは皆、自身の持家や年金を担保に介護資金を得る方法について話していました」とリビアは言う。「私は、気分が悪くなってしまいました。私にはそのようなものは一切なかったからです。何の資産も持っていませんでした」。

やがてリビアは、@momofmymom(ママのママ)というハンドルネームで投稿をするようになった。このハンドルネームは、リビアと母親リンとの間の関係性の変化を言い表している、と考えて命名した。当時、母親には会話能力があり撮影に同意できた。むしろ、2人で一緒にチャンネルを運営しているような感覚だった。現在、リビアのティックトックのフォロワーは、ケア・パートナーでもあるミレニアル世代(1980年代から2000年代初頭までに生まれた人)の人たちを含め、50万人を超えている。

リビアは、自分が介護を始めた頃にあったら良かったと思えるようなコンテンツを心がけている。ある動画では、リビアと母親が共に1日を過ごし、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の心配がない屋外エクササイズの教室に行ったり、公園で友人と会ったりしている。別の動画では、リビアが1人で車の座席に座り、母親の認知能力の低下にどう対処しているかについて感情的に語ってい …

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