米国で人気の「家事分担アプリ」で女性はラクになれるか?
パートナー間で家事の負担を公平に分配することで、女性側の負担を軽減することを謳う家事分担アプリが米国で人気だ。だが、実際には男女の役割を固定し、女性に余計なタスクを押し付けているだけなのかもしれない。 by Tanya Basu2022.05.13
数年前、ジェイミー・グラベルは助けを必要としていた。彼女は研究論文を書きながら、研究助手としてフルタイムで働いていた。息子は2歳になったばかりで、夫にもっと家事をしてほしいと何度頼んでも、家事は山積みだった。そこで、彼女は家事分担アプリ「コジー(Cozi)」をダウンロードした。家事分担アプリは、最近人気上昇中のソリューションの1つで、家事をより公平に分担するために開発されたものだった。グラベルの願いは、「自分が何度も言わなくても、夫がもっと家事をして、負担を軽くしてくれること」だった。
大失敗だった。「誰かに文句を言ったり、自分のパートナーの世話を焼いたりといった問題は解決しません」とグラベルは言う。「このアプリを使っても、パートナーが、家族チームの一員である自覚を増したり、家事により多く関与したりすることはありません」。1週間もしないうちに、グラベルはコジーを削除してしまった。このアプリは「ただうまくいかなかったのです」とグラベルは言う。
家事分担アプリは、異性間のカップルで女性のほうが家事を不当に負担している、という現実問題の解決に役立つことを謳い文句にしている。こうしたアプリを使えば、男性パートナーに、もっとパートナーらしくなってもらえる可能性があるというのだ。しかし、グラベルが実感したように、これらのアプリは実際には正反対のことをしているのかもしれない。
結局、家事分担アプリはほとんどの場合、女性、特に時間的にも精神的にも余裕がないことが多い母親に対し、テクノロジーを利用して仕事を割り振るという新たな負担を強いるだけに終わる。実際、コジーのデータによると、アプリのユーザーの90%は既婚者か交際中で、86%は女性、86%は家に子どもがいる。つまり、表向きは家事を軽減するためのツールであっても、結局は母親に別の仕事を押し付けているのだ。この点についてコジーにコメントを求めたが、記事執筆時点では回答は得られなかった。
女性にはそんなことをしている時間はないのだ。英国バース大学で講師を務める経済学者、ジョアンナ・シルダ博士の最近の研究によると、過去数十年の間に、北米の女性は以前にも増して家事を担うようになった。そのうち25%の女性が夫よりも収入が多いにもかかわらず、だ。シルダ博士は、働く母親たちから何度も何度も聞かされた言葉があると言う。それは、「私たちは疲れ果てています」という言葉だ。
より公平な家事の分担
家事分担アプリは、家事をより公平に分担するために開発されたものだ。しかしその仕組みはそれぞれ異なる。コジーのように、家族の誰か一人に、他の家族のメンバーの家事分担を割り振らせるアプリもある。こうしたタイプのアプリは人気が出る傾向にあるが、グラベルが実際に使ってみて感じたように、一人の人間に責任を負わせるという点で限界がある。
最近では、家事をすることでインセンティブが得られるような、ゲーム性のあるアプリも登場している。コートニー・チャップマン・クラークは、自身の家事の負担が増え続けることに憤りを感じ、家事分担アプリ「ニプト(Nipto)」を試してみた。このアプリでは、チャップマン・クラークと彼女の夫が、家事をするたびに、そのときに感じた面倒さや不快さに応じた点数をつけ、点数の高い人に対し、豪華なお菓子を買ってきたり、素敵な映画を見に行ったりといったご褒美を設定できる。
チャップマン・クラークと彼女の夫は普段からゲームをするため、この …
- 人気の記事ランキング
-
- A tiny new open-source AI model performs as well as powerful big ones 720億パラメーターでも「GPT-4o超え」、Ai2のオープンモデル
- Geoffrey Hinton, AI pioneer and figurehead of doomerism, wins Nobel Prize in Physics ジェフリー・ヒントン、 ノーベル物理学賞を受賞
- The coolest thing about smart glasses is not the AR. It’s the AI. ようやく物になったスマートグラス、真価はARではなくAIにある
- Geoffrey Hinton tells us why he’s now scared of the tech he helped build ジェフリー・ヒントン独白 「深層学習の父」はなぜ、 AIを恐れているのか?