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ロボットが「鍛える」人工腱は実用化への一歩となるか
Fisher Studios
A robotic shoulder could make it easier to grow usable human tissue

ロボットが「鍛える」人工腱は実用化への一歩となるか

培養した腱細胞を人型ロボットが繰り返し引っ張ることで、細胞の成長を促進できることが分かった。実用的なヒト腱細胞につながる可能性がある。 by Rhiannon Williams2022.05.30

人工的に培養されたヒトの腱細胞組織を伸展、圧迫、捻転させる「ロボットショルダー」が、より成功率の高い細胞組織移植への道を開くかもしれない。

生体組織工学分野は依然としてその大半が実験的なものだが、現時点でも人間の細胞サンプルから培養した皮膚細胞や軟骨、さらには気管まで、患者に移植されている。

だが、伸展や捻転が必要とされる実用的なヒト腱細胞の培養は困難であることが明らかになっている。この20年間、科学者は人工の腱細胞および組織を一方向に繰り返し伸ばすことで、その培養と成長を促そうとしてきた。しかし現時点でこの方法では、人体に対して臨床的に使用できるような、完全な機能を持つ移植組織を生み出すことができていない。

5月26日にコミュニケーションズ・エンジニアリング誌に掲載された新たな研究によって、人型ロボットを使うことでより本物に近い人工の腱組織を生み出せる可能性があることが明らかになった。

「臨床的な需要は間違いなくあります」。今回の研究チームの代表者、オックスフォード大学医学部准教授のピエール・アレクシス・マウスイはそう話す。「医療機関での使用に足る質の高さを備えた移植片を人工的に作り出せれば、患者への移植結果の改善に非常に有益です。それがどんな改善であっても大歓迎です」。

細胞を保管するバイオリアクターと呼ばれる試験室再設計の第一歩は、筋骨格組織と同じように細胞を曲げ、押し、引き、捻ることができる人型ロボットショルダーにバイオリアクターを取り付けることだった。

従来のバイオリアクターは硬い箱のようなものである一方、今回のチームは柔軟性を持たせたタイプのものを作り上げた。このバイオリアクターは、2つの硬いブロックの間に吊り下げられた柔らかいプラスチック製の足場の上でヒトの線維芽細胞(結合組織内にある細長い細胞)を培養する。研究チームはこの試験室をロボットショルダーに取り付け、人間が肩を上げたり回したりするのと同じ動きを、1日30分14日間に渡って繰り返させた。その後、このバイオリアクター内の細胞は伸展させなかったサンプルよりも再生速度が速く、遺伝子発現の様子も異なることが明らかになった。だが研究者らは、それが移植片の質にどのように結びつくのかについては今のところ解明できていない。研究チームは、従来のストレッチ型バイオリアクターと比較して今回の新たなバイオリアクター内で細胞がどのように成長するのかを調査する予定だという。

「生体組織工学にロボットを使用することで、格段にリアルな生体力学的刺激を作り出すことができます。これは画期的なことだと私は考えています」。今回の研究には関与していないシェフィールド大学工学部講師のダナ・ダミアンはそう話す。「次のステップは、従来のバイオリアクターに比べてロボットが関与した場合に明確な改善が見られると立証することです」。

このテクノロジーは、回旋腱板の裂傷を修復するための組織を生み出す用途に活用できる可能性がある。回旋腱板の損傷はスポーツ傷害や腱炎などの疾病によって引き起こされる非常にありふれた肩の異常のひとつであり、成人の肩痛の原因としては最も一般的だ。通常、外科医は損傷した腱を骨に縫い付ける手術をするが、およそ40%は組織がうまく回復せず失敗に終わっている。人型ロボットによる刺激を加えて培養した移植組織により、回復の成功率を高められる可能性がある。

この手法では今のところ完全に機能する移植用の腱組織を生み出すことはできないが、今回の研究者らによると、より質の高い筋肉や靭帯を作り出すなど、同様のアプローチを別の用途に応用できる可能性があるという。さらに研究チームは、ロボットを患者の生理機能に一致させ、患者一人ひとりに合わせた組織を作り出せる可能性があるとしている。

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米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」の執筆を担当。MITテクノロジーレビュー入社以前は、英国「i (アイ)」紙のテクノロジー特派員、テレグラフ紙のテクノロジー担当記者を務めた。2021年には英国ジャーナリズム賞の最終選考に残ったほか、専門家としてBBCにも定期的に出演している。
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