KADOKAWA Technology Review
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気候変動を止めるためにはブレークスルーがもっと必要だ
Chad Hagan
The world will need dozens of breakthrough climate technologies in the next decade

気候変動を止めるためにはブレークスルーがもっと必要だ

2022年の「35歳未満のイノベーター」は、高効率な電池やおいしさを高めた植物由来の原材料を用いた食品など、あらゆる角度から気候変動問題に取り組んでいる。そして、このような技術を開花させるには政府、民間の両方からの投資が欠かせない。 by Varun Sivaram2022.11.01

私たちは今、極めて重要な10年を生きている。2030年までに世界の温室効果ガス排出量を半減する必要がある。その主な原動力は、風力タービンや太陽光パネル、電気自動車など、商用展開された解決策の大量導入だ。しかし、この10年の間に、新しい気候変動対策テクノロジーも市場に参入する必要がある。たとえそれが、すぐに排出量削減に大きく役立たないとしても、だ。国際エネルギー機関(IEA)の予測では、2050年までに二酸化炭素排出実質ゼロを達成するために必要となる削減量の約半分は、製造コストが高すぎたり、大規模テストがされていなかったり、あるいはその両方の理由でまだ市場に出ていないテクノロジーによって達成されなければならない。

シリコン系太陽光パネル、陸上風力タービン、発光ダイオード(LED)、リチウムイオン電池など、研究開発から大量生産へと移行できたのは、ほんの一握りのクリーンテクノロジーだけだ。そして、そのようなクリーンテクノロジーが世界の排出量を大幅に削減できる規模に達するまでに、数十年がかかった。2021年に英国グラスゴーで開催された国連気候会議(COP26)で各国首脳が合意した「産業革命前からの気温上昇を1.5℃に抑える」目標を達成するには、新技術の市場投入までにかかる期間を短縮する必要がある。1.5℃以内に抑制できれば、壊滅的な影響を回避できる可能性が高くなる。

この変化を推進することになるのが、電力、輸送、工業、建築分野のクリーンエネルギー・テクノロジーだ。これらの分野における化石燃料の使用が世界の温室効果ガス排出量の4分の3を占めるからだ。また、農業や森林伐採による排出量を削減し、大気中の二酸化炭素を除去して貯蔵するテクノロジーも必要になる。しかし、このようなテクノロジーには、ビル・ゲイツが言うところの「グリーン・プレミアム」(環境に配慮したオプションと二酸化炭素排出量の多いオプションのコスト差を示す指標)が付随することが多い。つまり、クリーンエネルギー・テクノロジーを使う場合、より多くのコストがかかることが多いということだ。

ビビッド・エコノミクス(Vivid Economics)による2021年の調査によると、新しいテクノロジーの研究、開発、商用化を支援する公的および民間資金が限られた状況では、いくつかの重要なテクノロジーのグリーン・プレミアムは今後10年先まで非常に高い水準にとどまるという。一方、この10年間にイノベーションを加速させることで、2050年までに排出実質ゼロを達成するための移行にかかる年間コストを2兆5000億ドル削減できる。移行コストが低いほど世界の国々にとっては受け入れやすい。

では、どうすればイノベーションを加速できるのか? 1つの方法は、将来の顧客需要を約束することだ。これによって、イノベーターや投資家は、実証されていないテクノロジーをスケールアップし、その過程でコストを迅速に削減する方法を見つけようという気になる。ジョー・バイデン大統領と(私の上司である)気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使が世界経済フォーラムと協力して立ち上げたファースト・ムーバーズ・コーリション(FMC:The First Movers Coalition)では、参加する世界の大企業50社以上が、2030年までに新しい気候変動対策テクノロジーを購入することを約束した。そのテクノロジーの中には、海運や航空の脱炭素化を推進するクリーン燃料、低炭素化を進めた鉄鋼やアルミニウム、ゼロエミッショントラック、大気中の二酸化炭素を吸収する先進テクノロジーなどがある。

「将来の購入のコミット」によって、ワクチン開発から商業宇宙飛行まで、最先端テクノロジーがほかの分野の商業市場に迅速に参入できるようになった。これと同じアプローチで、新しいクリーンテクノロジーをスケールアップし、より炭素集約型のテクノロジーに対するコストのプレミアムを下げるまでの期間を短縮できるだろう。

クリーンテクノロジーに対する需要の高まりに加えて、その供給への投資も増えている。バイデン大統領が推進してきた超党派インフラ法は、クリーンテクノロジーの実証プロジェクトに200億ドル以上を投資する。また、民間のベンチャーキャピタルによる気候変動対策テクノロジーのスタートアップへの投資は2021年に400億ドルを突破し、過去最高を記録した。

しかし、2022年前半は、幅広いテクノロジー分野の株価が暴落し、さまざまな分野でベンチャーキャピタルの投資も鈍化している。市場の冷え込みは短期的にはクリーンテクノロジー企業に影響を与える可能性はあるが、このセクターへの投資は、ベンチャー投資家が2006年から2011年にかけて250億ドルを投資したものの、バブル収束時には投資資金の半分が失われていた10年前の「クリーンテック1.0」バブル時と比べると、まだ継続できる状況のように思われる。

世界中の政府による支援政策に加え、現在の起業家はより豊かなイノベーションエコシステムにアクセスできる。2022年の「35歳未満のイノベーター」の中には、米国の国立研究所でテクノロジーを育て、大手エネルギー会社や自動車会社からの投資や協力を得て、ブレークスルー・エナジーのような長期投資家のポートフォリオに加えられた人たちがいる。特に米国のイノベーターにとって、このような多様な資金源は、企業がいわゆる「死の谷(デスバレー)」を乗り越え、テクノロジーをプロトタイプから商用生産へと発展させるのに役立つ。

地球を救うことに加えて、気候変動イノベーターには大きな報酬が待っている。10兆ドルを運用する世界最大の資産運用会社ブラックロックの最高経営責任者(CEO)ラリー・フィンクは、経済の脱炭素化を「私たちの生涯で最大の投資機会」と表現し、「世界の脱炭素化を助け、すべての消費者が手頃な価格でクリーンエネルギーへ移行できるようにするスタートアップ」が次の「ユニコーン」企業1000社になると予測した。

2022年の35人のリストに選ばれた人たちは、このチャンスをつかんでいる。彼らの成功は、私たち全員が応援できるものだ。

ヴァルン・シヴァラムは、気候変動問題を担当するジョン・ケリー大統領特使に助言を与える上級職を務め、クリーンエネルギー・イノベーションを担当(2021年の「35歳未満のイノベーター」の受賞者で、2022年の審査員)。本記事で示された見解は著者のものであり、必ずしも米国政府の公式な方針を示すものではありません。

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