死後1時間のブタの臓器が蘇る——イェール大が「脳」に次ぐ新成果
イェール大学の研究チームが、死後1時間経ったブタの臓器の機能を修復することに成功した。現時点でヒトへの応用にはほど遠い状況であり、倫理的な問題も残るが、臓器移植の可能性を将来大きく高めることになるかもしれない。 by Rhiannon Williams2022.08.15
死後1時間が経過したブタの臓器細胞の劣化を阻止する新しいシステムが開発された。開発したのは、イェール大学医学部の研究チーム。同チームはこのテクノロジーによって、処置したブタの血液循環の回復と損傷細胞の修復に成功した。
8月3日付けでネイチャー誌に掲載されたこの研究成果は、人体から摘出したヒトの臓器をより良い状態でより長く維持し、移植への適性を高める道を切り拓く可能性がある。酸素を奪われた細胞がどのように反応するか、洞察を与えることで、脳卒中や心臓発作の治療法を科学者が考案するのに役立つ可能性もある。
イェール大の研究チームは、心臓と肺の機能をシミュレートするために、コンピューター制御の「オーガネックス(OrganEx)」と呼ばれる装置を使用した。この装置で、死後1時間が経過したブタの全身に灌流液(合成ヘモグロビン、抗生物質、細胞保護や血液凝固阻止能のある分子を混合した液体)を流し込み、ブタの動脈内に設置したセンサーを使ってリアルタイムで循環をモニタリングし、血圧を測定した。
次に、オーガネックスで処置したブタと、従来型の装置である「エクモ(ECMO、体外式膜型人工肺)」に接続されたブタを比較して、オーガネックスの有効性を検証した。エクモは、重篤な心肺機能の低下に見舞われている患者の命を救うために、病院で使用されている機器だ。
その結果、オーガネックスで処置した臓器は、エクモで処置した臓器よりも、出血、細胞損傷、組織の腫脹の徴候が少ないことが分かった。研究チームによると、これはオーガネックスが、生命維持に関わる複数の臓器で細胞機能の一部を修復できることを示しているという。介入がなければ死んでいたはずの臓器だ。例えば研究チームは、オーガネックスを使ったブタから採取した心臓細胞が収縮する様子を観察できたが、エクモを使ったグループのブタでは同様の収縮は認められなかった。
イェール大学医学部のネナド・セスタン教授(神経生物学)は記者会見で、「これらの細胞は、本来機能しなくなってから数時間後に機能しています。つまり、細胞死のプロセスを停止できたということです。死後1時間が経過しても、生命維持 …
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