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テスラ元CTOが作った電池リサイクル工場、間もなく稼働へ
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Inside a battery recycling facility

テスラ元CTOが作った電池リサイクル工場、間もなく稼働へ

蓄電池の材料はもうすぐ不足する。レッドウッド・マテリアルズがネバダ州に建設中のリサイクル施設は、使用済み蓄電池から希少金属を回収することを目指している。このような施設が、電池材料の需給ギャップ解消に役立つかもしれない。 by Casey Crownhart2022.11.16

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

今回は、ネバダ州リノ郊外の山岳地帯へ向かい、電池リサイクル施設を見学しよう。

リノに到着すると、まるで古い西部劇映画の世界に足を踏み入れたような気分になった。西部劇によく登場する、風に吹かれて転がる枯れ草の塊(タンブルウィード)が道路を横切り、ハイウェイを降りると、この地域で有名な野生の馬が目に入る。とはいえ、ネバダ州西部は複数のハイテク企業の本拠地でもある。テスラの「ギガファクトリー」の第1号工場もあるし、そこから16キロメートルほどのところに、今回の見学先である「レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)」の巨大な電池リサイクル施設もある。

レッドウッド・マテリアルズは、電気自動車界で大きな注目を浴びているスタートアップ企業だ。テスラの共同創業者で初代最高技術責任者(CTO)を務めたJ. B. ストラウベルが創業した同社は、使用済み電池をリサイクルして新しい電池材料を製造することを目指し、7億ドル以上の資金を調達した。自動車メーカーや電池大手、さらにはアマゾンのような消費者向け小売業者とも契約を結んでいる。

バッテリーのリサイクルは、使用済みのバッテリーを捨てる埋立地の代わりになるだけではない。使用済みのバッテリーは、電池の需要が急増するにつれて不足する稀少鉱物の重要な供給源になる可能性がある。

リサイクル施設は、電池のサプライチェーンをめぐる世界的な力関係を変化させる鍵にもなるかもしれない。米国で新たに成立した電気自動車(EV)に対する税控除は、材料調達に制約を伴う。したがって、自動車メーカーが自社の自動車を確実に認定させるために、米国内でリサイクルされた材料を選ぶ可能性がある。この税控除に関しては、以前の記事を参考にしてほしい。

レッドウッド・マテリアルズは今年これまでに、ネバダ州に35億ドル規模の電池リサイクル施設の建設を発表した。同社によると、2025年までに同施設は毎年、約100ギガワット時相当の新しい電池を作るのに十分な材料を生産する予定だ。これはEVにしておよそ100万台分に相当する。

私が訪問した9月末時点では、建設は順調に進んでいた。同社は年末までにこの新しい施設の一部運用を開始する予定だ。

安全対策用のベストとヘルメットを着用して、敷地内を歩き回った。最初に見学したのは、湿式製錬所の基礎と骨組みだ。湿式製錬所では、選別・粉砕された電池材料に化学的な処理が施され、リチウム、ニッケル、コバルト、銅という最も貴重な金属が分離される。

敷地内の一番奥にある製造棟の中も見学させてもらった。そこには、リサイクルされた銅を使って銅箔を製造する機械が置いてあった。その銅箔を、レッドウッド・マテリアルズは電池メーカーに販売する。年末には稼働する予定のこの機械は、製造棟内の片隅にひっそりと置かれていたが、後に拡張する余地は十分にある。

見学ツアーの最終地点は、広大な駐車場だった。駐車場には、建設の仕上げ期間に収集された電池が保管されている。全部で10エーカー(およそ40468平方メートル)以上ある駐車場は箱で埋め尽くされている。その箱の中には、EVから取り出したモジュールやノートPC、さらには使用済みおもちゃまでもが詰め込まれている。

私は、エネルギー転換を可能にする要素の、特にその材料源とその行く着く先に強い関心を抱いてきた。この問題を気にしている読者も多いようだ。プラスチック電池固体電池のような新しいタイプの電池についての記事を発表するたびに、その特定の構成物のリサイクルの見通しについての質問が必ず寄せられる。

電池の材料とリサイクルについては、今後の記事で詳しく紹介する予定だ。

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  • ロシアのパイプライン「ノルドストリーム」のメタンガス漏れは大きな気候災害だが、化石燃料の生産で排出されている量はそれより多い。ノルドストリームからは、気候変動に大きな影響を及ぼす温室効果ガスであるメタンがおよそ30万トン放出された。世界の石油・ガス生産では1日半ごとに同量が排出されている。(ブルームバーグ
  • 電気飛行機会社スタートアップが試験飛行を実施。 イーヴィエイション(Eviation)のプロトタイプ「アリス(Alice)」が9月27日、ワシントン州上空を飛行した(シアトル・タイムズ紙)。しかし、電池が未来の飛行機の動力源となるには、まだまだ道のりは長い。その理由については、8月の記事をご覧いただきたい。
  • ハリケーン「イアン」の後、どのように被災地域を再建すべきか。気候変動の影響でハリケーンはますます威力を増し、頻発するようになっている。ハリケーンの被害を受けやすい地域は、海岸防御の強化、建築基準の厳格化、場合によっては移転によって、将来の被害を抑えることができる。(ニューヨーク・タイムズ紙
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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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