人間の神経細胞をラットに移植、脳の6分の1にまで成長
スタンフォード大学の研究チームは、実験室で培養したヒトの神経細胞の塊(オルガノイド)を生まれたばかりのラットの脳に移植し、ラットと共に成長することを示した。研究チームは人間の脳・神経疾患の研究に役立つとしている。 by Jessica Hamzelou2022.10.18
ラットの脳に移植されたヒトの神経細胞は成長を続け、ラット自身の脳細胞との接続を形成し、ラットの行動を導くのに役立つことが、新しい研究によって明らかになった。
10月12日にネイチャー(Nature)誌に掲載されたこの研究では、実験室で培養した人間の脳細胞の塊を、生まれたばかりのラットの脳に移植した。細胞は成長し、ラット自身の神経回路と統合され、最終的にラットの脳のおよそ6分の1を構成するようになった。研究チームによると、こうした動物は人間の神経精神疾患についてより詳しく知るために役立つ可能性があるという。
シンガポール国立大学の生命倫理学者であるジュリアン・サヴァレスキュ教授は、この研究には参加していないが、「脳疾患を理解と治療がさらに進展する重要な一歩です」と述べる。しかし、この進展は倫理的な問題も提起しており、特に、動物を「人間化」することが何を意味するのかをめぐって、疑問を提示していると言う。
今回の研究を指導したスタンフォード大学のセルジュ・パスカ教授は、10年以上にわたって神経オルガノイドを研究している。神経オルガノイドは皿の中で育てたニューロンの小さな塊で、特定の脳領域に似ている。神経オルガノイドは、ヒトの皮膚細胞から作られることが多い。皮膚細胞はまず幹細胞に作り変えられ、実験室で適切な条件下で、神経細胞を形成するように促される。こうして作られた神経オルガノイドは、脳細胞がどのように発火し、どのように情報を伝達するのか、ある種の疾患では機能不全がどのように起こるのかを研究するために利用できる。
しかし、実験室の細胞の塊からわかることは限られており、結局のところ、人間の脳で起こっていることを実際には再現していない。このため、パスカ教授をはじめとするこの分野の多くの研究者は、一般に使われる「ミニ脳」という言葉を避けている。神経オルガノイドの細胞は、人間の脳と同じような複雑な結合を形成できないし、同じように発火することもない。そして、人間の脳の細胞ほど大きくもない。「ヒトの神経細胞を何百日も保持しても、人間の脳の中で成長する大きさにはならないことが分かりました」とパスカ教授は言う。
また、実験室での神経細胞の変化が、どのよう …
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