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中国テック事情:WeChatアカバン騒動、スーパーアプリの弊害露呈
Stephanie Arnett/MITTR
The dark side of a super app like WeChat

中国テック事情:WeChatアカバン騒動、スーパーアプリの弊害露呈

共産党大会を前に発生したウィーチャットのアカウント停止騒動によって、あらゆるサービスを1つのアプリで利用できる「スーパーアプリ」に依存する弊害が露呈した。スーパーアプリは利便性が支持される一方、問題点も少なくない。 by Zeyi Yang2022.10.30

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

中国ウォッチャーにとっては、長い1週間となった。10月16日に始まった中国共産党第20回全国代表大会については、毎分のように新情報が出てくる。おそらくそれが理由だろう。横断幕を掲げた北京での抗議活動のニュースは、すでに大昔の出来事のようだ。

私は先日、北京での抗議活動がデジタル世界にもたらした余波について、記事を書いた。ウィーチャット(WeChat)のアカウントを停止された人が続出したのだ。中には、今回の抗議活動の写真を共有した人もいたが、一体何が原因であるのか分からない人もいた。アカウントを停止された人は、アカウントを必死に取り戻そうとした。巨大アプリであるウィーチャットを運営するテンセントに対して、公の場で、今回の抗議活動に言及したことを謝罪し、アカウントの復旧を嘆願したのだ。こうしたユーザーたちの「懺悔」についての詳細は、こちらの記事をお読みいただきたい。

しかし、この記事を執筆中に、あることに気づいた。中国担当記者である私にとっては当たり前のことでも、中国以外の人にとってはウィーチャットのアカウントの重要性はあまり直感的には理解できないかもしれない、ということだ。ウィーチャットのアカウントには、本当にそこまで価値があるのだろうか。たった1つのアプリが使えないだけで大きな影響を受けるのは、どうしてなのだろうか。

こうした疑問に手短に答えるなら、ウィーチャットは中国における社会的関係やデジタルライフのほぼ全ての基盤になっているからだ、ということになる。

代わりの選択肢は多くない。メッセンジャー、ワッツアップ(WhatsApp)、テレグラム(Telegram)、シグナル(Signal)は、どれもブロックされている。SMSメッセージには、スパムやサービスからの通知が殺到する。アップルのiメッセージでは、連絡できる相手がかなり限定される。中国ではアイフォーンのシェアはスマホ全体の約20%にとどまっているからだ(米国ではアイフォーンのシェアは50%を超えている)。また、一般の人々の間では、メールは基本的には使われない。家族や学校の友達と話すときも、同僚と話すときでさえも、ウィーチャットがほぼ唯一の選択肢なのだ。

当初のウィーチャットは、1対1のメッセージ送信とグループチャットの分野でシェアを持っているだけだった。だが、ウィーチャットは、次第に人々がインターネットで使いたいと考えるあらゆるサービスを飲み込んでいった。例えば、デジタル決済、買い物、ストリーミング、ソーシャルネットワーク、配車など、思いつくものはほぼすべてが網羅されている。さらに2017年には、ウィーチャットはアプリ内「ミニプログラム」を立ち上げた。これを使うと、エアビーアンドビー(Airbnb)、ウェイボー(Weibo)、それにオフィス・ツールなど、テンセント以外が提供するサービスを、ウィーチャットのプラットフォームから一度も離れることなく使えるようになる。つまり、アプリ内にフル機能のOSが搭載されているようなものなのだ。かなり便利に聞こえるのではないだろうか。しかし、一旦使い始めると、ウィーチャットから全く離れられなくなるということでもある。

つまり、ウィーチャットのアカウントを停止されると、上記のすべてが使えなくなるのだ。私が記事で指摘した通り、ウィーチャットのアカウントを取り戻すのは簡単ではない。実際には、その他のサービスへのアクセスを1つずつ取り戻す方が簡単だろう。だが、それでもウィーチャットで人間関係を10年かけて構築してきたユーザーもいるわけで、そうした関係を再構築するのに苦労することになる。「連絡先を登録し直していると、詐欺師かと問われました」と、アカウントを停止されたあるユーザーは私に語ってくれた。こうした人間関係のつながりを取り戻すのが、最も困難な作業といえるかもしれない。

しかも、ウィーチャットの影響は個人レベルを超えている。ウィーチャットは極めて人気で、あらゆる場面で使用されている。そのため、ウィーチャットは中国社会全体に影響を及ぼしてきたのだ。

スタンフォード大学で政治学を研究するイーチン・フーの話によると、ウィーチャットによるコンテンツ消費分野の独占の試みによって、中国での情報収集の方法さえも規定されてきたとのことだ。人々は、毎日長時間にわたってウィーチャットを使用しているため、情報の大部分をウィーチャットから得る人も多い。しかし、こうしたウィーチャットで公開されている記事は、グーグルのような検索エンジンで索引化されているわけではない(これは、ウィーチャットが製品の方向性として決定したものだ)。そのため、人々はウィーチャット以外でコンテンツを検索しようとしなくなり、その代わりにタイムラインに表示されるコンテンツを単に受動的に消費するようになっている。

また、この仕組みだと、公開からそこまで時間が経っていない記事も、見つけにくくなる。例えば前出のフーであれば、英語でブログ記事を執筆してWebサイトで公開すれば、公開の数年後であっても、多くは検索経由で新たに閲覧されることになる。しかし、その同じコンテンツが中国語でウィーチャットで公開されると、わずか数日後には人々の目に触れなくなる。そのため、知識層を含むコンテンツ発信者は、その瞬間に消費されることのみを前提としたコンテンツ、つまり短くて断片的で表面的なコンテンツに絞って発信した方が有利になる。

ウィーチャットのシステムは、このように閉鎖的かつ網羅的だ。このシステムが、ウィーチャットが商業的に成功を収めている隠れた理由である。1つのアプリの中にユーザーを閉じ込めることで、ウィーチャットは競合アプリにその独占的地位を揺るがされにくくしているということだ。しかし、このシステムによって、ウィーチャットは、権力者が操る危険なツールにもなっている。北京での今回の抗議活動に言及したユーザーのアカウント停止措置は、その好例だ。ウィーチャットがその他のコミュニケーションプラットフォームを駆逐したことで、政府は1つの中心的なハブを通して人々の言論を検閲しやすくなったのだ。

同じことが米国でも起きる可能性はあるだろうか。私は簡単には起きないと考えている。ウィーチャットが登場したのは、2011年のことだった。当時の中国では、現在のインターネットの常識はまだほとんど確立されていなかった。現在の米国では、ツイッターやフェイスブックなどの有名アプリであっても、ウィーチャットがしたようにさまざまな市場への進出を成功させることは大変困難だ。

それでも、各社はさまざまな市場への進出を模索し続けるものだ。テック業界の巨人たち、例えばイーロン・マスク(そう、おなじみの彼だ)はしばしば、巨大アプリの1つの理想的なビジョンとして、ウィーチャットを挙げている。確かに、こうしたプラットフォームは、多くのユーザーのデジタル体験をより便利にできるものだ。しかし、力が集中してしまうことで、少なくともユーザーにとっては意図せぬ多くの帰結につながってしまう可能性もある。そうした帰結は、ユーザーにとってはしばしばネガティブなものだ。これは、単に机上の空論ではない。すでにウィーチャットで目の当たりにしていことだからだ。巨大アプリという幻想を現実化しようと考えている人々は、民主主義の国であれば事情は違ってくると主張するかもしれない。申し訳ないが、私はより悲観的な見方をせざるを得ない。

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中国での「リモート・インターンシップ」は、その言葉の響きと実態とが異なっている。中国メディア「コネクティング(Connecting)」の報道によると、中国の大学生は偽のインターンシップに参加するために最大2万ドルを支払い、トップ企業の従業員のリモート非公式アシスタントとして「働いて」いる。履歴書をより立派に見せることが唯一の目的だ。このインターンシップ業界というもの全体が、虚構の上に成り立っている。「監督者」と呼ばれるのは実際にはしばしばエントリーレベルで、インターンを迎えたり社内文書を共有できる立場にないはずの従業員だ。また、インターンと呼ばれる学生には、実際にはスキル向上につながらない、その場しのぎのタスクが与えられている。しかし、中国では求人市場がますます厳しくなっており、こうした学生はトップ企業の名前が履歴書にあるだけでよりよい仕事にありつける確率が大幅に上がる可能性があると考えている。そして、そのためなら高額を支払うことをいとわない。

あともう1つ

中国の習近平国家主席が2時間にもわたって共産党大会の開会の辞を述べている際、非常に多くのウィーチャット・ユーザーがこの開会の辞の生配信リンクをタイムラインに投稿し始めた。ウィーチャットは同じ赤い四角形のプレビュー画像で溢れかえった。このイベントについてさほど熱狂的ではないユーザーたちは、別の赤い四角形を作り出した。老人男性が嫌なものを見る目つきで目を凝らして携帯電話をのぞいている人気のミームを編集したものだ。

 

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ヤン・ズェイ [Zeyi Yang]米国版 中国担当記者
MITテクノロジーレビューで中国と東アジアのテクノロジーを担当する記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、プロトコル(Protocol)、レスト・オブ・ワールド(Rest of World)、コロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌、サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙、日経アジア(NIKKEI Asia)などで執筆していた。
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