2023年の10大技術に今さら「電気自動車」が入った理由
世界各国と同じようなペースで、米国でも電気自動車の普及率が高まり続けている。しかし、米国には独自の流行がある。他の国々では小型の電気自動車が人気を博しているが、米国ではピックアップ・トラックなどの大型の電気自動車が人気だ。 by Casey Crownhart2023.03.09
この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。
ブレークスルー・テクノロジー10の発表は、私が毎年楽しみにしていることの1つだ。将来、重要になるテクノロジーを厳しく吟味できる機会だからである。そして今年は、10項目のうちの2つが気候変動とエネルギーに関するものとなった。
どのような項目が選ばれたのか? なぜ私たちがそれらを選んだのか? ぜひ本文へと読み進めていただきたい。この記事の後半では一時期騒動になったガスコンロについての話題にも触れようと思う。
2023年版ブレークスルー・テクノロジー10
ブレークスルー・テクノロジー10の2023年のリストがとうとう完成した。今年は気候変動に関係する2つのテクノロジーがリストに入っている。電気自動車と電池リサイクルだ。
リストの作成には7月から取り組み、日々のニュースに目を光らせて、私たちが取材したテクノロジーの中から重要だと見込んだものを選別してきた。
まだお読みでない方は、本誌の編集主幹であるデビッド・ロットマンの導入エッセーから読み始めることをお勧めしたい。記事の中でロットマンは、イノベーションにおける政府の役割について語り、米国や他の多くの国々で最近受け入れられている産業政策が、将来のテクノロジーにとって何を意味することになるのかを説明している。端的に言えば、シリコンバレーのやり方は、生産性の向上や経済の変革にはさほど効果を発揮していない一方で、別の方法があるという主張だ。
もし、テクノロジーが生産性や経済にインパクトを与えるために必要なことを理解したいなら、あるいは「産業政策」という言葉の本当の意味を知りたいなら、ブレークスルー・テクノロジー10の記事を読む前にこちらの記事に目を通すことを強くお勧めしたい。
では、ブレークスルー・テクノロジー10について、まずは避けられない電気自動車から始めよう。
電気自動車(EV)はそれほど新しいものではない、と考える人もいるだろう。最初のテスラ・ロードスターが登場したのは15年前(そう、2008年は15年前だ)だった。それ以前にも少数ではあるがゼネラル・モーターズ(GM)の「EV1」のような電気自動車が、1990年代には路上を走っていた。
電気自動車が今年のリストに入ったのは、技術的なマイルストーンがあったためではなく、クリティカル・マスに達したからだ。電気自動車は、2022年には世界の新車販売台数の約13%を占めている。商業的に、真の意味で他の車種と競合する車種に成長したのだ。技術だけでなく、インフラ、製造、消費者受容の面でも進歩が見られたこの瞬間は、電気自動車にとって大きな意味を持つ。
電気自動車のどのような形で今年のリストに入れるべきか? 正確に具体化するのは容易ではなかった。企画の段階から、数名のチームのメンバーが電気自動車に何かしら関係するアイデアを提案しており、さまざまな形が早くから浮かんでいた。
私が最初に提案したのは、EVピックアップ・トラックだった。ピックアップ・トラックは、米国では凄まじい人気がある。米国では2022年、販売台数のトップ3をピックアップ・トラックが占め、最上位はフォードFシリーズだった。したがって、F-150の新しい電気自動車版(ライトニング)の発売は、GMCやリヴィアン(Rivian)からの他の大きな発表とともに、重要な瞬間に感じられた。
しかし世界的に見れば、電気自動車が普及する様子は大きく異なっているようだ。米国民がより大型のEVを求める一方で、他の国々では車両の小型化が進んでいるのだ。中国では5000ドル未満の小型自動車「宏光ミニEV」の人気が急上昇し、インドでは2輪車両と3輪車両が急増している。
結局のところ、電気トラックはEVの今を象徴する限定的な存在だったのだろう(自動車の超大型化に大きな問題があることは言うまでもない)。
しかし世界的には、電気自動車の時代がやって来たことがますます明らかになっている。
リストにあるもう1つの気候関連の項目は、私も取り上げているが、電池のリサイクルだ。
電気自動車や携帯電話、ノートPCなどの機器に使われるリチウムイオン電池は、新しい電池に再利用できる貴重な材料を含有している。
リサイクル工程の発展により、企業はこれらの貴重な金属やその他の材料をより多く回収できるようになっている。現在、電池リサイクルの市場は中国に集中している。しかし北米でも、今後数十年にわたり、バッテリー材料のエコシステムで重要な役割を担うことになる工場の建設が進んでいる。レッドウッド・マテリアルズ(Redwood Materials)、ライ・サイクル(Li-Cycle)、アセンド・エレメンツ(Ascend Elements)といった企業が、数億ドルもの公的資金や民間資金を集めているのだ。
2023年のブレークスルー・テクノロジー10はこちら。どれも魅力的で学ぶ価値がある技術ばかりだ。エネルギー分野以外での個人的なおすすめは、CRISPR(クリスパー)を利用した高コレステロールの治療、古代DNAの解析の2つだ。
◆
別の話題:一体、ガスコンロの何が騒がれているのか?
米国消費者製品安全委員会(CPSC)の代表は1月9日、ブルームバーグに対し、同委員会がガスコンロに対して新たな規制を検討すると明らかにした。米国における小児ぜんそくのおよそ12%が、ガスコンロを原因としているかもしれないとする研究が12月に発表されて以来、ニュースになっている。
とはいえ、CPSCからのこの声明は、一部の見出しが伝えるほど大げさなものではない。連邦政府機関の職員はブルームバーグに、来年中の提案公表でさえ「早い方」になるだろうと語った。彼は後にツイッターで「誤解のないようにいうと、CPSCは誰のガスコンロも取り上げるつもりはない」と述べ、規制は新製品を対象としたものになることも明らかにした。だがこのコメントは、ジョー・マンチン上院議員が取り乱すには十分なものだった。
自宅のガスコンロについて、心配すべきなのだろうか?
ガスコンロが健康と気候の両方にリスクがあることを示す研究は増えている。
昨年のある研究で、スイッチを切っていてもガスコンロはメタンを放出することが判明した。また、調理中には米国環境保護庁の基準を上回るレベルの窒素酸化物(NOx)を放出することが確認された。NOxは、タバコの煙や車両の排気ガスにも含まれる一般的な汚染物質である。特に子どもの呼吸器系疾患を引き起こしたり、悪化させたりすることがある。
問題は、健康上の懸念を引き起こすことだけではない。コンロから漏れるメタンと、天然ガスを燃やすことで放出される二酸化炭素は、いずれも気候変動の原因となる温室効果ガスである。米国では約35%の家庭が調理にガスコンロを使用している。この割合は欧州でも同様で、調理用エネルギーの約30%をガスで賄っている。
批評家たちは、気候変動と健康の観点では、他にもっと大きな問題があると指摘する。それは、おそらく真実だ。調理は個人の天然ガス使用量のごく一部であり、個々の総排出量のごくわずかな割合を占めるにすぎない。窒素酸化物の排出源は、日常生活の中で他にもたくさんある(そう、自動車だ)。
何ができるのか?
それでも、ガスコンロを取り替えれば、調理による気候や健康への害を減らすことには役立つだろう。ガスコンロの買い替えは、高く付くかもしれない。だが米国の新しい政策によって、この費用が大幅に下がる可能性がある。インフレ抑制法の税制優遇措置は、中低所得世帯の新しい電化製品購入費用を賄うのに役立つかもしれないのだ。
そしてガスコンロを使い続けるしかない場合(私のように、賃貸物件に住んでいるために)、調理時にレンジフードのファンを利用したり窓を開けたりして換気を促すことができる。これは、電気式や電磁式の調理器を使っている場合でも良い習慣だ。新しいコンロについて調べているなら、業界団体が世論に影響を与えようと熱心に活動していることに気をつけるべきだろう。信頼に値するところから情報を得ているか、確認することが大切だ。
気候変動関連の最近の話題
- 中国では2022年の電気自動車とプラグイン・ハイブリッド車の販売台数が567万台を超え、過去最高を記録した。一方で、ガソリン・エンジン車の市場は13%縮小した。(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)
→ハイブリッド車は、すぐにはなくならない。(MITテクノロジーレビュー)
→中国は、メタノール車という別の選択肢にも賭けている。(MITテクノロジーレビュー) - 2022年に最も話題になった気候変動に関する論文には、新型コロナウイルス、気候の転換点、そして北極の研究などが入っていた。(カーボン・ブリーフ)
- パーティや家族の夕食会で、気候変動に関するつまらない作り話を暴くネタを揃えておきたいなら、入門編として最適なのはこれだ。(ディスカバー)
- 200近くの国々が、2030年までに陸と海の30%を保全することに合意したばかりだ。しかし、「30×30」と呼ばれることの多いこの目標の具体的な達成方法は、やや曖昧だ。(グリスト)
- ユタ州のグレート・ソルト湖には、興味深い生態系がある。しかし、そこへより多くの水が流れるよう議員らが変化を起こさない限り、湖は今後5年間で干上がる可能性がある。(CNN)
- 国連の新しい報告書は、大気中のオゾン層が回復に向かっていることを確認した。ほとんどの部分が、2040年までには1980年の状態へ戻るはずだ。(NPR)
→1987年のモントリオール議定書では、数十カ国が、オゾン層を破壊するフロンガスやその他の合成化学物質の段階的な削減に合意した。我々は2007年に、この条約が世界にとって何を意味したのかを振り返っている。(MITテクノロジーレビュー)
→この行動は、そうしていなければ起こっていたはずのいくつかの温暖化も防ぐことになった。(MITテクノロジーレビュー) - 米国における排出量は、昨年約1%増加した。良いニュースとしては、経済成長のペースを考えれば、排出量はもっと多くなっていた可能性がある。だが、気候変動への対処を進めるには、排出量を削減していく必要がある。(ヴォックス)
- 人気の記事ランキング
-
- Two Nobel Prize winners want to cancel their own CRISPR patents in Europe クリスパー特許紛争で新展開 ノーベル賞受賞者が 欧州特許の一部取り下げへ
- Promotion MITTR Emerging Technology Nite #30 MITTR主催「生成AIと法規制のこの1年」開催のご案内
- A brief guide to the greenhouse gases driving climate change CO2だけじゃない、いま知っておくべき温室効果ガス
- Why OpenAI’s new model is such a big deal GPT-4oを圧倒、オープンAI新モデル「o1」に注目すべき理由
- Sorry, AI won’t “fix” climate change サム・アルトマンさん、AIで気候問題は「解決」できません
- ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
- MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。