KADOKAWA Technology Review
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生命の再定義

CRISPR for high cholesterol: 10 Breakthrough Technologies 2023 高コレステロールのCRISPR治療

これまで遺伝子編集ツール「CRISPR」による治験は、希少な遺伝性疾患に限られていた。だが、CRISPRの新たな手法により、今後は、通常疾患の治療にも適用されるようになるかもしれない。

by Jessica Hamzelou 2023.03.06
Amrita Marino
キープレイヤー
バーブ・セラピューティクス、ビーム・セラピューティクス、プライム・メディスン、ブロード研究所
実現時期
10〜15年後

2022年、あるニュージーランド人女性が、史上初めてコレステロール値を永続的に下げる遺伝子編集治療を受けた。この女性は高コレステロールの遺伝リスクがあり、心臓病を抱えていた。だが今回の実験的治療を実施した科学者らは、この遺伝子編集治療は誰にでも効果を発揮し得ると考えている。

今回の治験は、治療に使われた「クリスパー(CRISPR)」と呼ばれる遺伝子編集ツールにとって転換点となる可能性がある。約10年前にこのテクノロジーがゲノム編集に初めて使われるようになってから、私たちはCRISPRが研究所から診療所へと舞台を移すのを目の当たりにしてきた。だが、当初の実験的治療は、希少な遺伝性疾患に焦点を絞っていた。高コレステロールの治療への適用には、より広範な可能性が秘められている。

バーブ・セラピューティクス(Verve Therapeutics)が開発したコレステロール低下治療は、塩基編集(あるいは「CRISPR 2.0」)と呼ばれる遺伝子編集形式に依っている。塩基編集は従来のCRISPRよりも的を絞ったアプローチであり、単純に特定の遺伝子を切断して遮断してしまうのではなく、単一のDNA塩基を別の塩基と交換できる。理論上、この方法はより安全性が高いはずである。重要な遺伝子を誤って切断してしまう可能性が低く、切断後にDNAが自己修復する際に起こりうる潜在的なエラーを避けることができるからだ。

もっと新しいCRISPRの形式が、事態をさらに進展させる可能性がある。「プライム編集」(あるいは「CRISPR 3.0」)では、DNAの塊をゲノムに挿入できるようになる。これが人間でうまくいけば、疾患を引き起こす遺伝子を交換できる可能性がある。

こうした新たなCRISPRの形式の組み合わせにより、遺伝性疾患に留まらない数多くの疾患へと遺伝子編集治療の領域が広がる可能性がある。いつの日か人々は、高血圧や特定の疾患に対する保護作用を持つとされる遺伝子を、自らの遺伝子コードに組み込む選択肢を手にすることになるかもしれない。

現時点ではすべてのCRISPR治療が実験段階にあり、安全性については明らかになっていない。安全性が証明されるまでは、深刻な疾患を持つ患者の治療に焦点を絞るべきだと論じる向きもある。 だがこうしたCRISPRの新たな形式がうまくいけば、他の多くの人々を救える可能性がある。

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