メキシコ政府が「太陽地球工学」実験禁止へ、研究者らの反応は?
太陽地球工学の実験として成層圏に反射粒子を放出しようとしたスタートアップ企業の試みの後、実験の現場となったメキシコの政府は太陽地球工学の実験を禁止する計画を発表。科学者たちに難しい問題を提起した。 by James Temple2023.01.26
MITテクノロジーレビューが第一報を出した米国人起業家によるメキシコのバハ・カリフォルニア州での粗野な太陽地球工学(ソーラージオエンジニアリング)の実験は、多方面で批判を呼んだ。現在、メキシコ政府は関連実験の禁止を計画している。
今回問題となっている太陽地球工学のスタートアップ企業、メイク・サンセッツ(Make Sunsets)の共同創業者であるルーク・アイゼマンCEO(最高経営責任者)は、ベンチャー・ファンドであるワイ・コンビネーター(Y Combinator)の元ハードウェア担当役員だ。アイゼマンCEOは2022年春、2つの気象観測気球に数グラムの二酸化硫黄を入れ、メキシコ半島のどこか不特定の場所から打ち上げたと語っている。気球が成層圏に到達して圧力により破裂し、粒子を大気に放出することを意図していたと言う。
科学者たちは、十分な量の二酸化硫黄や他の反射性の粒子を成層圏に噴射すれば、地球温暖化をある程度相殺できると考えている。過去に起こった大規模な火山噴火による冷却効果を模倣する格好だ。しかし、そのやり方は議論を呼んでいる。潜在的な副作用が不明であり、その可能性を議論することさえ気候変動の根本原因への対処の緊急性を損なう恐れがあるからだ。さらには、地球の温度を微調整する力を持ちながら、地域的に大きな差異のある影響をもたらしかねないテクノロジーを、どのように管理するかという難しい問題がある。
アイゼマンCEOは、自身の実験を報じたMITテクノロジーレビューや他のメディアに対し、気球の打ち上げを進める前に科学的な承認や政府からの認可を求めていなかったと認めた。アイゼマンCEOはこの実験の後、この構想を商業化するためにスタートアップ企業のメイク・サンセッツを共同設立した。同社は以前、約75万ドルのベンチャー・キャピタルを調達しており、将来の気球打ち上げ中に放出する粒子について「冷却クレジット」を販売する計画があると語っていた。
しかし、1月13日、メキシコの環境天然資源省は、国内での太陽地球工学実験を政府が禁止し、場合によっては中断させると発表した。同省は、メイク・サンセッツの打ち上げが通知も同意もなく実施されたと言及。禁止令については、太陽地球工学の危険性、そのような取り組みを監督する国際協定の欠如、そしてコミュニティと環境を保護する必要から発したものであると述べた。
多くの国は、既存の環境規制やその他の政策によって特定の行為を制限できる。だが、上記のような実験の明確な禁止を発表した国としては、メキシコが最初の国の1つになるのかもしれない。今回の発表では、モデリングや実験室での作業を含め、この分野の研究がすべて禁止されることになるかどうかは定かでない。プレスリリースは、メキシコが大規模な太陽地球工学の実施を停止するとも記述されている。つまり、太陽地球工学の大規模な実験や全面的な展開ができなくなるかもしれないということだ。
メキシコの環境天然資源省とバハ・カリフォルニア州政府からは、現時点ではコメントが得られていない。
「無期限に保留する」
アイゼマンCEOはMITテクノロジーレビューの問い合わせに回答しなかったが、ザ・ヴァージ(The Verge)に対し、将来の気球打ち上げは「無期限に保留されている」と語った。ウォール・ストリート・ジャーナル紙には、「反応の速さと範囲に驚いた」「対話が持てることを予想し、期待していた」と語った。
しかし他の人々は驚いていなかった。太陽地球工学におけるガバナンスと正義に焦点を当てた非営利団体の設立に動いているアメリカン大学の客員研究員、シュチー・タラティ博士は、MITテクノロジーレビューの以前の記事で、メイク・サンセッツの行動はこの分野を萎縮させかねないものだったと警告した。タラティ博士は、無許可で実施された今回の取り組みが地球工学研究への政府の支援を減らし、実験を制限する要求を増幅させることにな …
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