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都市遺構になった
メキシコ新空港が示す
新しい「再生」像
REUTERS/Carlos Jasso via Alamy
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Restoring an ancient lake from the rubble of an unfinished airport in Mexico City

都市遺構になった
メキシコ新空港が示す
新しい「再生」像

新空港の建設を途中で打ち切り、10億ドルをかけて広大な公園都市にするというメキシコの計画は、都市設計の新しいパラダイムを反映している。生態系を元に戻すのではなく、空港の遺構を再利用した未来の都市における生態系の構築を目指している。 by Matthew Ponsford2023.05.23

ナワ族の集団「メシカ(Mexica)」の人々が新天地を求めて祖先の地アストランを離れたのは、太陽神ウィツィロポチトリのお告げによるものだった。1325年、神の予言により、彼らはメキシコ盆地の最低部にある塩分を含んだ沼地にたどり着いた。「彼らは葦や茂みの中で、サボテンに止まってヘビをむさぼり食う鷲を見つけました」と詩人のホメロ・アリジスは書いている。「これはメシカが探していた徴候でした。そこは塩水と淡水が交わる沼の1つで、司祭たちは浸礼の儀式で、この地を手に入れたのです」。

1520年にスペインの侵略者、エルナン・コルテスが新大陸に上陸した頃、メシカがテスココ湖の湿地帯に築いた湖上都市は、旧世界のリスボンやパリといった首都よりも大きい、20万人の人口を抱えるまでに成長していた。湖上都市の1つテノチティトランは、上陸したスペイン人が見たこともないような複雑な人工島システムによって発展していた。それは水力学のパイオニアでもある、この都市の哲人の王とも言われたネサワルコヨトルの功績によるものだった。

それから5世紀がたち、この湖水系はほとんど消滅してしまった。侵略者はテスココ湖の水を排水し、テノチティトランを破壊し、支流を開発し、農場を作り、湖底を舗装して、アメリカ大陸で2番目に大きな都市を建設した。現在、この大都市メキシコシティは、都市部だけでも2100万人以上の人口を抱えている。

現在のテスココ湖は、その歴史ある湖面積の95%以上を失っている。2015年、干からびたテスココ湖底に130億ドルが投じられ、メキシコシティ新国際空港(NAICM)の建設が始まり、湖は消滅の危機に瀕した。空港を建設するには、すでに盆地の湖や川に張り巡らされていたパイプ、揚水ポンプ、運河といった巨大システムを拡張する必要があった。しかし、メキシコシティ中心部にほど近い場所にある寂れたかつてのテスココ湖は、巨大な生態系実験の場に生まれ変わろうとしている。

2018年にアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドールが新大統領に就任して数週間後、この好戦的な左派指導者は、すでに3分の1程度完成していた空港建設を中止して、国際投資家やメキシコのビジネス界を激怒させた。ロペス・オブラドール大統領は選挙期間中、過剰な支出や汚職があると空港建設プロジェクトの管理者を厳しく非難した。そして、選挙後に与党が実施した国民投票で、国民は空港建設の中止を選択した(ただし、批評家はの有権者の90人に1人が投票したに過ぎないため、この結果はメキシコ国民の民意を反映していないと批判)。

残されたのは、パリよりも広く、無秩序に広がったメキシコシティ圏の土地に囲まれた、不気味なほど何もない景観であった。大統領は、この広大な土地に世界最大級の都市公園の建設を決定し、「新テノチティトラン」プロジェクトと名づけた。のちにテスココ湖生態公園(PELT、以降テスココ公園)として知られることになるこの公園を監督するため、ロペス・オブラドール大統領はメキシコの建築家で景観設計者のイニャキ・エチェベリア博士を任命した。彼は20年以上にわたってこの地の復元を訴え続けていた。

エチェベリア博士が描くテスココ公園のビジョンは、生態系復元において生態系を人間が傷つける前の状態に戻すという従来型の復元策を覆す一連のプロジェクトだ。彼は時計を巻き戻すのではなく、繁栄する都市が、繁栄する生態系と共存する方法について、古い人工島システムの都市テノチティトランと現代のメキシコシティの両方から教訓を得て、盆地全体の未来を変革することを目的とした人工湿地を作ろうとしている。

10億ドルの予算をかけたテスココ公園は、空港建設の遺構の骨格やコンクリートで埋められた峡谷を再利用して、人間の訪問者を受け入れ、前例のない都市と生物の共栄を目的とした人工的な湖と生息地を作ろうとしている。また、エチェベリア博士のチームは、在来植物の苗床を開発して藻類のスピルリナを育てるなど、絶滅の危機に瀕した文化的慣行を復活することで、公園が経済の発展にも役立つことを望んでいる。最終的な姿は、かつてのテスココ湖の姿とはあまり似ていないだろうが、本来の自然システムに沿って構築されていたメキシコ盆地という長い歴史が蘇るかもしれない。

しかし現在、テスココ公園は、軍が警備する境界フェンスにより、かなりの範囲が囲まれたままだ。(2期目を目指さないと宣言している)ロペス・オブラドール大統領の任期が終了する2024年に向けて、プロジェクトは突き進んでいるが、その多くは一般に公開されず、論争の的になったままである。テスココ湖の再生計画は、消えてなくなってしまうかもしれない。

テスココ湖の回復

山脈と2つの火山に囲まれたメキシコ盆地では、水が盆地の外に流れず地中に拡散する「内陸流域」が歴史的に形成されてきた。その結果、最も低い位置にあるテスココ湖に塩が濃縮され、盆地というバスタブの栓のような状態になった。この塩分と淡水が混在する環境は、今では絶滅した魚種の生態系や、手足を再生する能力を持つ両生類メキシコサンショウウオ(現地ではメキシコ神話の神の一人に由来するアホロートルと呼ばれる)など、珍しい生物の進化を促すシャーレとしての役目を歴史的に果たしてきた。

現在、メキシコ盆地は、破壊的な悪化とその場しのぎの修復をした跡が残る環境にある。20世紀の水力工学プロジェクトでは、この盆地に巨大なパイプを通し、水と廃棄物を海へ排出した。ここ数十年、テスココ湖は外来種の麦のような穂状花序すいじょうかじょや耐塩性が強い低木の御柳ぎょりゅうが生い茂る平坦な地帯となっており、断続的に溢れる人工池やため池があるだけだ(低木は、下水や埋立地から湖底に流れ込んだ病気の原因となる粒子が、砂嵐で飛散するのを防ぐため1970年代に入植された)。

ニューヨークのセントラルパークの40倍以上の広さを持つテスココ公園の一部をなす未開発の湖底の西端は、最も大きな傷跡が残っている。その場所は2015年に空港の建設が始まった、約40平方キロメートルのエリアだ。2018年11月に建設が中止されると、蜘蛛型の巨大構造物はあっという間に廃墟と化した。英国の建築事務所フォスター・パートナーズ(Foster + Partners)はこの場所を、アメリカ大陸最大の空港として設計した。現在最も目立っているのは、メインターミナルの基礎になるはずだった広大な地面を囲む、数階分の曲がった鉄柱だ。

その向こうの景観には火山礫のテゾントル岩が広がっており、空港用の頑丈な建築資材として使用するため近隣で採掘され、採掘現場のメキシコ州北部丘陵地帯には無残な採掘跡が残っている。空港建設が中止されて以来、滑走路として予定されていた場所から大量のテゾントルを運び出し、湿地帯へ戻し始めている。

エチェベリア博士は復元プロジェクトが始まった当初から、この人工的に手を入れられた地表のすぐ下に生態系が存在した形跡があったと話す。

エチェベリア博士は、ペンシルベニア大学スチュアート・ワイツマン設計大学院(Stuart Weitzman School of Design)で教鞭をとり、持続可能な都市計画に関する思慮深い著作でも知られている。彼はテスココ湖の広大な湖底で時々、一人で行動をすることがあり、時には彼と一緒にいるのが大好きな3人の子どものうち1人や同僚が同行することもあった。テスココ湖が暴風雨に見舞われて、湖底に溜まった約90センチメートルの水たまりをピックアップ・トラックで走り抜けようとした時、泥濘に車輪が埋まったこともあったと回想している。「(枯れていてもテスココ湖は)湖なのですよ」と彼は言う。「湖でありたい、湖に戻りたいと願っているのですね」。

沈みゆく都市

2020年8月、エチェベリア博士はテスココ公園建設の3つの優先順位を発表した。訪問者用施設の構築、植生の回復、水を蓄えられる場所作りの3つだ。完成すれば、公園にはスポーツ複合施設やサイクリング・コースなどが整備され、年間870万人の来園者を想定している。これまでに支出した2億3000万ドルのうちの1億7500万ドルを占める、公園で最も高価なこれらの施設は、公園全体の面積に占める割合ではわずか0.5%に過ぎないという。

湖水系の植生を回復させる取り組みはより広範囲に及び、現在、200種以上の在来植物を代表する180万本の植物が公園を再緑化するために栽培されている。ここで育つ好塩性つまり塩分を好む植物は、通常の園芸店では販売されていないため、最終的に公園に植えられる植物の多くは、現在、敷地内にある10ヘクタールの苗床で栽培されている、とエチェベリア博士は説明する。

しかし、最も劇的な変化は、再び「湖」にする水を取り戻すことだろう。このプロジェクトは、土木工事や空港建設の中止によって残された資材を創造的にリサイクルして、土地の地形と水循環の回復を目的としている。

テゾントルの堤防は、雨水や自然の流れで満たされる雨季の貯水用ため池の境界として機能する。空港から地表水を排水するために設置された排水路は、水が再び敷地内へと戻るように経路を変更された。かつてテスココ湖が水で覆われていた場所は、テスココ公園の東端から流れてくる9本の川によって再び満たされるだろう。これらの措置により、723ヘクタールの水系が回復し、900ヘクタールの水域が復活する予定だ。中には、シエネガ・デ・サン・フアン北部の湿地帯や、公園の端にあり現在は干上がっている、ハラパンゴとテスココ・ノルテの湖も含まれる。

これらの取り組みは、メキシコシティで最大の課題の1つである、不規則な首都の沈下を解決するのに役立つはずだ。メキシコシティは都市の渇きを癒すため過剰に開発された広大な地下帯水層の上に位置しており、近隣の市街地の街路は、まるでしぼんだウォーターベッドの上に建てられたかのように波打っている。テスココ公園の一部は、年間20〜40センチメートルの速度で沈下している。これは市内のどこよりも早いペースだ。

メキシコシティは飲料となる水が少なすぎることに苦労しているが、地上に氾濫する水にも対処しなければならない。かつての湖底には、コンクリートとアスファルトの不浸透層が広がっているため、暴風雨の際に洪水に見舞われるのだ。テスココ公園のため池が復活すれば、メキシコシティの貯水タンクとして近隣地域の洪水を防ぐのに …

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