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猛暑再び、人間の身体はどれだけの暑さに耐えられるか?
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Here’s how much heat your body can take

猛暑再び、人間の身体はどれだけの暑さに耐えられるか?

猛暑の夏が再び世界を襲っている。なぜ猛暑は問題なのか、人間にとって「暑すぎる暑さ」とはどれくらいなのか、暑さへの順応はどの程度可能なのか、以前の記事を踏まえて深掘りしてみた。 by Casey Crownhart2023.08.14

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

「暑い」ことを訴える言葉が尽きかけているような思いだ。

7月最後の土曜日、ニューヨークはひどく暑かった。気温は32℃を上回り、高湿度の空気はものすごくべたついていた。そよ風を願いながら、ふと気づくと私は、人間の身体が極端な暑さにどのように対処するかについて執筆した2年前の記事を思い出していた。私たちが対処できる限界が気候変動によって押し上げられるありさまを書いた記事だ。

しばらく時間が経ったので、このテーマに立ち返り、記事執筆の際に話を聞いた研究者の1人に最新の状況を尋ねようと思い立った。というわけで、この記事では、暑すぎるとはどれくらいの暑さなのかについて語ろうと思う。

なぜ暑いことが問題なのか? 

人間の身体は、深部体温が約37℃の比較的安定した状態に維持される必要がある。要は、体内で細胞が仕事をし、食物を燃焼させてエネルギーを取り出すため、私たちは常に熱を産生しているということだ。「これは哺乳類としての機能です」と、インディアナ大学ブルーミントン校で生理学を研究するザカリー・シュレイダー准教授は言う。

その結果、体温の平衡を維持するために、私たちは絶え間なく熱を取り除いている。そのほとんどは皮膚からで、皮膚は熱を周囲の空気に放散している。発汗はそのプロセスを速く進めることができる。

だが、極端な暑さにさらされると、この熱損失、ひいては平衡を維持する作用の全体が狂いかねない。身体が十分に速いペースで冷えることができなければ、心臓にストレスを与え、腎臓や肝臓を混乱させるなど、連鎖的な問題が引き起こされる可能性がある。

暑すぎるとはどれくらいの暑さなのか? 

人間、身体、健康に関わるほとんどの問題と同様に、これは1つの数字で示せるほど単純明快にはいかない。「こういうことは言いたくないのですが、何もかもが複雑だからです」とシュレイダー准教授は言う。

非常に多くの要因が、揺れ動く内部温度の平衡を保つための身体の仕組みをまさしく変化させる。年齢、健康状態、投薬、暑さに順応している程度(これについては後述)は、身体がどれだけの熱を取り除けるかの決定要因になる。非常に高齢の人や非常に幼い人は、体温の調節において、より多くの問題が生じる。その人の活動レベルも、取り除く必要のある熱を身体がどれだけ産生するかの決定要因になる。

しかし、研究者は通常、湿球温度と呼ばれる尺度で35℃を人間の身体の理論的な限界に据えている。 

湿球温度は聞きなれない指標だが、基本的には、暑さと湿度を1つの数値に組み込もうとするものだ。簡単にいうと、温度計の感温部を湿った布でくるんだ場合に示す温度である。乾燥した環境では、その布から水が蒸発する際にあたりを冷却し、温度を引き下げる。一方、湿度が高く空気に多くの水分が含まれている場合は、蒸発量が減少するため、冷却の度合も小さくなる。

湿球温度が35℃に達する条件の例を2つ挙げてみよう。空気がほぼ乾燥している場合、この限界に達するには気温が54℃を超える必要がある。一方、相対湿度が50%の場合は、気温43℃でその湿球温度に達する。

湿球温度は、発汗でどれだけ身体を冷やせるかが分かるので、指標として有用である。湿球温度35℃以上では、身体は汗の蒸発を通じて十分に熱を取り除くことができない。だが、これは今もって理論的な限界だ。最近まで、人間ではそれほど実験されてこなかった。

初期の研究では、この限界は理論が示唆する値から修正される可能性があることが示されている。ただし、低いほうにだ。2021年のある研究では、健康な若年成人でも、特に高湿度環境で、理論的限界より低い温度で熱損失が追いつかなかった。

結論はこうだ。研究者は現在も人間にとっての暑さの限界がどこであるかを理解しようと努めているが、分かっているのは、特定の環境要因や健康要因に大きく依存するということだ。 別のいくつかの興味深い研究によると、人間の耐暑性が時間の経過とともに、つまり歳をとるにつれて、さらにはさらされる熱の量によっても変化する可能性があるという。

どうすれば暑さにうまく対処できるか?

数年前に極端な暑さについて調査を始めたときに素晴らしいと感じたものに、順応の概念がある。人間の身体は暑さに適応できるのだ。 

ずっと暑さにさらされていると、身体にいくつかの変化が起こると、シュレイダー准教授は言う。血漿の産生が増え始め、基本的には総血液量を押し上げる。つまり、血液を循環させるのに心臓がそれほど仕事をしなくても済むようになる(熱を追い出す主要な方法の一つは、血液が熱を皮膚まで運ぶことだ)。発汗プロセスも変化する。発汗速度が速くなり、発汗量は増え、汗は希釈され、その結果喪失する電解質の量が抑えられる。全般的には、高地に適応するのにいくらか似ている。

7月29日に掲載された、まさにこの概念を伝えるワシントンポスト紙の記事を巡って、インターネット上で多くの論争が繰り広げられている。この効果が本当であるかどうかや、気候変動に取り組む必要性から目を大きく背けさせるものなのかどうかについて、議論が交わされた。

2年前に最初の報告をして以来、非常に多くのコメントを読み、もう少し深く掘り下げたことを受けて、2点述べたいと思う。一つ目は、シュレイダー准教授が指摘するように、この効果は本当であり、人間の身体がいろいろなことに順応できるのは、まったくもって自然の仕組みであるというこだ。二つ目は、身体の順応は気候変動が引き起こす暑さから人間を守る魔法の解決策にはならないということだ。 

このような身体的効果が生み出すことのできる違いには限度がある。シュレイダー准教授によると、身体は2、3度高い温度に数週間で順応できる可能性がある。だが、極端な状況で、とりわけ暑さの中で仕事をしなければならない場合に、人間の安全を確保するには不十分だ。人間が耐えられる暑さには限度がある。人や場所によって変わるかもしれないが、限界そのものはある。

世界各地で気温が最高記録を更新し続けており、私たちの安全を維持するためには他の方法を大いに活用しなければならないだろう。これには、エアコンや扇風機のような冷却機器を使用する、日陰を求める、可能な場合は身体的活動をやめることなどが含まれる。暑さが大いに衡平性の問題であるのはそのためだ。誰もが信頼性の高い冷却テクノロジーを利用できるわけではないし、気温が高いときに誰もが屋内に退避できるわけでもない。

人間の身体の限界についての詳細は、このテーマに関する2021年の記事を読んでいただきたい。安全にお過ごしください。

気候関連の最新の話題

  • 先日、NPR(米国の非営利のラジオ・ネットワーク)の「オールシングス・コンシダード」に出演し、乾燥剤を使ったエアコンについて話した。(NPR
    →その内容はこちらで。(MITテクノロジーレビュー
  • 興味深いデータが記述されている。エアコンと気候変動について「頭を冷やす時だ」と、著者は主張する。著者が指摘するように、現在、世界全体の温室効果ガス排出量に占める割合としては、冷房より暖房の方がかなり多い。(ブルームバーグ・オピニオン
    → 私に言わせれば、暖房による排出量の方が多いからといって、エアコンの効率を改善しなくてよいというわけではない。2050年までの需要の伸びを考えてほしい。以前の記事で書いたように、それでも私はエアコンのことを気候アンチヒーローと呼ぶ。(MITテクノロジーレビュー
  • テスラ(Tesla)の一部の車両は以前、航続距離計が実際より露骨に長い予測を示していた。しかも同社は、航続距離の問題に関する顧客からの点検予約を取り消させるための特別チームを編成したと報じられている。(ロイター通信
  • メイン州がヒートポンプ計画を拡大中。同州は2025年までにヒートポンプ10万台を設置するという目標を達成し、2027年までに17万5000台へと目標を再び引き上げた。(カナリー・メディア
  • 大きな海流が弱まりつつあると、科学者が以前に指摘したが、新たな研究によると、この崩壊は2025年にも起こる可能性がある。そのリスクは重大だが、この研究には疑問が突き付けられており、短期的な危険を誇張しているのではないかと疑われている。(E&Eニュース
    → 2021年末に本誌のジェームス・テンプル編集者がこのテーマを深掘りした記事を強くおすすめする。(MITテクノロジーレビュー
  • 炭素を回収して農地の土壌に貯留することを約束するプロジェクトで、企業が何百万ドルものクレジットを販売した。だが、新農法の利点はそれほど明らかではないと指摘する研究者もいる。(サイエンス
  • 気候変動の奇妙な影響に分類される事実をお伝えしよう。大気中の二酸化炭素が増えた結果、海洋が酸性化し、カニの嗅覚を消し去ろうとしている。海洋の化学組成が変になるにつれて、甲殻類などの生物が食物や捕食者を感知する能力に影響が及ぶ可能性があるという。(ハカイ
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MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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