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電解液に水、送電網向け「燃えない電池」開発が活発化
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
How water could make safer batteries

電解液に水、送電網向け「燃えない電池」開発が活発化

現在バッテリーの主流であるリチウムイオン電池には発火しやすい欠点がある。送電網など大規模な貯蔵設備での利用を見越して、より安全性の高いバッテリーを開発・製造する企業が増えている。 by Casey Crownhart2023.09.12

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

電池(バッテリー)内部の液体について深く考えたことがある人はあまりいないのではなかろうか。

電解液と呼ばれるこの液体は、電池の機能や安全性を左右する重要な構成要素の1つである。最近、電解液に興味深い材料を使った新たな電池を提案するメーカーが増えてきている。その材料とは「水」だ。

現在、電気自動車(EV)やノートPCに搭載されているリチウムイオン電池は、電荷移動のためにエチレンカーボネートのような有機溶媒を使う必要がある(その理由については後で詳しく説明する)。しかし、有機溶媒の代わりに水を利用できる化学的手法によって、電池の安全性が向上する可能性がある。送電網の大型蓄電システムにより多くの電池が使われるようになれば、安全性向上は大きなメリットとなるだろう。

先日、米国エネルギー省から巨額の融資を受けたイオス・エナジー(Eos Energy)という電池メーカーについての記事を公開した。 そこでこの記事では、イオス・エナジーをはじめとする電池メーカーが、どのように水を使って電池の化学を変えようとしているのか、掘り下げてみよう。 

注目の話題:電池の安全性

リチウムイオン電池とその安全性について語るのは微妙である。というのも、世の中には誤った情報も多く、感情的な議論になりうるからだ。しかし、なぜ多くの電池メーカーが新たに開発した自社テクノロジーについて語るときに安全性を強調するのか、ここで掘り下げてみる価値はある。

リチウムイオン電池は一般的に、損傷したり、熱くなりすぎたりしたときに、さまざまな化学反応が誘発されて「熱暴走」と呼ばれる現象に至り、発火する可能性がある。そして実際、時々発火する。リチウムイオン電池を使用するデバイスには、このリスクを管理するための安全システムが装備されている。たとえば、電気自動車にはバッテリーパックの周囲に冷却システムが設置されている。

しかし、時には問題が生じることもある。製造上の欠陥が起こることもある(ゼネラルモーターズのシボレー・ボルト電気自動車の発火事故を覚えているだろうか)。電気自動車が一般的にどのくらいの頻度で発火するかは明確にわかっていない。一部のデータではガソリン車やディーゼル車よりも発火の頻度がはるかに低いことが示されている。しかしその一方で、電気自動車の火災の方が高温になる可能性があり、消火が難しい。

送電網で電池が使用されるようになると、安全性の問題はさらに重要になる可能性がある。送電網により多くの再生可能エネルギーが導入されるにつれ、たとえば、太陽光発電で得た電力を夜間の使用に回すための大規模なエネルギー貯蔵設備の必要性が高まっている。

このようなエネルギー貯蔵システムは、温室効果ガス排出量削減にとっては朗報だが、問題が起こることもある。カナリー・メディア(Canary Media)が報じたように、ニューヨーク州ではこの夏、送電網に設置された大規模な定置型蓄電設備での電池 発火が数件発生した。いずれの発火でも負傷者は報告されておらず、被害はバッテリー自体に限られていたが、相次ぐ火災はあまり良いものではない。

ニューヨーク市では電動自転車を火元とする火災への懸念も高まっている。このような火災で死者も出ている。そのほとんどが、正しく修理されていない自転車や、規格外のバッテリーを使用している自転車によって引き起こされており、バッテリーの規制と厳格な品質管理の必要性が浮き彫りになっている。

要するに、リチウムイオン電池は発火する可能性があるということだ。頻繁に発火するわけではないし、リスクを効果的に管理するために導入できる安全装置は数多くある。しかし、一部の電池メーカーは、そもそも発火しない次世代電池を開発したいと考えている。 

電解液に水を使う

リチウムイオンに使われている化学物質は、数十年にわたって最適化され、小型軽量のデバイスに大量のエネルギーを詰め込み、大量の電力を供給できるようになった。

その最適化の一端は電解液にある。標準的なリチウムベースの電池では、電荷を移動させるために塩を混ぜた有機溶媒が使用されている。理論的には、電池の溶媒に水を使うことは可能だが、通常はそうしない。それには十分な理由がある。大きな電力を供給するためにはリチウムイオン電池に高い電圧をかける必要があり、そうすると水が水素と酸素に電気分解されてしまうからだ。

しかし、送電網に巨大な蓄電池を設置するとなると、バランスの取り方が変わってくる。研究者や企業は、小型電池に多くのエネルギーを詰め込むことよりも、まず第一に電池のコストを下げることを優先する。

そのため、送電網でのエネルギー貯蔵を目的とした電池では、いくつかの妥協が許されることになる。急速な充電・放電は必要ないかもしれないし、可能な限り小型軽量化することもそれほど重要ではない。

そうなると、鉄や亜鉛のような重い材料を使うという選択肢も出てくる。必要な電力と電圧が低ければ、電解液として塩を混ぜた水を使うこともできる。そうすれば、コストを削減でき、電池生産が容易になり、安全性も高まる。水をベースとした電解液を使った電池に火をつけるのは、やろうと思っても難しいだろう。

次世代電池の開発において水を使用することの利点に注目し、商用化に向けて前進を始めた企業もある。 

フォーム・エナジー(Form Energy )は、送電網向け次世代電池の製造をリードする企業の1社である。同社の電池で使われている鉄と水を使った化学反応は、金属が水分にさらされることで錆びる化学反応に似ていることから、同社の電池は「鉄さび電池」と呼ばれることもある。フォーム・エナジーの公式サイトでは、システムには「熱暴走の危険性はありません」との説明があり、同社の電池の安全性がアピールされている。同社は2023年5月に、ウェストバージニア州で工場建設に着工した

イオス・エナジーもまた、亜鉛をカソード(正極)主材料とし、水ベースの電解液を採用した電池を製造している。同社の研究開発担当副社長であるフランシス・リッチーに、同社が採用した化学的手法の利点を質問したところ、リッチー副社長が最初に指摘したのは安全性だった。「何と言っても安全です。不燃性テクノロジーです」。

価格競争の難しさなど、代替技術を採用した電池の前途には多くの課題がある。リチウムイオン電池は何十年も前から存在しており、その間にコストは大幅に下がった。しかし、選択肢が増えることには潜在的なプラス面もある。たとえば、大型電池の設置に関する安全上の懸念の軽減に大きく貢献できるシステムなどだ。

MITテクノロジーレビューの関連記事

米国エネルギー省によるイオス・エナジーへの融資と、同社の亜鉛電池の仕組みについて、最新記事にまとめた。

送電網向け鉄系電池は、2022年の「ブレークスルー・テクノロジー10」に選ばれていた。その理由は、この記事に紹介されている。

ナトリウムイオン電池は、水または有機溶媒をベースにした電解液を使って作ることができる。電気自動車と定置型蓄電システムの開発において、多くの電池専門家がこの新しい化学手法に興味を示している。

電池のスタートアップ企業を世に送り出すのは容易なことではない。ナトリウムイオン電池メーカー、アクイオン(Aquion)の台頭、破綻、再生については、本誌のジェームス・テンプル上級編集者が2017年の記事にまとめている。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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