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「インターネット」の直し方
Erik Carter
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How to fix the internet

「インターネット」の直し方

インターネットの黎明期、現在のような状況を誰も想像していなかったし、望んでもいなかった。ネット上の人々の言動を改善したいのであれば、プラットフォームの枠を超えて行動する必要がある。 by Katie Notopoulos2024.02.22

私たちは今、インターネットに関する非常に奇妙な瞬間にいる。皆、インターネットが破綻していることを認識している。それ自体はニュースではない。しかし、何か雰囲気が変わり、物事が変化しようとしているように感じている。ここ数年来初めて、私たちのネットでのコミュニケーションの方法に関して、本当に新しく、これまでとは異なることが起こっているかもしれない気がするのだ。 大手ソーシャル・プラットフォームがこの10年間、私たちに対して発揮してきた支配力は、弱まりつつある。問題は、私たちが次に何を望んでいるかだ。

インターネットには、救いようのないほど悪質で、有害で、避けるべき「ヘルサイト(hellsites)」が乱立しているという一種の常識がある。あなたのデータから利益を得ようとするソーシャル・プラットフォームは、閉じることのできないパンドラの箱を開けてしまった。実際に、インターネット上では本当にひどいことが起きる。ネット嫌がらせや有害な言動の標的となることが多いグループの人々にとっては特に害を及ぼす。利益動機から、プラットフォームはあまりにも頻繁に有害な言動を見逃すようになり、誤情報の拡散、ローカルニュースの衰退、党派対立の助長、まったく新しい形のいじめや悪行を可能にした。これらはすべて真実であると同時に、全体像のほんの一部でしかない。

しかし、インターネットはまた、疎外されたグループの人々にとっての避難所でもあり、支援、擁護、コミュニティのための場でもある。インターネットは、危機に際して情報を提供する。懐かしい友人とつながることができる。人を笑わせることができる。ピザの出前を頼むことができる。良いことも悪いこともあるという二面性を有しているのだ。「ダンシング・ベイビー」の動画と「タブ・ガール(検索してはいけない系列のショック画像)」とをお風呂の水で一緒に流し去ってしまうことを私は拒否する。インターネットには、守るために戦う価値がある。なぜなら、あらゆる悲惨な状況にもかかわらず、そこにはまだ良いことがたくさんあるからだ。しかし、ネット上の人々の言動を改善することは非常に難しい問題だ。 だが、聞いてほしい。心配することはない。私に考えがある。

インターネットとは何か、そしてなぜ私を追い回すのか

患者を治療するためには、まず病気を特定しなければならない。

私たちがインターネットの修復について語るとき、それは物理的・デジタル的なネットワーク・インフラのことを指しているのではない。プロトコル、相互接続点、ケーブル、そして人工衛星さえも、それら自体にはほとんど問題はない(いくつか問題があるものもあるのは確かだ。しかし、それはまったく別の問題である。たとえどちらにもイーロン・マスクが関わっているとしても)。私たちが話している「インターネット」とは、交流の場である一般的なコミュニケーション・プラットフォームのことであり、おそらくあなたも自分の携帯電話を通して何らかの形で関わっていることだろう。

中には大規模なものもある。フェイスブック、インスタグラム、ユーチューブ、ツイッター、ティックトック(TikTok)、Xなどだ。ほぼ間違いなく、あなたもこれらのうち少なくとも1つにアカウントを持っているだろう。もしかしたら、あなたはアクティブな投稿者かもしれないし、トイレで休暇中の友人の写真を見るだけかもしれない。

これらのプラットフォームで目にするものの正確な性質は人によって大きく異なり得るが、それらはそれぞれのビジネスの目的に沿った、普遍的に似た方法でコンテンツ配信を仲介している。インドネシアの十代の若者がインスタグラムで見る画像は、私が見るものと同じではないかもしれないが、その体験自体はだいたい同じだ。友人や家族の写真をスクロールしたり、ミームや有名人の投稿を目にしたり、 フィードがリールに代わったり、動画をいくつか見たり、友達のストーリーにコメントしたり、メッセージを送ったりする。実際の内容は大きく違っていたとしても、私たちはおそらく同じように反応する。仕様でそのようになっているのだ。

インターネットは、こうした大きなプラットフォーム以外にも存在する。ブログ、掲示板、ニュースレター、その他のメディア・サイト。ポッドキャストやディスコード(Discord)のチャットルーム、アイメッセージ(iMessage)のグループなどだ。これらは、人によって大きく異なる可能性のある、より個人的な体験を提供する。しばしば大手の支配的なプレーヤーと寄生共生のような形で存在し、互いのコンテンツ、アルゴリズム、オーディエンスを利用しあっているのだ。

インターネットは良いものだ。私にとってインターネットは、「キーボード・キャット」や「ダブル・レインボー」(編注:いずれも米国で人気のミーム)といった愛すべき存在だ。あるいは個人ブログや「ライブ・ジャーナル(LiveJournal)」、AIM(AOLインスタント・メッセンジャー)の離席メッセージやマイスペース(MySpace)のトップ8(お気に入りの8人を留め置きできる機能)。「気が散るガールフレンド」のミームや、「この虫は何?」のサブレディット。筋肉オタクたちが1週間は何日かを議論しているボディビル・フォーラムの有名なスレッド。他の人にとっては、シューティングゲーム「コール・オブ・デューティー(Call of Duty)」のミームや、ミスター・ビーストのような慈善家でユーチューバーの無心になれるエンターテイメント、あるいは自分が求めているとは思ってもみなかった、極めて特殊なASMR(聴覚・視覚への刺激により心地よくなったり、脳がぞくぞくする反応)映像を見つける場所かもしれない。虐待被害者のための匿名の支援コミュニティであったり、アラバマ州モンゴメリーの波止場にあるボートに端を発した人種的な背景のある乱闘に関するツイッターのブラック・ミームを見て笑ったり、ティックトックで知った新しいメイク手法を試したりする場所かもしれない。

インターネットは、非常に悪いものでもある。4ちゃん(4Chan)やデイリー・ストーマー(The Daily Stormer)、リベンジ・ポルノ、フェイクニュース・サイト、レディット(Reddit)での人種差別、インスタグラムでの摂食障害を助長する投稿、いじめ、ロブロックス(Roblox)での大人から子どもへのメッセージ送信、嫌がらせ、詐欺、スパム、インセル。そして、何が本物か人工知能(AI)かを見極める必要性はますます高まっている。

このような悪いことは、単なる無礼やネット荒らしの域を超えている。悲しみ、孤独、悪意が蔓延しており、それは多くのネット空間で自己強化されているようだ。場合によっては、まさに生死に関わることである。インターネットは現在、次の大量殺人犯が前回の大量殺人犯からアイデアを得ている場所であり、前回の大量殺人犯はその前の大量殺人犯からアイデアを得た。そして、その大量殺人犯は、インターネット上の初期のWebサイトのいくつかからアイデアを得たのである。インターネットは、フェイスブックが安全性よりも成長を優先したために、現地の言語を話すモデレーターの数が少なすぎる国での大量虐殺を奨励している。

実際に存在している問題とは、インターネットの最良の部分も最悪の部分も同じ理由で存在し、同じリソースを多く使って開発され、しばしば互いに連動して成長してきたということだ。では、この病気はどこからやって来たのだろうか。インターネットはどうしてこんなに、そう、不快なものになったのだろうか。この問題を解決するには、ネットでの交流の黎明期にまでさかのぼる必要がある。

インターネットの原罪は、自由を主張したことだ。インターネットは、さまざまな意味で自由であるために作られた。インターネットは当初、営利目的で開発されたわけではなかった。軍事と学術を目的とした通信メディアから発展したものがインターネットである(1980年代初頭の時点で、軍の一部ではアーパネット(Arpanet)の使用を限定し、防衛用途のみにしようとする動きもあった)。デスクトップ・コンピューターとともにインターネットが普及し始めた当時はまだ、ユーズネット(Usenet)やその他の人気のある初期のインターネット・アプリケーションは、ネットワーク・アクセスができる大学キャンパスで主に使われているものだった。毎年9月になると(ネットの)掲示板に新参者が殺到するとユーザーたちは不平を漏らしていたものだ。やがて90年代半ばに家庭でのインターネット・アクセスが爆発的に普及すると、「永遠の9月」が到来した。つまり、新しいユーザーが絶え間なく押 …

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