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NIHONBASHI SPACE WEEK 2022 Report #2

宇宙ビジネス展示会場で見た日本発ベンチャー・中小企業の技術

東京・日本橋で開催されたアジア最大級の宇宙ビジネス・イベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2022」の展示会場で取材した国内企業・団体の取り組みを紹介する。 by Koichi Motoda2023.01.25

2回目となるアジア最大級の宇宙ビジネス・イベント「NIHONBASHI SPACE WEEK 2022」が、東京・日本橋で2022年12月12日から16日まで開催された。今回は10の関連イベントが実施され、メイン・イベントとなる「TOKYO SPACE BUSINESS EXHIBITION 2022」(12月12日〜14日)の展示会場には、宇宙スタートアップを中心に、宇宙港設置に取り組む地方自治体やJAXAなど、宇宙ビジネスに関わる30の企業・団体が集結した。会場で取材した国内企業・団体の取り組みを紹介する。

着実な進捗が見えた日本発の宇宙ベンチャー

イベント前日の12月11日午後、民間月着陸船の打ち上げに成功し、大きな話題となったミッション「HAKUTO-R」を実行するispace(アイスペース)。ブースには、昨年に続いて今回もランダー(月着陸船)とローバー(月面探査車)の5分の1の模型が置かれ、打上げの様子を記録した動画が流された。

現時点では10あるミッションのうちの3番目が成功した段階だが、昨年の展示では「2020年代に月までの輸送プラットフォームを構築し、2030年代には水資源のバリューチェーンを構築して月面での経済圏や生活圏の構築を目指す」と紹介しており、今回の月着陸船の打ち上げによってその計画は確実に進捗していると言える。

イベント開催日前日に民間の月着陸船の打ち上げに成功したispaceのブース

デブリ除去をはじめとする、軌道上サービスの提供を目指しているアストロスケール。昨年の展示では打ち上げられた衛星がデブリ(ゴミ)にならないように、事前にマーキングしておいてミッションを終えたら回収するシステムを公開した。今回の展示では、それを一歩進め、すでにデブリになっているものを積極的に回収するプロジェクト「ADRAS-J」のフェーズ1として、現在宇宙空間を漂っているデブリの状態を確認する衛星のモデルを公開した。現在開発中で、2023年度中の打ち上げを目指しているという。

アストロスケールの「ADRAS-J」プロジェクトで利用される、長期にわたって放置されたデブリの状況を撮像する衛星

個人での宇宙旅行を可能にするプロジェクトが始動

今年の展示会場で目立ったのが、個人が楽しむ低価格の宇宙旅行の実現を支援する企業や団体の出展だ。「誰もが宇宙にアクセスできる時代を創る」をビジョンに掲げる「将来宇宙輸送システム」は、飛行機型のロケットを使い、1時間で大陸間のどこにでも移動できる輸送機を2040年までに作ろうとしている。最初の5年間で実証機を作り、その後に段階的に実現させていく取り組みを、さまざまな企業や団体とパートナーシップを組みながら共同で進めていくという。

一方、そうした宇宙機を実際に飛ばすにあたっては、さまざまな法整備が必要になる。また、民間企業で宇宙機を開発するには、膨大な資金調達も必要だ。宇宙旅客輸送推進協議会は、誰もが簡単に宇宙旅行をしたり、短期間で世界中を移動できる旅客輸送システムを日本の新たな基幹産業にするために、マーケットから先端技術、制度制度までを支援する団体として設立された。


2040年までに誰もが宇宙に行ける時代を目指す将来宇宙輸送システム(左)と宇宙旅客輸送推進協議会(右)のブース

もっと手軽な方法での宇宙旅行を早期に実現させようとしている企業もある。岩谷技研が実現を目指すのは、「ふうせん宇宙旅行」だ。気球を使い、2時間ほどかけて高度2万5000メートルまで上昇する。

気球による宇宙旅行を目指すメリットとしては、まずロケットに比べて経済的で安全なことだ。また、ロケットに乗る場合は事前に長い時間をかけて打ち上げ時の加速(G)に耐える訓練が必要で、子どもや高齢者は肉体的に適応が難しい。そういった課題を解決するのが、気球に乗って上昇する宇宙旅行で、将来的には家族が一緒に乗船して楽しめるようにしたいという。

実現のスケジュールとしては、2023年の夏頃までに1人乗りでの2万5000メートル到達を目指しており、その後何度か実証実験を繰り返して2023年の秋頃から乗客の募集を開始し、最短で2024年の3月までに最初の乗客にサービスを提供したいという。その段階での旅行代金は1人2000万円になりそうだが、徐々に気球やキャビンを大きくして一度に運べる人数を増やし、最終的には1人200万円程度で一度に5人を運べる宇宙旅行の実現を目指している。課題は、気象条件などに影響される気球のコントロールだ。

岩谷技研が目指す「ふうせん宇宙旅行」のキャビン(左)と気球(右)のイメージ

JAXAとタカラトミーが開発した変形型月面探査ロボット

JAXAは民間企業や学術機関などとの共創によって、地上と宇宙の課題を技術で解決する「JAXA宇宙探査イノベーションハブ」の取り組みを進めている。会場ではその成果の一部が公開された。JAXAとタカラトミー、ソニー、同志社大学の共同開発による変形型月面探査ロボット「SORA-Q」は、月面の低重力環境下における超小型ロボットの探査技術を実証するとともに、JAXAとトヨタが開発している「有人与圧ローバー(探査車)」の実現に向けたデータを取得する目的もあるという。

「SORA-Q」にはタカラトミーが、おもちゃの変形ロボットの製造などで蓄積してきた、変形機構のノウハウが使われている。変形前は直径約8センチの球体が、月に到着した着陸機から放り出されると中央で割れ、外殻をタイヤ代わりに回転させて移動する。そうやって、自走しながらレゴリス(月の砂)などを調べ、集めたデータを有人与圧ローバーの改良に役立てる。なお、「SORA-Q」は現在ispaceのミッション「HAKUTO-R」によって月に運ばれている。

JAXAがタカラトミーやソニーなどと共同開発した小型の月面ローバー

宇宙における実験環境を支援する企業

宇宙空間を利用した実験環境を整備する企業が複数出展していることも、昨年との違いだ。東北大学発のスタートアップであるエレベーションスペースは、人工衛星内に複数の装置を載せ、動物実験や製造などが行える小型宇宙利用・回収プラットフォーム「ELS-R」を開発している。現在、2026年の打ち上げを予定して開発を進めている。

エレベーションスペースが開発する小型宇宙利用・回収プラットフォーム「ELS-R」は、手前のカプセルの部分だけが地球に戻ってくる

また、デジタルブラストが開発しているのは、2024年の国際宇宙ステーション(ISS)への設置・運用を目指す、小型ライフサイエンス実験装置「AMAZ(アマツ)」だ。装置の一部を回転させることで生じる遠心力を利用して、月面と同じ地球の6分の1の重力を発生させる。さらに、回転速度を変更してさまざまな重力環境を再現しながら、植物の栽培や培養など、重力が生物に与える影響を調べることができる。

デジタルブラストが開発した重力が生物に与える影響を調べる装置

宇宙ビジネスを支援する自治体の出展も

昨年も出展していた北海道、大分県に加えて、今回は福岡県と山口県が自治体ブースを出展していた。北海道と大分県はそれぞれ、スペースポート(宇宙港)を中心としたエコシステムの創出に取り組む姿勢を紹介。北海道は、すでにロケットの打ち上げ実績がある国内3番目の発射場として、大樹町を中心に全道における宇宙関連産業の誘致などに取り組んでいる。また、大分県はヴァージン・オービットなどの企業と連携し、水平型宇宙港「ドリームポートおおいた」の実現に向けた取り組みを進めている。さらに、大分空港に離着陸する宇宙港を核としたエコシステムや周辺ビジネス創出のほか、宇宙旅行の支援や宇宙を活用した教育活動などにも取り組んでいる。

今回は宇宙ビジネスを支援する自治体として、北海道と大分県に加えて福岡県と山口県が出展

2020年から県内企業の宇宙ビジネスへの参入と宇宙関連製品・サービス創出のために「福岡県宇宙ビジネス研究会」を産学官で発足した福岡県は、ハードウェア(宇宙関連機器開発)やソフトウェア(衛星データの利用)の両面から宇宙ビジネスを支援する。山口県でも、機械加工や板金、溶接、熱処理、3Dプリント造形などに関わる県内のモノづくり企業6社が「山口県航空宇宙クラスター」を形成。宇宙機や人工衛星などで必要になる、さまざまな部品の精密加工に対応するほか、ロケットを気球で成層圏まで運んで発射する空中発射方式に関わる装置の開発などに取り組んでいる。

山口県航空宇宙クラスターによる精密加工部品のサンプル

 

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元田光一 [Koichi Motoda]日本版 ライター
サイエンスライター。日本ソフトバンク(現ソフトバンク)でソフトウェアのマニュアル制作に携わった後、理工学系出版社オーム社にて書籍の編集、月刊誌の取材・執筆の経験を積む。現在、ICTからエレクトロニクス、AI、ロボット、地球環境、素粒子物理学まで、幅広い分野で「難しい専門知識をだれでもが理解できるように解説するエキスパート」として活躍。
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