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夢のタイムマシン、二酸化炭素回収技術は実用化に時間
Climeworks
How carbon removal technology is like a time machine

夢のタイムマシン、二酸化炭素回収技術は実用化に時間

大気中から二酸化炭素を直接吸収する技術は、気候変動対策の1つとして大きな期待を集めており、すでに商業プラントを運用している企業もある。だが、現時点でこの技術を使って大気から取り除ける二酸化炭素の量はほんのわずかだ。 by Casey Crownhart2023.12.20

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

もしも過去に戻れるとしたら、自分の人生や世界のどんなことを変えたいだろうか?

過去の自分自身に、必要なアドバイスを与えるというアイデアは非常に魅力的だ。だが、もっと大きなスケールで考えてみよう。例えば、気候変動の原因となる二酸化炭素排出の時計の針を巻き戻すというのはどうだろうか?

化石燃料を燃やすことで、人類はギガトン単位の温室効果ガスを排出してきた。地球温暖化の原因となるこのような温室効果ガスの排出量を抑え、最終的には止めるために私たちができること(しなければならないこと)はたくさんある。しかし、二酸化炭素除去テクノロジーには別の可能性がある。時計の針を巻き戻せるのだ。

あくまでたとえ話だ。二酸化炭素除去テクノロジーは、実際に過去に戻すことはできない。しかし二酸化炭素除去、特に排出量を大幅に削減するために必要な規模について考えるときのこのタイムマシンのたとえ話は、最近の記事で私がインタビューした、ハワイ大学マノア校の気候学者であるデビッド・ホー教授のお気に入りの話なのだ。 そこで今回は、私たちの過ち(とにかく、温室効果ガスの排出に関連したもの)を帳消しにするために、二酸化炭素の除去には何が必要かを考えてみることにしよう。

最新版の「世界の CO2収支(Global Carbon Budget)」によると、化石燃料による二酸化炭素排出量は新記録を達成する勢いであり、今年の世界の総排出量は368億トンに達する見込みとなっている。

このレポートは今年初めて、二酸化炭素除去テクノロジーによって大気からどれだけの二酸化炭素が吸い取られたかを示す数字を掲載した。2023年の二酸化炭素除去量は、合計約1万トンになると予想されている。

これは確かに大幅な減少だが、ホー教授が指摘するように、具体的にどのくらいの減少したのかは少し把握しにくい。「人間は(私も含めて)何千、何百万、何十億の差といった大きな桁の値を理解するのには苦労すると思います」とホー教授はメールで述べている。

ホー教授が思い付いた解決策の1つは、物事を時間の観点から捉えることだ。これは私たちが直感的に把握できるものであり、大きな数字を理解しやすくすることができる方法だ。たとえば、1000秒は約17分だ。100万秒は約11日。10億秒は約32年といった具合だ。

時間のほうが理解しやすいため、ホー教授は二酸化炭素除去について話すときに、タイムマシンの話を引き合いに出すことがよくある。「私の目標は、人々に問題の大きさを理解してもらい、『解決策』を本質的に捉えてもらうのを助けることです」とホー教授は話している。

それではすべての二酸化炭素除去テクノロジーが、除去した量に応じて時計の針を巻き戻す、1つの大きなタイムマシンであると想像してみよう。世界が1年間に400億トン弱の二酸化炭素を排出している場合、今年の二酸化炭素の総除去量は、どれくらいの時間を遡ることに相当するのだろうか? 現時点では、その答えは10秒ほどだ。

気候変動による最悪の影響を回避するには、最終的には温室効果ガスの排出量を正味ゼロにする必要がある。そして、10秒では1年分の排出量をゼロにするには、程遠いことは明らかだ。このタイムマシンの効果を高めるためには、二酸化炭素除去テクノロジーをスケールアップすることと、そして排出量を大幅に削減することの2つが必要だ。

二酸化炭素除去テクノロジーがより効果的なタイムマシンになるまでには、おそらく非常に長い時間がかかるだろう。それには解決すべき技術的、物流的、経済的な課題がある。また、アイスランドのクライムワークス(Climeworks)の直接空気回収プラント(DAC)のような初期プロジェクトは、まだ足がかりを得ようとしている段階だ。

「大きな進歩を遂げるには何年もかかるでしょう。だからこそ今すぐ始めるべきなのです」とホー教授は述べている。そして、以上の事実すべてを把握する一方で、今は脱炭素化に焦点を当てるのに良い時期だとホー教授は付け加えた。すでに利用可能になっている道具を使えば、温室効果ガスの排出量を削減することは可能なのだ。そうすることで、二酸化炭素除去テクノロジーが排出ガスを浄化する際に重要な役割を果たすことが、もう少し現実的な話になってくる。

大規模なプロジェクトがどれほど大きな影響を与えるかなど、さらに詳しく知りたい場合は、今年4月にネイチャー(Nature)に掲載されたデビッド・ホー教授の記事を読んでほしい。

MITテクノロジーレビューの関連記事

二酸化炭素除去によって回収できる二酸化炭素の量は、化石燃料による二酸化炭素排出量の100万分の1よりも大幅に少ない。詳細はこちらの記事で確認できる。

スタートアップ企業のクライムワークスは、直接空気回収技術の認知度を高めている主要な企業の1つだ。本誌は、今年の「気候テック企業15」のリストにクライムワークスを選出している。

米国エネルギー省は、二酸化炭素除去テクノロジーに多額の資金を投入している。本誌のジェームス・テンプル編集者が取材したように、米国エネルギー省は今年、このテクノロジーに10億ドルを超える資金を提供すると発表している。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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