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史上最も暑かった2023年、気候変動の「良い話題」を振り返る
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There was some good climate news in 2023. Really.

史上最も暑かった2023年、気候変動の「良い話題」を振り返る

観測史上もっとも暑い1年となった2023年は、気候変動に関する悪いニュースが目立つ一方で、将来に向けた良い取り組みの話題もあった。本誌の気候変動担当記者が振り返る。 by June Kim2023.12.25

2023年は、気候変動に関する悪いニュースが相次いだ年だった。

今年は観測史上最も暑い1年となった。1月から11月までの平均気温は産業革命以前に比べて1.46℃高かった。一方、化石燃料からの温室効果ガス排出量は過去最高を記録し、2022年より1.1%多い368億トンの二酸化炭素が排出された。

科学者たちは、世界が危険な温暖化レベルを回避するための猶予が失われつつあると声高に警告している。見通しは暗い。だが、見方を変えれば、暗闇に何本かの光が差し込んでいることにも気づくはずだ。

気候変動対策に役立つ新しいテクノロジーが誕生している。ヒートポンプや太陽光発電パネル、電気自動車(EV)など、さまざまなテクノロジーが市場に出回り、価格も安くなっている。気候政策にも進展がみられた。テクノロジー開発を支援するインセンティブから、汚染に関するルール作りなど多岐にわたる。そして、最も脆弱な国々が気候変動に適応できるよう支援する取り組みも拡大しつつある。

この記事では、2023年にMITテクノロジーレビューの気候変動担当記者が見出した光を紹介しよう。

加速するEV

EVに関しては朗報が相次いでいる。MITテクノロジーレビューは1月に発表した2023年版「ブレークスルー・テクノロジー10」の1つに「避けられないEVシフト」を選出し、強力な政策支援とサプライチェーンの拡大が相まって、このテクノロジーの重要性が改めて高まりつつあると指摘した。

こうした傾向の大部分は2023年を通して勢いを保っており、気候変動対策にとって朗報となっている。輸送セクターは世界の排出量の20%近くを占めているからだ。

ブルームバーグNEFによると、EVは今年の自動車販売台数の15.5%を占める勢いだ。4100万台近くのバッテリーEVとプラグイン・ハイブリッド車(PHEV)が道路を走ることになる計算だ。国別のEV保有台数では中国が最も多く、世界全体の4分の1近くを占めている。

EVに電力を供給するバッテリーは、普及と低価格化が進んでいる。全世界のリチウムイオン電池の生産量は、2023年に30%以上増えた。価格は2022年にわずかに上昇したものの、2023年には再び下落し、年間での下落幅は2018年以降最大となった。

EVの成長は、多岐にわたる政策の後押しによって今後も続くことになるだろう。世界の一部の地域では、政府が化石燃料自動車からの乗り換えを義務付けた。欧州連合(EU)
英国は、2035年から販売する新車をゼロエミッション車に限定する法案を2023年に可決した。米国のいくつかの州も同様の政策を採用しており、2022年に先陣を切ったカリフォルニア州に続いて2023年は他の複数の州が追随した。

インセンティブも消費者をEVに向かわせる原動力となっている。米国のインフレ抑制法は、バッテリー製造、EV製造、鉱物加工の各業者に向けてさまざまな税額控除メニューを提供している。

良い兆候が多いが、楽観できることばかりではない。EVの販売台数の伸びは2022年から2023年の間に鈍化しており、一部自動車メーカーでは需要の変化を受けて、フォードF-150ライトニングのようなモデルの生産台数を減らしている。充電インフラの整備が遅れており、信頼性が低いことも、EV普及に向けた大きな障壁の1つになっている。

自動車は記録的なペースで売れており、道路交通からの排出量も依然として増加を続けている。EVの販売を加速させなければ、輸送セクターが気候変動に及ぼす影響に歯止めをかけることはできない。だが、EVに関係するこれまでの進歩は、気候変動に配慮したテクノロジーが選択肢として主流になりつつあることを示しており、心強いニュースと言えるだろう。2024年もこの調子で勢いが続くことを祈りたい。

(ケイシー・クラウンハート=米国版  気候変動担当記者)

メタンガス規制を推進する各国政府と企業

気候変動という困難な課題に対して、もう一つ心強い進展と言える話題がある。メタンガスによる汚染の軽減が、今後の地球温暖化の進行を抑制する上で有効な手段の一つであるという認識が広がっていることだ。

排出量の多さゆえ、長らく二酸化炭素が注目を浴びていた一方で、メタンガスはその陰に隠れていた。しかし、メタンガスの温室効果は20年で約80倍にもなり、産業革命以降の温暖化に対する責任は少なくとも全体の25%を占める。

同時に、メタンガスは大気中での分解速度もはるかに速い。これらの性質を合わせて考えると、メタンガス排出量を速やかに削減すれば、気候変動に多大な影響を与えることができ、今世紀半ばまでの気温上昇分を0.25℃下げられる可能性がある。地球の平均気温の上昇を2℃未満に抑えられるか否かの分かれ目となり得るのだ。

だから、米国環境保護庁長官が先日のCOP28で、石油・ガス会社に対し、パイプライン、油井、その他設備のメタン排出量を監視し、ガス抜き、ガスフレア、漏出の大幅削減を義務づけることを近く予定しているとようやく発表したのを聞いた時には、励まされる思いだった。

汚染物質が経済的価値を生まないことを考えれば、上記の排出規制は、米連邦政府が産業界に対してできる要求としては、最低限のものだ。それでもこの動きは、2038年までに約15億トンの二酸化炭素に相当する平均気温の上昇を防ぐという目標に向けた、確かな一歩ではあった。

COP28では、メタンガスに関してほかにも良いニュースがあった。BP、エクソンモービル、サウジアラムコなどの大手石油・ガス会社が共同で、2030年までにメタンガス排出量を少なくとも80%削減することを約束した。さらに、世界的なメタン排出量を2030年までに20年比で30%削減する国際的取り組みに新たに加わった国もあった。その他の国でも、削減量や投資額を引き上げる動きがあった。

世界では、主要なメタン汚染源をより効果的に監視・報告し、農地や埋立地からの排出を削減するための取り組みが強化されつつあり、今回の諸々の動きはいずれもそれに加わる形となった。

気候変動に関連する他の問題への取り組みと同様に、上述のメタンガス対策も、いずれも十分とは言えない。多くは自主的なものに過ぎず、厄介な問題が山積している。だが、これらの発表は、ほかの進展の兆しとともに、徐々に積み重なって、より明るい未来へとつながろうとしている。同時に、私たちがより多くのことを成し遂げられると思い出させてくれる。

(ジェームス・テンプル=米国版 エネルギー担当上級編集者)

「損失と損害」基金が運用開始

世界が排出量を削減しようと躍起になっている一方で、気候変動による損害が現在進行形で起きていることはますます明らかになっており、山火事、洪水、熱波がニュースの見出しを飾っている。

そのため、COP28の始めに、このような問題への対応に苦慮している脆弱な国々にとって歴史的なマイルストーンが打ち立てられたことは歓迎すべきニュースだった。長らく待ち望まれていた「損失と損害」基金の正式な運用開始について、会議初日に各国が合意したのだ。

歴史的に見ると、異常気象やそれに関連する災害を悪化させている排出量の大部分は、米国、ドイツ、英国などの一握りの先進国によるものだ。そして今、これら先進国はその(名目上の)負債を償うこととなった。

基金の目的は、気候災害による被害の拡大に対処するために、貧困国や発展途上国を支援することである。支援対象国の多くは、排出量への寄与が最も小さな国々であると同時に、気候変動の影響に対して最も脆弱な国々でもあり、影響を緩和するための資源が不足していることが多い。基金は、干ばつや洪水などの災害が起きた後の復興を支援し、対象国が将来の大災害に耐えられるように、能力向上を手助けできる。

基金への拠出額について活動家らはすでに批判しており、その額は今のところ当事国のニーズに比べれば微々たるものだという声もある。彼らの見積もりによれば、現在の拠出額は気候災害によって発展途上国が被る潜在的な経済的損失の年間額の0.2%にも満たない。

12月12日のCOP28閉幕までに、参加国は合計8億ドル近くの拠出を約束した。アラブ首長国連邦とドイツはそれぞれ1億ドル、英国は7500万ドル、米国は1750万ドルを拠出した。大きな金額に聞こえるが、これをスポーツにたとえて説明するもいる。12月9日にプロ野球選手の大谷翔平はロサンゼルス・ドジャースと総額7億ドルの契約にサインした。気候変動に対処するための世界的な取り組みが、スポーツチームが1人のアスリートに費やす金額とほぼ同じという事実は、世界的に恥ずべきことだ。

国際環境開発研究所(International Institute for Environment and Development)の主席研究員であるリトゥ・バラドワージは、「先進国は、自分自身とこれまでの行動をよく見つめ直す必要がある」と述べている。

とはいえ、基金は気候変動に対する回復力の格差是正に向けた一歩であることに変わりはない。基金が次に目を向けるべき焦点は、公約の規模拡大を今後も続け、必要とする人たちがより使いやすくすることだ。

(ジューン・キム=米国版 新進ジャーナリスト・フェロー)

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I’m an Editorial Fellow at MIT Technology Review, reporting on the intersection of climate, energy, and technology. I’m passionate about using data and graphics to tell compelling human stories. Previously, I produced broadcast and multimedia news at various media organizations in the United States and South Korea, covering topics ranging from immigration to music to public health.
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