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AIとの融合で家事ロボットがいま再び注目される理由
Stephanie Arnett/MITTR | Envato
Why everyone's excited about household robots again

AIとの融合で家事ロボットがいま再び注目される理由

雑用をこなせる家庭用ロボットの開発は、長年にわたるロボット工学者の目標であり、いまだ実現していない夢である。だが、近年の人工知能(AI)の成果を取り入れることで、この夢の実現に少しずつ近づきつつある。 by Melissa Heikkilä2024.01.19

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

私の家には恥ずべき椅子がある。寝室の椅子の上に、洗濯するほどには汚れていない着用済みの服を積み上げているのだ。夜、寝るときに、それらの服を畳んで片付けるのは、説明できないような理由で著しく負担に感じる。そこで、「後で」やることにして椅子の上に投げ捨てている。椅子が服の山で覆われる前に、この仕事を自動化できるなら、大金を払ってもいい。

人工知能(AI)のおかげで、私たちは雑用をこなせる家庭用ロボットの目標に向かい、少しずつ前進している。私たちが気楽に作業を任せることができる、本当に役に立つ家庭用ロボットを作ることは、何十年も前から存在するSFの空想であり、多くのロボット工学者の最終目標である。しかし、ロボットは不器用で、私たちが簡単に感じることでもこなすのに苦労する。手術のように非常に複雑なことができる種類のロボットは、何十万ドルもすることが多く、法外に高価だ。

私はつい最近、スタンフォード大学の新たなロボット工学システム「モバイル・アロハ(Mobile ALOHA)」に関する記事を公開した。研究者たちはこのシステムを利用して、信じられないほど複雑なことをいくつか、安価な既製品の車輪付きロボットに自力でやらせた。エビの調理、表面の汚れの拭き取り、椅子の移動などである。さらに、3品のコース料理を作らせることにも成功した(ただし、人間の監視付きだ)。 詳細はこちらの記事を読んでほしい

ロボット工学は転換期を迎えていると、このプロジェクトの顧問を務めたスタンフォード大学のチェルシー・フィン助教授は言う。これまで研究者たちは、ロボットの訓練に利用できるデータ量の制約を受けていた。今では利用可能なデータが大幅に増えた。ニューラル・ネットワークとより多くのデータがあれば、ロボットは複雑なタスクをかなり迅速かつ容易に学習できることを、モバイルALOHAのような研究が示しているとフィン助教授は言う。

チャットボットを動かしている大規模言語モデルのようなAIモデルは、インターネットからかき集められた膨大なデータセットで訓練されるが、ロボットは物理的に収集されたデータで訓練する必要がある。そのことが、大量のデータセットの構築を非常に難しくしている。ニューヨーク大学とメタの研究者チームは最近、この問題を回避できるシンプルで賢い方法を考えだした。マジックハンドに取り付けたアイフォーン(iPhone)を使い、自宅でタスクをこなしているボランティアの様子を記録したのだ。その後、「ドビー(Dobb-E)」と呼ばれるシステムを訓練し、100以上の家事を約20分で完了させることに成功した (詳しくはこちらの記事で読むことができる)。

ロボット工学のコミュニティには、そのようなタスクをこなすロボットの能力を妨げているのは、主にハードウェアの欠点であるという信念がある。モバイルALOHAは、その信念を覆すものでもあると、カーネギーメロン大学のディーパック・パタック助教授は言う(同助教授はモバイルALOHAの研究には参加していない)。「欠けているピースはAIです」。

AIはまた、口頭での命令にロボットを反応させたり、しばしば物が散らかっている現実世界の環境にロボットが適応するのを支援したりすることでも、有望視されている。たとえば、グーグルの「RT-2」システムは、ロボットと視覚-言語-行動モデルを組み合わせている。これにより、ロボットは世界を「見て」分析し、口頭での指示に反応して動くことができる。ディープマインド(DeepMind)の新たなシステム「オートRT(AutoRT)」は、同様の視覚-言語モデルを使用してロボットが見知らぬ環境に適応するのを支援し、大規模言語モデルを使用して一群のロボットに対する指示を生成する。 

次は悪い知らせだ。最先端のロボットでも、まだ洗濯はできない。洗濯はロボットにとって、人間がやるよりも難しい作業である。クシャクシャになった衣服は奇妙な形になっており、ロボットにとっては処理したり扱ったりするのが難しい。

しかし、それも時間の問題かもしれないと、研究チームの一員であるスタンフォード大学の大学院生、トニー・ザオは言う。ザオは、この最も厄介なタスクでさえ、いつかはAIを使ってロボットに習得させることができるようになると楽観視している。まず必要なのは、データを集めることだけだ。ということは、私と私の椅子にも希望があるのかもしれない。

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メリッサ・ヘイッキラ [Melissa Heikkilä]米国版 AI担当上級記者
MITテクノロジーレビューの上級記者として、人工知能とそれがどのように社会を変えていくかを取材している。MITテクノロジーレビュー入社以前は『ポリティコ(POLITICO)』でAI政策や政治関連の記事を執筆していた。英エコノミスト誌での勤務、ニュースキャスターとしての経験も持つ。2020年にフォーブス誌の「30 Under 30」(欧州メディア部門)に選出された。
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