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レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由
Simon Landrein
How thermal batteries are heating up energy storage

レンガにエネルギーを蓄える「熱電池」に熱視線が注がれる理由

MITテクノロジーレビューの読者投票で、2024年のブレークスルー・テクノロジーの次点に熱電池が選ばれた。なぜ熱電池がいま注目されているのか。 by Casey Crownhart2024.04.17

鉄の棒からケチャップのパックに至るまで、熱はあらゆるものを作るために必要だ。驚くべきことに今日、世界のエネルギー需要の20%は産業で使用される熱の生産に使われており、その熱のほとんどは化石燃料の燃焼によって生成されている。現在、産業をクリーン化するための取り組みとして、熱電池と呼ばれるテクノロジーでその熱を供給しようとする企業が増えている。

熱電池は非常に刺激的なアイデアであり、MITテクノロジーレビュー(米国版)の読者投票で、2024年の「ブレークスルー・テクノロジー10」の次点(11番目)に選ばれたほどだ。では、この盛り上がりとは一体何なのか、詳しく見てみよう。

熱エネルギーをちょ属するというアイデアは新しいものではない。鉄鋼メーカーは、200年近く前から廃熱を回収して燃料需要の削減に利用してきた。しかし、送電網の変化とテクノロジーの進歩がこの分野への関心を徐々に高めている。「これは注目度の高い分野です」とエネルギー・気候政策関連の調査会社であるエネルギー・イノベーション(Energy Innovation)の産業部門上級部長、ジェフリー・リスマンは話す。

風力や太陽光などの再生可能エネルギーの価格は、過去10年間で劇的に下落した。しかし、これらの電源は安定性に掛け、天気や季節の影響を受けてしまう。そのため、安価な再生可能エネルギーの台頭と並行して、安定した電源を必要とする用途のために、そのエネルギーを貯蔵する方法を見つけようとする動きが出てきたのだ。

熱エネルギー貯蔵は、安価だが断続的な再生可能電力と、熱を大量に消費する産業プロセスを結びつけられるかもしれない。これらのシステムは電気を熱に変換し、一般的な電池のようにエネルギーを貯蔵して、必要に応じて放出できる。

ロンド・エナジー(Rondo Energy)は、熱電池の製造と普及に取り組んでいる企業の1つだ。同社の蓄熱システムは、抵抗ヒーターを利用するものだ。スペース・ヒーター(屋内の任意の場所に置ける暖房器)やトースターと同じ方法で電気を熱に変えるものだが、抵抗ヒーターは規模が大きく、はるかに高い温度に達する。その熱は、注意深く設計・配置され積み重ねられたレンガを暖めるために使用される。このレンガが後で使うための熱を蓄えるのだ。高温のレンガに吹きつけられた空気は、蒸気の発生や、機器を直接加熱するのに使われる。

一般的な材料を使用し、既存の設備と一緒に使用できる装置を設計することで、ロンド・エナジーは自社のテクノロジーがコスト重視の部門に導入可能であることを示そうとしている。「私たちは今、この方法が経済的であることを証明しています」。同社のジョン・オドネル最高経営責任者(CEO)は話す。

ロンド・エナジーは、2023年3月からカリフォルニア州のエタノール工場で初の商用試験運転を実施中だ。同社はまた、すでに拡張計画を発表している台湾の工場で機器を製造し、規模を拡大しつつある。

最近発表された飲料会社ディアジオ(Diageo)とのプロジェクトでは、ロンド・エナジーの熱電池が、ディアジオのブライトバーボンを製造するケンタッキー州のウイスキー蒸留所と、他の1施設に導入される。3月、このプロジェクトは米国エネルギー省の支援を受け、産業排出ガスの浄化を推進する大規模な取り組みの一環として、7500万ドルの資金提供を受けることになった。

ロンド・エナジー以外にも、熱電池の分野に挑戦している企業は複数存在する。この分野では現在、溶融塩や金属、砕いた岩石など、あらゆるものを使って熱を貯蔵しようとする多くの企業が活動している。

エレクトリファイド・サーマル・ソリューションズ(Electrified Thermal Solutions)は、熱伝導性レンガを発熱体と蓄電媒体の両方に使用する熱電池を製造している。このレンガに電流を流すと、別の部品を必要とすることなく熱を生み出せる。アントラ・パワー(Antora Power)も同様に、炭素ベースのブロックを使って熱を発生させ、同時に蓄える。同社はまた、サーモ光起電テクノロジーを使用することで、その熱を電気へと戻すことも目指している。

多くの企業が産業施設に貯蔵ソリューションを導入し、熱や電気、あるいはその両方を供給したいと考えている。一方、送電網ベースのエネルギー貯蔵の提供を目指している企業もある。2018年にX(旧グーグルX)からスピンアウトしたマルタ(Malta)は、電気を取り込み、そのエネルギーを溶融塩システムに熱として蓄え、送電網で使用するために電気を再生成するテクノロジーを構築している。

ブレンミラー・エナジー(Brenmiller Energy)は、熱エネルギー貯蔵業界における最も経験豊富な企業の1つだ。2011年に設立された同社は、砕石を使って熱を蓄えるモジュラー(組み立て式)システムを製造している。同社のテクノロジーは現在、自社のテクノロジーを飲料メーカーや病院を含む複数の施設で稼働している。

産業界の二酸化炭素排出量削減に一役買うためには、熱エネルギー貯蔵システムを構築する企業は迅速に規模を拡大する必要がある。また、熱を発生させる新しい方法について顧客を納得させる必要があるが、保守的になりがちな業界では難しい仕事かもしれないと、ブレンミラー・エナジーのドロン・ブレンミラー最高業務責任者は話す。産業用熱の需要は今後10年間は伸び続けると予想されており、よりクリーンな選択肢を見つけることが急務となっている。熱電池は、排出量削減の取り組みが活気づく中、工場の稼働を維持するための重要な戦略となる可能性があるだろう。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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