KADOKAWA Technology Review
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グリーン鉄鋼で温室効果ガス削減、自動車産業が果たす意外な役割
Mercedes-Benz AG
How the auto industry could steer the world toward green steel

グリーン鉄鋼で温室効果ガス削減、自動車産業が果たす意外な役割

鉄鋼生産で排出される温室効果ガスは現在、世界全体の排出量の7%を占めている。排出量の少ないグリーンスチールはまだ高価だが、自動車の場合は価格にさほど上乗せすることなく採用できるかもしれない。 by Casey Crownhart2024.08.16

この記事の3つのポイント
  1. 鉄鋼生産は温室効果ガス排出量の約7%を占める
  2. 自動車産業は環境に優しい鉄鋼の初期市場として有望
  3. グリーンスチールを使えば車の製造に伴う排出量を27%削減できる
summarized by Claude 3

鉄鋼は私たちの世界の骨組みとなり、建物や機械を支えている。だが同時に、鉄鋼生産の大部分は汚染性の高い化石燃料に依存しているため、気候変動に対する大きな課題にもなっている。自動車産業は、この状況を好転させるのに重要な役割を果たす可能性がある。

鉄鋼生産は現在、世界の温室効果ガス排出量の約7%を占めている。排出量を劇的に削減しながら鉄鋼を生産できる技術は増え続けているが、まだ開発中のものもあり、高くつく場合も多い。新たな報告書によれば、自動車産業は、業界の主要なプレーヤーであり、より高価な材料に切り替えても新車のコストは1%足らずしか上がらないため、こうした技術の初期市場として有望である。

温室効果ガス排出量を削減しながら、鉄鋼を経済的に生産する方法を見つけることは、自動車産業にとって大きな課題である。環境に優しい鉄鋼を採用する自動車メーカーは、顧客離れを招くことなく、より気候変動に優しい材料を市場に投入する方法の青写真を示すことができるだろう。

自動車メーカーは多くの鉄鋼を使用しているため、業界の脱炭素化を主導するチャンスがあると、国際クリーン交通委員会(ICCT:International Council on Clean Transportation)で米国の乗用車に関する研究を指揮するアナリストのピーター・スロウィックは言う。

世界の鉄鋼生産の約12%は自動車産業に使用されており、地域によってはその割合がかなり高い。米国で生産される一次(非リサイクル)鋼の約60%は自動車製造に使用されている。この非リサイクル鋼は、リサイクル鋼よりも温室効果ガスの排出量が多い。そのため、非リサイクル材を主に使用する自動車産業で環境に優しい鉄鋼に切り替えることは、非常に大きな影響を与えることになる。

今日、鉄鋼を製造するには、製鋼業者は、鉄鉱石を鉄鋼に変える化学反応を促進するために石炭などの化石燃料を使用し、原料を高温に加熱する必要がある。しかし、新規および既存の工場に二酸化炭素回収技術を追加したり、化石燃料の代わりに電力に依存する新技術を導入したりする努力を含め、より低排出で鉄鋼を製造する方法は増え続けている。

温室効果ガス排出量の少ない鉄鋼を製造する有力な候補のひとつは、石炭の代わりに水素を燃料として化学反応を起こす直接還元法と呼ばれるプロセスである。このときに使う水素を再生可能エネルギーやその他の低炭素エネルギー源で製造すれば、排出量を最大95%削減した鉄鋼生産が可能になる。

ICCTの報告書によれば、鉄鋼は自動車製造が気候変動に与える影響の大部分を占めており、グリーンスチールに置き換えることで、自動車製造に伴う排出量を27%削減できるという。

また、この材料はコストを劇的に上昇させることもない。「一般的に、自動車のコストにさほど上乗せされることはないでしょう」とスロウィックは言う。

H2グリーンスチール(H2 Green Steel)は現在、2026年までに250万トンの鉄鋼を生産する世界最大の低排出製鉄工場を建設中だ。同社は、その製品のコストは従来の鋼鉄よりも20%から30%高くなると発表している。その場合、自動車の材料費はおよそ100ドルから200ドル上乗せされるが、合計しても平均的な自動車の1%未満となる。

欧州の自動車製造における鉄鋼を調査した別の最近の報告書では、専門家は、水素を動力源とするプロセスで製造された鉄鋼のみで作られた自動車の追加コストは、2030年にわずか105ユーロ(約115ドル)になるとしている。そして、そのわずかなコスト増でさえ、将来的に生産量が増えてコストが下がれば、なくなる可能性がある。

「比較的高価な自動車、特にプレミアム・ブランドの自動車は、環境に優しい鋼鉄の短期的なグリーンプレミアムを吸収できるということでもあります」と、欧州運輸環境連盟(European Federation for Transport and Environment)の自動車政策部長、アレックス・ケインズはメールで述べた。

同じ原理は、鉄鋼を使った他の一般的な製品にも当てはまるかもしれない。Webサイト『Our World in Data(データで見る私たちの世界)』の副編集長であるデータサイエンティスト、ハンナ・リッチーの試算では、住宅にグリーンスチールを使用した場合の追加コストは、購入価格の1%未満となっている。

しかし、建築には建築家から建設業者、請負業者まで複雑な関係者が存在するため、気候変動に配慮した高価な材料を購入することは、より複雑な提案となる可能性がある。また、より多くの鋼材を必要とする大規模なプロジェクトでは、価格が大幅に上昇する可能性があり、そのような状況ではグリーンスチールは少なくとも現時点では手の届かないものとなるかもしれない。

自動車メーカーが鉄鋼メーカーからグリーンスチールを購入することを約束すれば、確実な急成長を後押しできる可能性があり、すでにそのような約束を取り付けた企業もある。2024年1月の時点で、H2グリーンスチールは、新工場の初期数年間における鉄鋼生産量の40%以上で、拘束力のある契約を結んでいる。

しかし、グリーン水素の将来的なコストや入手可能性に関する疑問など、業界が直面する課題はまだ残っているとケインズ部長は言う。燃料の生産を奨励するための補助金から規制まで、政策措置は、環境に優しい鉄鋼を自動車やその先に導入するために極めて重要である。

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ケーシー・クラウンハート [Casey Crownhart]米国版 気候変動担当記者
MITテクノロジーレビューの気候変動担当記者として、再生可能エネルギー、輸送、テクノロジーによる気候変動対策について取材している。科学・環境ジャーナリストとして、ポピュラーサイエンスやアトラス・オブスキュラなどでも執筆。材料科学の研究者からジャーナリストに転身した。
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