息でチェック、健康状態をリアルタイムで監視するスマートマスク
呼気の生体指標をリアルタイムでモニタリングして健康状態を把握できるマスクをカリフォルニア工科大学が開発した。医療用以外にも、飲酒検査などさまざまな用途が考えられるという。 by Scott J Mulligan2024.09.09
- この記事の3つのポイント
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- 呼気から健康状態を知るスマートマスクが開発された
- 呼気を冷却し液体化することで分析を容易にしている
- 慢性疾患患者の症状や飲酒の検出などさまざまな用途が期待される
人間の息からはたくさんのことが分かる。それぞれの呼気にはさまざまな種類の化合物が含まれており、そこには病気や肺の状態が分かるかもしれない生体指標もある。その指標から、医師は健康状態に関する貴重な知見を得られる可能性があるのだ。
カリフォルニア工科大学のチームが開発した新たなスマートマスクを使えば、医師は非侵襲的に呼気を調べ、そうした兆候を継続的に監視できる。患者は家でマスクを装着して自分の状態を測定し、突発的な症状が起こりそうになったら診察を受けに行ける。
「炎症がどれくらい深刻か調べるのに病院に来る必要はありません」。スマートマスクの開発者の1人である、ウェイ・ガオ教授(医用工学)はそう語る。「命を救うこともできるでしょう」。
マスクの詳細は、8月29日にサイエンス誌に掲載された。このマスクは、装着者の息を冷却するため、2つの部分から成るシステムを採用している。息は冷却されて呼気凝縮液(EBC:exhaled breath condensate)になる。
EBCは基本的には液体状の呼気のことであり、分析がしやすい。亜硝酸塩やアルコールなどの生体指標の濃度は気体よりも液体で高くなるからだ。マスクの仕組みは植物の毛細管の機能からヒントを得たもので、連続的なマイクロ流体モジュールを使用している。モジュールによって圧力が生み出され、EBCがマスクのセンサーの周囲に押し出される仕組みだ。
センサーはBluetooth経由でスマートフォンなどの機器とつながっており、患者はリアルタイムの健康データを確認できる。
「リアルタイムのサンプル収集が常に最大の課題でしたが、その問題は解決されました。これは劇的な変化です」。セントルイス・ワシントン大学環境・化学工学部のラジャン・チャクラバルティ教授(今回の研究には不参加)はそう語る。
カリフォルニア工科大学のチームは患者でスマートマスクをテストした。慢性閉塞性肺疾患(COPD)やぜんそくの患者、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復したばかりの人も何人か含まれていた。快適性や通気性が調べられたほか、運動や仕事といった患者の日常活動において有益な生体指標が実際に得られるかどうかも確認された。
その結果、気管に炎症が起こるぜんそくなどの症状を抱える患者において、高いレベルの亜硝酸塩が検出された。外での飲酒から帰宅した後には高いアルコール値が検出されたが、これはマスクの別の用途の可能性を示すものだ。このような呼気の分析は、機器に息を吹き込む方式の標準的な飲酒検査よりも精度が高い。吹き込む方式では唾液中のアルコールが排出されるため、不正確な結果になることがある。
研究者たちは、今回の成果を最初の一歩にしようとしている。より大きな集団でマスクをテストし、問題がなければ商品化して、広く使ってもらうことを計画している。生体指標を測定するさまざまなセンサーを組み込んだり外したりして、さらに広い用途で使用できるプラットフォームにしようと考えているのだ。
「すでに装着してあるセンサーを取り外して自分のセンサーを取り付けられるようにしたら、あらゆる種類の進化を実現する構成要素になれるのではないかと思います」。ニューヨーク州立大学バッファロー校の医用生体工学部長であるアルバート・タイタス教授(今回の研究には参加していない)はそう語る。「そうしたことが実現できるように発展してほしいですね」。
例えば、呼気中のケトン(これが多いことは糖尿病の兆候)や血糖値を測定して、糖尿病患者が自分の状態をモニタリングできるようにすることが考えられる。
「このマスクはさまざまな用途に再構成できます」とガオ教授は言う。
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- スコット・J・マリガン [Scott J Mulligan]米国版 AI担当記者
- 政策、ガバナンス、AIの内部構造などを取材するAI担当記者。AIに特化した若手ジャーナリスト育成プログラム「ターベル・フェローシップ(Tarbell Fellowship)」の支援を受けている。ヴァイス(VICE)ニュースでのドキュメンタリー映像制作、ビデオゲーム・デザイナーなどを経て現職。