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摘出した眼球を「生かす」装置、眼球移植への一歩に
Getty Images
 A device that revives eyeballs from dead donors could make eye transplants possible

摘出した眼球を「生かす」装置、眼球移植への一歩に

眼球全体の移植は難しい。摘出した瞬間から変性が始まり、これまで視力を取り戻せた例はない。スペインの研究チームは、その壁に挑む装置を開発した。酸素と栄養を含む液体を送り込み、摘出した眼球の変性を抑える装置だ。いつの日か、視覚機能を維持したまま眼球全体を移植できるようになるかもしれない。 by Jessica Hamzelou2026.07.07

この記事の3つのポイント
  1. 眼球を体外で灌流維持する装置ECaBoxが、摘出眼球の変性を抑え光反応能力を10時間以上保持することを実証した
  2. ブタ・人間の眼球実験で灌流処置群が非処置群より有意に高い生存能力を示し、眼球全体移植の技術的障壁を克服する可能性を示唆した
  3. 査読未完了かつ実際の移植での有効性は未検証であり、携帯型手術室用装置の開発など次フェーズの検証が課題となる
summarized by Claude 3

人間の眼球全体を移植することは容易ではない。手術は難しく、眼球そのものも体外に出た瞬間から変性が始まる。数年前に外科医たちが眼球全体の移植を試みた際も、移植された眼球は視力を回復できなかった。

しかし研究者たちは、解決策となり得る装置を開発したと考えている。それは、灌流(かんりゅう)と呼ばれる技術を用いて、摘出したばかりの眼球を維持・蘇生させる装置だ。灌流とは、外科的に摘出された臓器に、体内にあるときと同様の酸素や栄養素を供給する技術である。この処置を受けた眼球は変性が遅く、電気信号を伝達する能力、さらには視覚機能を保持している可能性も示されている。この装置は、いつの日か眼球移植を実現可能な選択肢にするかもしれない。

「本当に素晴らしい成果です」と語るのは、マサチューセッツ総合病院のシャノン・テシエ博士だ。テシエ博士は今回の研究には関与していないが、他の臓器の灌流を研究している。「網膜保存の新たなフロンティアになり得ます」。

スペインのバルセロナ科学技術研究所(Barcelona Institute of Science and Technology)ゲノム調節センター(Centre for Genomic Regulation)のピア・コスマ教授らは、この装置の開発に長年取り組んできた。彼らが「医療箱の中の眼球(Eye-in-a-Care-Box:ECaBox)」と呼ぶこの装置は、通常は眼球に血液を供給している動脈を通じて、酸素を豊富に含む液体を送り込む仕組みだ。

眼球は「ベッド」の上に置かれ、余分な液体は排出される。装置は特定の温度と圧力を維持するために密閉されているが、側面に透明な窓が設けられており、研究者は装置内の眼球を観察・撮影することができる。

コスマ教授らの研究チームは、まずブタの眼球を使った実験を始めた。ブタの眼球は解剖学的に人間の眼球と類似しており、入手も容易であるからだ(同チームは地元の食肉処理場から調達した)。

装置の外で室温に置かれたブタの眼球は、かなり速く変性し始める。チームの調査によると、眼球内の細胞が萎縮し、眼球の構造が失われていった。臓器を冷却しても保存効果はなく、4℃で保管しても24時間以内に変性が進んだ。

しかし、ECaBox内で保管された眼球の状態ははるかに良好だった。24時間後の検査では、灌流処置を受けた眼球は装置で維持されなかった眼球と比べて「有意に生存能力が高い」ことが示された。

灌流処置を受けた眼球は光に反応する能力も示しており、移植された場合に技術的には視覚機能を発揮できる可能性が示唆された。処置を受けていないブタの眼球は、動物から摘出された直後にこの能力を失う。しかし、この研究を手がけた科学者たちによれば、灌流開始から約15分後に能力が回復したという。処置を受けた眼球のいくつかは、10時間以上にわたって機能を維持し続けた。

コスマ教授らのチームはこの研究成果をプレプリント論文として発表したが、まだ査読はされておらず、研究についてのコメントは差し控えた。

ブタの眼球での成功を受け、チームは次に人間の眼球で装置の検証をした。まず、死亡した6人から計12個の眼球を採取した。それぞれのケースで、左右一対の眼球のうち一方を装置に入れ、もう一方は入れなかった。ここでも灌流処置を受けた眼球の状態が良好で、網膜が保存されていた。

コスマ教授らのチームは、この装置が科学者たちに眼科治療を研究する新たな手段を提供できると期待している。生きた動物を使った実験をせずに済む手段だ。また、ECaBoxにいくつかの改良を加えることで、眼球全体の移植に向けて提供された人間の眼球を維持・蘇生させる方法になり得るとも期待している。

眼球全体の移植は過去にも試みられてきたが、主に研究用動物を対象としたもので、成功は限定的だった。2023年5月、ニューヨーク大学ランゴーン(NYU Langone)のチームが、顔の一部とともに眼球を移植する手術を実施した。患者は2年前に高電圧の感電事故で顔の左側の大部分(左眼を含む)を失った男性だ。男性の回復は良好だったものの、移植された眼球で視力を得ることはできなかった。

ECaBoxで処置された眼球がより良い結果をもたらせるかどうかは、実際に移植が実施されるまでわからない、とテシエ博士は言う。

一方、コスマ教授らは、装置の新バージョンを使って研究用の人間の眼球をさらに収集する計画だ。「心臓が動いているドナーの眼球が提供された際に、変性を最小限に抑えられるよう、携帯型の手術室用ECaBoxの開発を進める予定です」と述べている。

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生物医学と生物工学を担当する上級記者。MITテクノロジーレビュー入社以前は、ニューサイエンティスト(New Scientist)誌で健康・医療科学担当記者を務めた。
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