KADOKAWA Technology Review
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気候テック15:台湾から世界を目指す、電動スクーターのゴゴロ
Gogoro
2024 Climate Tech Companies to Watch: Gogoro and its battery-swapping network for electric scooters

気候テック15:台湾から世界を目指す、電動スクーターのゴゴロ

台湾に電動スクーター用バッテリー交換ステーションのネットワークを構築したゴゴロは、インドや中国、フィリピンへのグローバル展開も推進。便利なだけでなく、環境に優しいエコシステムを供給している。 by Kavitha Yarlagadda2024.10.03

この記事の3つのポイント
  1. 台湾のゴゴロはバッテリー交換ステーションのネットワークを構築
  2. バッテリー交換によりスクーターの短時間での再走行が可能になった
  3. ゴゴロのステーションはバーチャル発電所としても機能する
summarized by Claude 3

電動移動手段(EV)は充電に時間がかかり、充電できる場所を見つけるのも困難だ。ゴゴロ(Gogoro)の革新的なテクノロジーは、世界中で増えつつあるバッテリー交換ステーションで、残量が低下したバッテリーを充電済みのバッテリーとすばやく簡単に交換する手段を提供している。 

2024年4月に台湾を襲ったマグニチュード7.4の地震は、台湾における過去100年以上で最大のものだった。地震発生後、数百カ所のゴゴロ(Gogoro)のバッテリー充電ステーションは、驚くべき反応を見せた。送電網への負担を軽減するため、自動的に電源を落としたのだ。その結果、送電網が完全に復旧するまで、数千軒もの家庭へ電力を供給するのに十分な電力を節約できた。台湾全土に設置された、人工知能(AI)を搭載したゴゴロのバッテリー交換ステーションのネットワークによって、人の手を介さずに送電網からの電力供給を停止したのだ。

EVへの移行における大きな課題は、どこでも素早く簡単に充電できるようにすることだ。充電ステーションを見つけるのは難しく、壁のコンセント(または標準的な充電器)に接続しても、バッテリーを完全に充電するのに何時間もかかることがある。ゴゴロは、スクーターの数が自動車の数をはるかに上回る台湾の各地に数百のバッテリー交換ステーションのネットワークを構築することで、こうした問題に対処した。スクーターでステーションまで行けば、その場で充電する代わりに新しいバッテリーを入手できる。これならガソリンを満タンにするよりも短時間で再走行が可能だ。

ゴゴロは現在、インド、中国、コロンビア、フィリピンなど、世界各国でこのシステムを展開している。成功の鍵は、ゴゴロが構築した完全なエコシステムにある。ゴゴロはスクーターとバッテリーの両方を製造しており、そのバッテリーは自社製スクーターだけでなく、ヤマハやスズキ、その他世界各地のメーカー製のスクーターにも電力を供給できる。また、ライドシェア・スクーターのレンタルも展開(震災後、台北の公共交通機関が復旧するまでの間、ゴゴロはスクーターの無料レンタルを実施した)。そして、世界3000カ所に設置された1万3000基以上のバッテリー交換ステーションによって、システム全体がつながり合っている。


基本データ

  • 産業:電動移動手段
  • 設立:2011年
  • 本社所在地:台湾・台北市
  • 特記事項:ゴゴロのバッテリー交換ステーションでは、空のバッテリーをフル充電のバッテリーと6秒以内に交換できる。

潜在的なインパクト

化石燃料からの脱却を進めるうえで重要な課題は、ガソリンの価格と入手のしやすさにいかに対抗するかだ。ゴゴロは、そのネットワークのおかげで、電動マイクロ・モビリティを便利で効率的かつ手頃なものにし、ガソリンに代わる真の選択肢を提供している。実際、台北ではいまやガソリンスタンドよりもゴゴロのステーションの方が多いほどだ。

ゴゴロのステーションは、便利なだけでなく、環境にも優しい。ゴゴロのステーションは、バーチャル発電所として機能でき、(夜間など)電力消費量が少ない時間帯に電力を取り込み、電力消費量が多い時間帯には送電網に電力を戻し、地震や台風などの緊急時にはバックアップ電力を供給することもできる。現在、1000カ所以上のゴゴロのステーションがこのような2つの役割を果たしている。

さらに、ゴゴロのバッテリーは、スクーターのバッテリーとしての寿命が尽きると、信号機や街灯、その他の電気インフラ用のバックアップ・バッテリーとして再利用できる。

留意点

ゴゴロが成長し、世界の二酸化炭素排出量に真の影響を与えるためには、台湾で成功したネットワークを世界中に構築する必要がある。これには非常に大きな資本が必要となる。また、ゴゴロは各国の政府と緊密に協力し、さまざまな規制に適合し、現地の消費者の好みに合わせてスクーターを再設計し、他のメーカーや送電事業者と連携する必要がある。ハードルは非常に高い。インドでの事業展開は、規制当局による補助金の適用要件の決定を待っており、遅れに直面している状況だ。また、ゴゴロは新しい市場では小さな規模でスタートできるが、同社のインフラがそこでの需要に追いつかなければ、顧客はフル充電されたバッテリーを見つけるのに苦労するだろう。

さらに、ゴゴロのモデルは人口密度の高い都市部ではうまく機能するが、郊外や地方では展開が難しい。特に米国やインドネシアのような国では、安価なガソリンがゴゴロの最大のライバルとなるだろう。

次のステップ

ゴゴロは新しい市場への進出を続けている、と同社のコミュニケーション担当副社長であるジェイソン・ゴードンは言う。「2023年後半にインドとフィリピンで事業を開始したのに続き、ゴゴロは2024年にコロンビアのボゴタ、シンガポール、ネパールで事業を開始し、拡大を続けています。今年後半にはチリのサンティアゴへの事業拡大を予定しています」。

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カヴィーサ・ヤルラガダ [Kavitha Yarlagadda]米国版 寄稿者
インド出身の独立系ジャーナリスト。環境、気候変動、健康、ジェンダー、社会開発について報道している。
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